汐街コナ氏の「科学的根拠を望まない」論の問題点について

ゆっくりしていってね!!!!

「表現の自由」論界隈に身を寄せ、規制の話を見かけては、その科学的根拠を求めてウロウロしている不思議なゆっくり――それが私よ!!
漫画家・イラストレーターの汐街コナさんが、このツイートスタートで、けっこう長く表現規制に反対する活動のあり方について述べていたわ。

実は汐街コナさんの表現規制に関する意見については、以前もnote記事で批判したことがあるのよね。だから、ある意味2回目ではあるわ。

今回もゆっくりとその主張内容の妥当性を検討していきましょう。

ただ以前ほどは拡散されていないみたいね。そこは良いことだわ。

ともかく。内容にいきましょう。

1.本当に根拠がない

さて。第一ツイートから順序よくいくわね。

『個人的には性的度とTPOにより、萌え絵の「悪影響」は大幅に変わるので萌え絵一括りで語るのは不可能だと思っている』
『問題は悪影響の有無程度を数値で表すことがとても難しい。』

「思う」のは自由だけど、具体性と根拠がないのが問題ね。

実際のところ「悪影響」とは何かしら。性犯罪を引き起こす? 性差別的な価値観を強化する? それとも誰かが不愉快な気持ちになること?
どのような悪影響かで、数値で表す難しさも変わってくるわ。性犯罪だったら性犯罪の件数・発生率をカウントすればいいだけだから、「表す」というほどの作業すら必要ないわね。
性差別的な価値観の場合は、「あ、いま+17も強化されたわ!」というゲーム的な表現は無理にしても、アンケートの設問と回答を工夫することで定量的な分析は可能よ。それをやっている論文もたくさんあるしね。


2.研究データを恣意的に運用――はできるけど。

『正直研究データってかなり恣意的に運用可能だなというのが、自分なりに調べた結果ですね…。』

さすがに学術論文を甘く見すぎていると思うわ……。

当然ながら専門家によって相互の査読はされているし、重要な研究なら、同じ分野の研究者によって追試験・再現試験も実施されるでしょう。また、研究手法の詳細やそれによって得られたデータを公開しなければならない規則もあるから、「恣意的な運用」をしていた場合、その「恣意的」な部分は暴かれてしまうわ。

論文は永遠に公開されるから、データの捏造や恣意的解釈で「都合のいい結論」を出したところで、いずれ確実に恥を晒すことになるわ。信頼できない研究者だと知れ渡るでしょうね。

『本腰入れて「法規制」を目的に研究されたら、そういう結果が出るのではとも思います。』

そういう結果は出るは出るでしょうけど、「目的」によって捻じ曲げた結果やその解釈が学術的・科学的に受け入れられるかというと、そうではないわ。

例えば「ポルノの流通増大によって、性犯罪が増加している!」って言ったら、それただの嘘だし、統計ですぐ分かることだわ。実際、通用しないのよ。論文でもこう書かれちゃうわ。

【和訳】
さらに2つの事実が検討に値する。まず、偏った団体も公平な団体も、50年以上にわたってポルノと性犯罪の関連性を探る研究に資金を提供してたが、決定的な関連性を見つけられなかった。次に、インターネットの登場で性的メディアが爆発的に増え、視覚的イメージが即座に伝達されるようになったにもかかわらず、世界中のどこで調査しても、性犯罪の発生率は増加していない。それどころか、同時期に世界的に性犯罪が減少している。ポルノと性犯罪の間には相関関係がないか、逆相関になっていると指摘する研究者もいる。この説を唱えているのは、ハワイ大学の性科学者ミルトン・ダイアモンドだ。彼が発表したアメリカ、日本、ヨーロッパにおけるポルノと性犯罪に関する研究は、ポルノと性犯罪の関係が負の相関関係にあることを説得的に主張している。ダイヤモンド氏の研究は、児童ポルノと接触犯罪との関係にも当てはまるようだ。

【原文】
Two additional facts are worthy of consideration. First, both biased and impartial groups have been funding research for more than 50 years to find a connection between pornography and sexual offending, and none have been able to find any definitive link. Second, despite the explosion of sexual media since the advent of the Internet and rap transfer of visual imagery, there has been no increase in rates of sexual offending—everywhere it has been studied around the world. In fact, in the same period, there has been a global decrease in sexual offending. Several researchers have suggested that the correlation between pornography and sexual offending is either absent or inverse. A noteworthy advocate for this theory is sexologist Milton Diamond of the University of Hawaii. His published research on pornography and sexual offending in the US, Japan, and Europe persuasively argues that relationship between pornography and sexual offending is negatively correlated. Diamond's research appears to hold true for the relationship between child pornography and engagement in contact offenses.

J. Brandt, D. S. Prescott, R. J. Wilson, "Pornography and Contact Offending", ATSA(2013), vol. XXV No.1.

これはさしあたり「悪影響」を性犯罪に限った話だけど、性差別的信念の強化や性的攻撃性の増加といった分野でも同じよ。相関関係を示すに過ぎない結果を、「因果関係が分かった」って書いちゃったら、世界中の研究者から総ツッコミを受けるのだわ。


3.「影響ありでした」ってどの研究に基づいて?

さらに汐街さんは次のように述べているわ。

それ、何の影響かによるわよね。どんな影響でもよければ、例えばマリオカートを100時間プレイすると、マリオカートが上手くなるという影響はあるでしょう。

漠然と「研究データ」と汐街さんはおっしゃるけれど、
誰がいつ出したどんな研究のデータ? また特定の誰かのデータだとしても、他の異なるデータも出ているはずよ。

そもそも因果関係を明確にした上で「影響する」と主張するのはとても難しくて、それこそ熱心な規制派の研究者でも、「影響する可能性示唆された。」程度の表現に留めていることが多いわ。
それこそ、前のnote記事で取り上げた「バトナー研究の再編」においても、研究者本人は因果的に影響するとまでは主張していなかったしね。汐街さんが論文の内容を正確に引用しているかも正直、心配よ。

さて。どの研究データか明らかでない以上、これ以上の検討ができないのだけど、比較的最近(2015年)、子供への暴力的ゲームの影響について101報の研究論文を対象にメタアナリシスを行った論文があるから、それくらいは提示しておきましょうか。

(こちらからPDFで全文入手可能。)

ここから引用させてもらうわね。
(※以下に「わずかに影響」とあるけど、これは科学者的な言い方で、「相関係数がゼロではなかった」程度の意味よ。詳しくは本文を参照して頂戴。)

【和訳】
これまでのビデオゲームに関する研究では、大学生を対象としたものが多く、結果の測定方法も標準化されていないことが多い。このような研究は、未成年者の被害に関する質問に答えるためには、あまり有効ではない。今回の分析では、このギャップを解消すべく、児童および青年のサンプルに対するビデオゲームの影響に関する研究に焦点を当てた。病的なゲーム使用の分析ではないが、全体的なビデオゲーム使用の影響と、暴力的なビデオゲームへの暴露について検討した。101報の研究論文を総合すると、攻撃性の増加(r = 0.06)、向社会的行動の減少(r = 0.04)、学業成績の低下(r = -.01)、抑うつ症状(r = 0.04)、注意欠陥症状(r = 0.03)に対するビデオゲームの影響はわずかであることが示された。

【原文】
To date, researchers have focused on college student samples in most studies on video games, often with poorly standardized outcome measures. To answer questions about harm to minors, these studies are arguably not very illuminating. In the current analysis, I sought to address this gap by focusing on studies of video game influences on child and adolescent samples. The effects of overall video game use and exposure to violent video games specifically were considered, although this was not an analysis of pathological game use. Overall, results from 101 studies suggest that video game influences on increased aggression (r = .06), reduced prosocial behavior (r = .04), reduced academic performance (r = −.01), depressive symptoms (r = .04), and attention deficit symptoms (r = .03) are minimal.

Christopher J. Ferguson, "Do Angry Birds Make for Angry Children? A Meta-Analysis of Video Game Influences on Children’s and Adolescents’ Aggression, Mental Health, Prosocial Behavior, and Academic Performance" Perspectives on Psychological Science (2015), Volume 10(5), Issue 5, pp. 646-666.

そして、汐街さんは次のようにも述べているわね。

『でもこういう研究って利権絡むからなかなか厳しいんですよね。ゲーム障害も長らくゲーム会社の反対によって存在を認められなかったそうです。』

利権が絡んでいるから研究で不正を行っていると言わんばかりだけど、研究の内容を公開している人からすれば、具体的にどの部分に不正があるのか指摘してくださいって話よ。

具体的な研究上の欠陥を指摘することなく、単に疑念だけぶつけるのは単なる侮辱よ。ゲーム障害に対するゲーム会社の反対だって、無理筋の擁護をしていたという証拠が必要だわ。科学的に妥当な反論をしていたなら、それはむしろ「正しい議論」であり、民主主義社会において絶対にやらなければならない事よ。(個人的にゲーム障害は疑わしい面もあるのだけど、本題ではないからここでは扱わないわ。)

加えて、差別問題に関する調査研究や、またタバコの有害性の研究にしても、反差別団体や禁煙団体から資金提供を受けている場合があるけど、スポンサーがそこだから研究もダメって話にはならないでしょう。
ダメだと主張するにしても、内容を見て科学的に批判・反論するのであって、「拒否」するんじゃないわ。


4.科学において、「不利になるからやめておく」は無い

続きを見ていきましょう。

「無害有害双方譲らない結果になる」のは別にいいことだわ。民主的な議論を前提とするなら、「もうあなたの意見には出場権ありません。」という話にはできないし。

また、「そんなに意味はない」と言うけれど、議会において「科学的根拠がない。」「逆の結論に科学的根拠がある。」と指摘するのは非常に有益かつ生産的な議論でしょう。さらに、規制側が「これが根拠だ!」って持ってきたら、こっちもそれなりの根拠を用意して応じなければならないわ。それとも、こっちがやめたら、相手も科学に基づくのをやめるのかしら? ありえないわよね。

つまり前提からして、「科学的根拠は忘れよう」的な話は成立しないのよ。誰も忘れないわよ。今後もどちらの陣営も「科学的証拠」を追い求めるでしょう。

さらに言えば、もし、暴力的ゲームや性的萌え絵に深刻な悪影響があるなら、それは科学的に明らかにして然るべき対策を打たなければならないわ。

例えば、完全な因果関係が示された上で、暴力的ゲームをプレイしたお子さんの50%が犯罪者になると分かったら、そんな危険物は社会として放置してはおけないでしょう。その場合は、年齢制限規定に罰則を設けたり、免許制にしたり、あるいは全面発禁にするのもやむを得ないわ。なにしろその場合は、「洗脳で犯罪者を作る装置」に限りなく近い存在だし。

汐街さんの発想は、「不利なデータが出そうだから(自分たちの娯楽のために)ごまかしてしまえ」というもので、倫理観がどうかしているとしか思えないわ。そういう勝ちは目指してないから!

あと、「法規制を免れ」さえすればいいわけでもないわね。自主規制で法規制とほぼ等しいレベルまで来たら、それはもう規制があるのと同じだわ。フォロワーさんがおっしゃっていたけれど、「自殺すれば死刑にならない」式の解決は解決ではないのだわ。


5.おわりに:なんか不公平じゃない?

誰に頼まれたわけでもなくやってることだから別にいいんだけど、出典も示さず適当に「こうだと思います!」と言う気楽さに対して、それを検証する側の手間は尋常じゃないのよね……。

本文では取り上げなかったけど、これもお気楽予想だし。

「大人しくしてたら法規制されないはず」という、よく言っても希望的観測に過ぎない話を、私が少しでも正しいと感じるためにはどうしたらいいのかしら? そもそも自主規制は業界ごとに既に存在しているし、その上で現状があるのだわ。もっとも、こうした自主規制と政治的戦略のあり方については、私もそれほど知見があるわけではないし、より詳しい人に批判を譲ることにするわ。

というわけで!

今回は以上よ! 
よろしければ、スキ&シェア、それからTwitterのフォローをお願いしたいのだわ。

最後はいつもの投げ銭エリアよ。お礼メッセージが出るだけだけど、私の今後の執筆活動のエネルギーになるわ!


ここから先は

48字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?