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数年ぶりに明かされた、チョコレートゴミ箱事件の真実

今日はバレンタインデーですね。

何かバレンタインにまつわる甘い思い出を語ろうかと思ったけれど、何も思いつかない。寂しすぎやろ、わたし。


甘くないエピソードを一つ思い出した。


中学生の頃、同じクラスに笠原という男子がいた。サッカー部のエースで背も高くて、けっこうモテていた気がする。

わたしのクラスメイト、麻衣ちゃんも笠原のことが好きだった。麻衣ちゃんは堂々と自分の恋心を表に出すタイプだったので、学年のほとんどの子が麻衣ちゃん=笠原のことが好き❤️と知っていたんじゃないかと思う。

ただ、笠原の方は麻衣ちゃんに対して特別な好意はなく。というか、恋愛自体に興味がない印象さえあった。

それでもめげない、超ポジティブメンタル麻衣ちゃんはバレンタインにチョコを渡した。それを受け取った笠原は、なんとそのままゴミ箱に投げ捨てて去って行ったのだ。

ひどい!
ひどすぎる!

いくら麻衣ちゃんのことが好きじゃなくたって、そこまでする必要ないやん?

笠原のチョコレートゴミ箱事件はあっという間に学年中に広まり、サッカー部のエースは一夜にして「女の敵」に変身してしまったのである。




それから数年後。

大学生になったくらいの頃に、同窓会をしようという話になった。誰が誘ったのか、笠原もやってきた。笠原は中学生のときと同じ爽やかな笑顔で、いかにもモテそうな風貌で現れた。女の敵、健在。

居酒屋の長テーブルを囲んで、わたしたちは席についた。「久しぶりー!」「今何してんの?」卒業以来会っていなかった人も多く、みんなで近況を語り合う。

ひとしきり盛り上がった後、話のネタは昔の思い出に移っていった。「佐々木の森田先生のモノマネ、めちゃくちゃ似てたよな」「体育の酒井先生、しょっちゅうズボンのチャック開いてたやろ?」しょーもないことほど、時を経るとおもしろい。


さまざまな昔話に花を咲かしていると、突然一人の勇者が現れた。


「ちょっと!笠原!アンタ、麻衣ちゃんがあげたチョコレート、ゴミ箱に捨てたやろ?!」

そう。いくら楽しく話をしていても、みんなの頭の中には、笠原=チョコを目の前で捨てた男のイメージが拭えない。いいぞ、勇者!よくぞ立ち上がった!女の敵を糾弾すべきときが、ようやくやってきたのだ!

意気揚々と詰め寄るわたしたちを前に、笠原はキョトンとした顔をした。

「え?なんのこと?」
とぼける笠原に、勇者がさらなる突っ込みを入れる。

「なんのことって、中2のバレンタインのときのことやん!麻衣ちゃんがあげたチョコレートを目の前でゴミ箱に捨てたんやろ?」

「はぁ?俺、そんなことしてへんで」


え?
えぇぇぇぇぇーーーーー!!!


待って待って待って、どういうこと?わたしたちが今の今まで信じてきたチョコレートゴミ箱事件は嘘だったってこと???


「いやいやいや!みんな笠原がゴミ箱に捨てたって思ってるで」
周りにいるわたしたちも、うんうんと同調する。

「ちょ!なにそれ?そんなんするわけないやん。俺、そんなヒドイ男ちゃうで。ちゃんとホワイトデーも返してるし


な、なんと!
ホワイトデーにお返しまでしていたって?

笠原の爽やかな笑顔はホンモノだった。裏の顔を隠すための武器ではなかったのだ。


いったいどこからこんな嘘が出てきたんだろ?麻衣ちゃん……がそんな作り話をするはずがないか。じゃあ誰?今となっては、まったくわからない。

ただ。わたしだけでなく、多くの女子が間違った事実をずーっと信じてきた。同窓会に来ていない人の中には、現在も正しい事実を知らない人がいるだろうね。中には、この件で笠原を嫌いになった子もいると思う。噂って怖い。怖すぎる。


これって、今の世の中になんだか似てる気がする。事実じゃないことが、あたかも本当のことのように広まってしまう。

ネットのない時代でさえ、こんなふうだったんだから、今なんてもっとエグいスピードで広まってしまう。

昔に比べて、近頃は情報過多で生きづらい世界やなーって思っていたけど。実は今に始まったことではなくて、ネットが人間の、人間社会の本質を浮き彫りにしているだけなのかもしれんね。


バレンタインというと、なぜかいつもこんな甘くない話を思い出してしまうのです。





#15日ライラン
#66日ライラン


15日ライラン
いよいよ明日がフィナーレ!



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テシマ ユリコ
最後までお読みいただき、ありがとうございます! いただいたサポートでコメダ珈琲へ行き、執筆をがんばります! (なぜか、コメダってめちゃくちゃ集中できる)