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義母の生霊と闘う話【最終話】

相手の生霊に気が付いて祓ったら
自分が飛ばしてしまった生霊が祓われたら

…果たしてどうなるのかというお話。

電話

ある朝、どんよりした表情で夫が起きてきた。
『母親から電話あったわ』
「それは…お疲れ様でした…」

義母からの電話はだいたい朝方とか夜中にかかってくる。
そしてだいたいがロクでもなくて、義父が余命宣告されたから帰ってこいとか(その頃の義父はまだ命に関わるような状態じゃなかった。息子帰ってきてほしさにすぐバレる嘘つくな)、嫁と離婚したら孫を認知してやってもいい(孫の認知とは…?)などなど。
スピーカーホンにしなくてもハンズフリーにできてしまうような大きな声で、不平不満愚痴妬み嫉み虚言を、繰り返し繰り返し数十分ぶつけてくるのをただ浴びるしかできない苦行そのものなのである。

そんなの聞かずに途中で切ればいいと思われるかもしれないが、それをやるとその後とんでもない量の着信履歴が残るうえ、電話できないとなれば興信所を使ってくることは明白なので、とりあえず義母の気が済むまでは聞ききらないといけないのだ。
今回は義父も亡くなっているから『身内死ぬ死ぬ詐欺』も使えないだろうに、何の話だったんだろう。

目には目を

『どうすんだよ!!!!』
という怒号からからスタートしたらしいその電話。
内容がまた凄まじかった。
なんと、義母の家に車が突っ込んだのだという。

安井金比羅宮で生霊を祓ってから2ヶ月。
目には目を 歯には歯を 交通事故には交通事故を…という恐ろしい形で義母が呪詛返しにあっていた。
『相手はヤクザみてぇな男なんだよ!どうすんだよ!!!』
と、義母はなぜか相手の人柄に切れ散らかしていたようなのだが、よくよく話を聞くとどうやら相手は持病の薬をたまたま忘れて車の中で気を失っていたそうなのだ。
誰も犠牲にならずに済んだのが奇跡的な状況だった。
安井金比羅宮で縁切りをお願いすると命に関わると散々言われてきたし、自分も下手したら死ぬかもしれない交通事故に巻き込まれかかってはいたものの、こうもしっかりした呪詛返しを目の当たりにするとゾッとした。

呪詛返しは狙いを定めて

「車突っ込んだって…どうするの?保険屋さんへの取り次ぎとか任された感じ?」
『多分そうしたかったんだろうけど、文句しか言わないしお願いもされてないからさ。手間だけど、その話もう一度保険屋さんに聞いてもらってくださいって言って電話切ったよ』
…そこ、あしらえるんだ?!と、夫のスルースキルの高さに逆に驚いた。
まあ、一回でも言うこと聞いちゃうと調子乗って死ぬ死ぬ詐欺で呼び戻してこようとするもんね、あのお義母さんは。

『提案なんだけどさ、買い物ついでに実家見ていかない?どこに突っ込まれたのか見てみたい』
そこはかとなく嬉しそうに見える夫。義母にとっての最大の呪詛返しはこれかもしれない。
私は私で「見たい見たい!」とノリノリで付いていくことにした。
結局誰も死んでいない(突っ込んできた相手も気を失ってたわりに元気で、今回加害側であるにも関わらず結構高圧的だったようなので、おそらく怪我も大した事ないとのこと)となればもうエンタメである。

車で出かけてゆっくり義母の家の横を通過することにした。
カーブの終盤に建っている家なので、建て替え前から塀にぶつかられることはたまにあったようだから、今回もそんなもんだろうと予測しながら目を凝らしていたのだが。
裏手の門扉がへしゃげて取れかかっていた。
『うわぁー、結構いってるなあ』
と夫はニコニコしていたのだが、私はこの“裏手の門”という部分にも恐怖を感じていた。

白杖も持たない全盲の義母が唯一ひとりで往復できるのは、家の向かい側にあるゴミ捨て場までのわずかな距離だけだ。
そのゴミ捨て場に行くには裏手の門から出るのが最短ルートであった。
つまり義母がヘルパーさんをつけずにひとりで外に出るときはこの裏手の門しか使っていないのだ。びっくりするほどピンポイントに返るんだなあ、生霊って。
ゴミ捨てのタイミングでなくて良かったね、お義母さん。

おまけ

私には行きつけの大好きな古着屋がある。
安井金比羅宮に行ったすぐ後、交通事故にあう前だったか、その古着屋へ買い物に行った。

チリンチリン、とガラス戸についたドアベルが鳴る。
『わぁ!久しぶりぃ!元気にしてた?』
店主であるお姉さんが雑多な店の奥からひょこっと顔をのぞかせ手を振ってくれる。
『なんかスッキリした感じするね!』
「そうですか?むしろ最近太ったんですよ私」と笑うと


『いや、そうじゃなくて…なんか

憑き物が取れた

感じ?』


…そうなんですよ!!取ってきたんです憑き物を!!
と安井金比羅宮の話を早速した。
『待って、何にも知らなくてもわかるって相当だよね?!私憑き物取れた感じとか今まで言ったことなくない?!すごいよね?!!』とお姉さんも興奮気味だ。
この出来事のおかげてちゃんと祓えたんだ!と一層自信を持つことができた。
やっぱり何か祓いたいものある人にはオススメです。安井金比羅宮。


あとがき

風の噂によると、義母はまだまだ元気に過ごしているらしいのですが、とりあえず第一章?は今回で終わりです。
もう生霊は飛ばしてこないでくれ…と祈りながら、私は私で跳ね返せるだけの力を蓄えようと思いました。心が弱ると隙間に入ってきますからね。

多分今義母が私に生霊を飛ばしてこないのは、事故の相手に一番恨みを飛ばしているからなんだろうと思います。
常に誰かを恨んだり妬んだりしている人って、飛ばす相手が変わるだけでずっと飛ばしてる気がするんですよね。

心身を元気に、楽しく過ごすことこそが生霊を飛ばされず、自分が飛ばすこともなく生きられる術なのだろうと思います。

長かった『義母の生霊と闘う話』最後まで読んでくださりありがとうございました!
そろそろ2025年になりますが、皆さまもどうか元気にお過ごしくださいね!よいお年を。

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