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「風が語りかけます」埼玉の十万石幔頭をご存知ですか?

 先週、南浦和の改札前にあるコンビニの前に小さなテーブルが出されて埼玉銘菓「十万石幔頭」が売られていた。おそらくは埼玉県内の限定なのであろうが、画期的な展開だと驚いた。
 東京銘菓「ひよこ」(先般書いたが起源は福岡県飯塚市)、博多銘菓「博多とおりもん」等、ご当地の代表銘菓がある。埼玉で代表的な和菓子といえば「ふくさやの十万石」だと思われる。思われるというのが、歴史的には元治元年(1864年)創業の熊谷発の「梅林堂」の方が歴史は古いからである。
 ご当地銘菓と言えば、やはり知名度であろう。「十万石幔頭」に関して言えば、埼玉県内の知名度はダントツである。理由は通称「テレ玉」(株式会社テレビ埼玉)のCMである。
 竹林をバックに以下のコメントが流される。「風が語りかける」「うまい」「うますぎる」「埼玉銘菓十万石まんじゅう」、埼玉県民はこのCMが刷り込まれているため、埼玉銘菓は問われれば「十万石幔頭」と応えてしまうのである。
 この埼玉では有名なCMフレーズの元となったのは、世界的に有名な版画作家棟方志功とふくさやの横田社長の出会いにあることは、あまり知られていない。
 ふくさやは行田市の発祥である。行田と言えばTVドラマ「陸王」の舞台となった足袋の町である。ふくさやは、その行田で誕生し、横田社長は行田の書家の紹介で棟方志功に会うことになる。
 横田社長が「十万石まんじゅう」を持参すると、大の甘党であった棟方氏は立て続けに5個口に入れ、6個目を手にしながら「うまい」「行田の名物にしておくには」「うますぎる」と言い、筆を取ると今ではおなじみになった「忍城の姫」を描き「十万石幔頭」の文字を添えた、横田社長はまんじゅうの「饅」の字が食編であることを伝えると、棟方氏は「このまんじゅうが全国的に有名になるよう「幔」としたと語った。この逸話をもとに現在のCMは制作されている。
 最近では”地産地消”が流行りとなり、大手コンビニのセブンイレブンでも
各県で生産された商品を店内販売するようになってきた。JR構内のコンビ二で十万石が売られていたのもそうした流れなのかもしれない。
 では、ここで埼玉県民のみなさんにお聞きしたいが、どれくらいの頻度で
「十万石幔頭」を食べてますか?そう、基本的には”おみあげ”の要素が強く日常的に食べる機会は少ない、だからコンビニで特売をやって「日常買い」を薦めているのだろう。
 饅頭は国産つくねもちと新潟産コシヒカリが原料の白い皮と十勝産小豆のこしあんで構成された、一般的な饅頭である。このスタンダードな作りと忍藩十万石・行田の産であることが「埼玉銘菓」の雰囲気を醸し出している。
 先ほど紹介したように、埼玉には老舗和菓子店で「梅林堂」という100年以上の歴史をもつ菓子店もある。こちらも和菓子なのではあるが、洋風の要素が取り入れられており、私的にも推している「やわらか」(生サブレ)が人気である。どうしても西洋菓子の要素が入って来ると裾野が広くなってしまい、「これが一番」というイメージが形成しにくいのかもしれない。
 洋風要素と言えば、全国のおみあげ菓子の中で一番売れている商品をご存知だろうか?福岡の「博多通りもん」がそれである、自社ではこの菓子のコンセプトを”博多西洋和菓子”としている。確かに和菓子と言い切るには、どこか西洋風な風味がある。
 「博多通りもん」を製造する明月堂は昭和4年(1929年)に福岡市天神は今泉で創業。筑豊の焼き菓子文化(ひよこ)などの影響を受けない純粋な福岡産の銘菓である。初期は飴に煎餅を巻いたセル巻煎餅を卸していたが、後に金物屋を経て、1993年に「博多通りもん」を博多西洋和菓子として生み出す、2019年にはギネスブックの最も売れている製菓・あんこ饅頭部門で世界一に認定された。
 悲しいかな広く世間に知られ愛用されるには純粋和菓子では難しいのかもしれない、人々の舌が「西洋和菓子」型の仕様になっているのかもしれない。埼玉銘菓「十万石幔頭」が全国的に名を馳せることはないかも知れないが、「風が語る」埼玉銘菓は埼玉の”名物”であることは確かである。


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