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12w2w コウノドリ完走

TBS系『コウノドリ』といえば妊娠・出産の(比較的)リアルな姿を描いたドラマとして評価が高く、以前より気になっていた(鈴ノ木ユウさんの漫画が原作だが、私自身こちらは未読である)。そのためか、妊娠発覚時に私たち夫婦がまず思ったことが「そうだ、コウノドリ観よう」である。

『コウノドリ』は、赤ちゃんができました、お腹が大きくなり無事に育ちました、という単純な話ではもちろんない。不妊から妊娠中のトラブル、産後のケアに至るまで、さまざまな出産の形・妊娠出産にまつわる社会問題・赤ちゃんの健康や障がいなど、幅広いテーマを毎話取り扱っている。ただの民放ドラマだと思ったら大間違い、非常に構成が緻密であることに驚いた。そして扱うテーマが幅広いがゆえに、妊娠出産にまつわる暗い話・悲しい話も中には多々含まれている。現実を描き切ろうという姿勢は好ましいが、安心感を求める妊婦は観ないほうがいい・心配や不安が増えるから観るなら妊娠前の方が良い、という声も聞いたことがあるのは事実だ。

しかし私は敢えて、不安の多い妊娠初期にこのドラマを2期まで完走した。結果的に、それで良かったと心から思っている。日々お腹の中で着々と妊娠が継続され胎児が成長すること、それがどれだけ奇跡的で、ありがたいことなのかを自然に再確認できたからだ。そして、これから自分にも起こり得るさまざまな事象について理解を深め、多少なり心の準備をすることもできた。アマゾンプライムありがとう。

このドラマに大きな感動を与えている演出のひとつが、赤ちゃんが生まれるシーンのほぼ全てに実際の新生児が出演しているという点である。障がいを持って生まれた赤ちゃんも、たくさんの管に繋がれてNICU(新生児集中治療室)にいる赤ちゃんも、全てのシーンが平等に“本物の生きた赤ちゃん”によって彩られている。一体どうやって撮影したのだろうかと驚くようなシーンも含め、生まれたばかりの赤ちゃんを見慣れない私にとっては全てが衝撃的だった。やはり、本物に勝るものなどない。

元来私は、正直なところ、子供という生き物がそこまで好きではなかった。

過去形なのは自分が妊娠して以降、そしてこのドラマを視聴して以降、子供を心から可愛いと思うようになったからだ。否、やっと“思えるように”なったのだ。それくらい、生きた新生児の映像には言葉に言い表せないパワーがあった。もちろんドラマのみならず、私のお腹の中にいる、赤のエコー動画にも同じことが言える。命が作られ、育ち、生まれようとする過程の中には、理屈では説明できないような“育み”そのものがあると感じられた。なんて感動的なんだろう。そんな感情が自然に湧き上がってくる頃には、なぜ子供を好きでなかったのかさえ忘れかけているほどだった。

その流れでもう一つ、このドラマを観て良かった点がある。それは、NIPTを受けないという夫婦の意向が固まったことだ。

NIPTとは新型出生前診断のこと。いわゆるスクリーニング検査というやつで、母体から採取した血液により胎児の染色体異常などを調べることができる。ついでに性別もわかる。保険適用外の検査のため料金は10万円前後と決して安くはないものの、お腹の我が子に障がいがあったら…と不安を覚える親にとって、事前にある程度の情報がわかることは時に参考になる。

何の参考になるのかというと、障がいがあった場合それを事前に知り、受け入れ心構えをしたいという親への参考、あるいは障がいがあるのなら産まないという選択を望む親にとっての参考だ。後者に関しては非常に難しい問題であって、私個人も、NIPTを受けること・結果によっては悲しい選択をせざるを得ないこと、を否定するつもりは一切ない。障がいのある子供を育てるにあたっては、綺麗事では済まない苦労がきっと山ほどあるだろう。子供自身にもこの先辛いことがたくさんあるかもしれない。事前に情報を得てそれを防ごうとする親の気持ちもまた、未来をしっかりと見据えているからこそ生まれるものだと思っている。個人の選択を責めたり、否定したりする権利は誰にもない。

ドラマの中でも、二組の夫婦を同時に取り上げるという手法でこの問題が扱われた。どちらも、事前にお腹の中の子供に障がいがあるとわかったケースの夫婦である。うち一組は、さまざまな葛藤や紆余曲折を経て障がいへの理解を深め、最終的にはダウン症の赤ちゃんであると知った上で出産をした。そしてもう一組は、胸が張り裂けそうな思いを抱えながらもお腹の我が子を出産しないという選択をとり、辛く悲しい手術を受けた。どちらが正しいとも、どちらが間違っているとも明確に表現しないドラマの演出に、私も個人的に考えさせられるものがあった。

実は私と夫は、妊娠発覚時から「NIPTを受けよう」という方向で話し合っていた。主な理由は私が妊娠出産界隈において高齢だからである。ダウン症の子供ができる可能性は、若い母親に比べると格段に高い。産む産まないとは別に何か問題があった場合は知っておきたいし、事前に知った上で子育てに対する気構えをしたいという理由もある。これに関しては何度かお互いに意見を擦り合わせながら、さまざまなことを調べ、何度も「やっぱり受けた方がいいよね」という結論を導きながら徐々に固まっていった意向だ。

しかしドラマを観終わった後、私たちは、「NIPTを受けるのはやめよう」という結論に至っていた。主に私が、受けなくて良いという意向を先に固めることとなった。理由は簡単、「どんな我が子でも大切に育てたいという気持ちには何も変わりなく、障がいのあるなしで心構えの度合いは変わらない」と考えたからだ。私たちには元から、産まないという選択肢がなかったが故の答えだろう。そもそも、NIPTでは特定の染色体異常以外の障がいを知ることはできない。生まれてくるまでどんな障がいがあるのかは、NIPTを受けようが受けまいが100%はわからないのだ。それだったら、検査費用の10万円を生まれてくる子供のために使いたい。私はそう夫に伝えた。夫は快く、「そうしよう」と賛成してくれた。この時点で妊娠5週目から6週目であっただろうか。まだまだ妊娠超初期といえる頃合いであるが、私はすでに、お腹の赤に愛着と庇護欲を抱いていたことがわかる。子供が好きなわけではなかったのに、価値観の変化は本当に不思議だ。

まだまだつわりは終わっていない。ピークを越えた実感はあると言えども、毎日の吐き気に苦しみどうしても前向きになれない日も多々ある。しかしその苦しみにどうにかこうにか耐えられるのも、ドラマ『コウノドリ』を観たおかげだと思っている。だから私はこのドラマを、妊娠初期に観て本当に良かった。いや、妊活中に観たらもっともっと良かったかもしれないな。わからない。とても良いドラマです。

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