AV新法とその反対運動について:セックスワークの非犯罪化こそ人権保障のために必要
ゆっくりしていってね!!!!
今回はTwitterで議論になっているAV新法問題について述べるのだわ!
私としては、AV新法は、相当の問題点を含むとしても、これからのAV出演者の権利や安全を守る上で"一応は"前進になると考えてるわ。(「相当の問題点」については後述するわね。)
しかし一方で、AV出演対策委員会または「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」と名乗る団体から、AV新法に反対する形で「撮影被害者当事者声明」が出され、またTwitterでもフェミニストを中心とした#AV新法に反対しますというハッシュタグ・ムーブメントが起きているわ。
「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」の呼びかけ人を一部抜粋すると、次の通りね。
なるほどなるほど。ふーん。へぇ~……。はいはい、この方々ね……。
じゃ、この問題もういいから解散しましょうか。
――というのはさすがに冗談だけど。
「反対派」の論は、マジで滅茶苦茶なのよ。AV新法の問題点を適切に指摘しているならいいんだけど、そうではないのよね。いつもなら日本のフェミニストがありがたがっているはずの国際的な人権団体の方針とは真逆の意見を述べているわ。
このあたりを踏まえて、今回は、
①AV新法の内容とその問題点
②AV新法反対派フェミニストの論の問題点
の2点について特に詳しく書くわね!
AV新法の内容とその問題点
まずAV新法の中身が大事よね。AV新法はまだ骨子案の段階だけど、今のところ名称は「性行為映像作品出演被害の防止等に関する法律」となっているわ。
全文は以下のページから読めるわよ。(画像しか見つからなかったから、煩雑なのはごめんなさいね。)
AV新法骨子案:1ページ目 2ページ目 3ページ目 4ページ目
重要な部分を簡単にまとめておきましょう。
全体として、「企業側に説明義務をしっかり果たさせる」「違約金・損害賠償請求による脅しを防ぐ」「細かく・長くクーリングオフ期間を設ける」といったところが趣旨ね。
AV人権倫理機構は、この法案の内容を一定評価しているわ。
ただし、同人AVや個人配信など「プロダクションとの契約」という枠内に収まらないものはAV新法でも対処できないから、引き続き議論と仕組みづくりが必要だという立場を採っているわね。私もそれには賛成よ。
しかしながら、現在与野党で「5月中の法案通過」を目指して話が進められている点は、AV出演に関する法整備そのものには反対ではないにせよ、もっとゆっくりした方がいいと思うのだわ。
というのも、次の項目で述べる「AV新法反対派」の主張がヤバすぎて隠れちゃってるんだけど、AV新法そのものにも問題はあるのよ。
例えば、AV人権倫理機構では作品の配信停止申請ができるようになって、その停止理由として「作品の配信が長期間にわたる」も使えることになってるんだけど、現状、AV新法にこの仕組みはないわ。また、契約段階で「無期限で配信しつづけられる」と書いてはいけないという規則も今のところない。
加えて、AV出演者に有利になっているのは一見良いけれど、企業側の都合も加味しないと、リスクヘッジのために出演料を大幅に減らす、あるいは分割支払いにするというのは十分考えられる話よね。その場合、AV出演者の経済的状況は今よりずっと悪くなって、貧困に追いやられる可能性があるわ。
そして、「割に合わない」と感じた人が、「うちは適正AVなんか一切無視しますけど、金払いはいいですよ!」という反社会的なAV制作業者(「会社」という形態をいちいち取るかも怪しい業者)の方に流入していくことも考える必要があるでしょう。
まだあるわ。AV新法、競合他社を潰すために悪用できるわよね?
例えば、撮影まではずっと合意しているフリをしておいて、作品が完成してから(1年以内だか2年以内だかの期間中に)「やっぱり止めます」と言う。これを人を雇って特定の企業に対して連発する。
たかが私でもこの程度の悪用は数分で思いつくんだから、本物の反社会的勢力の人たちは、もっと洗練された悪用を思いつくでしょう。悪用に対抗するところまで含めた法案の検討が、「今月中」に終わるってのはちょっと考えられないわ。(現在2022年5月現在)
「AV合法化」に反対するという「フェミニズム的歪み」
そんな訳で、私としてはAV新法も賛成ではないのだけど、では、私がAV新法反対の立場で現在活動中の人たちに親和的なのかというと、それは全く違うわ。
むしろ、大反対。AV新法に反対にするにせよ、反対している方向性がヤバイのよ。
反対の声明は以下の通り。あらかじめ断っておくと、読んでると頭が痛くなってくるほど異様な声明文になっているわよ。
まず、根本的なところから言うと、たとえば次のような強烈な文章があるわね。
「AVを全面的に禁止すべき」とはまた大きく出たわね……!?
性的労働(セックスワーク)の犯罪化を支持していると取れる一文だけれど、これは人権団体の国際的な主張の潮流とは完全に逆行しているのよ。
実際、1961年に発足し、世界最大の国際人権NGOであるアムネスティ・インターナショナルは、2016年から「セックスワークの非犯罪化」を方針として明確に掲げ、各国に勧告を出しているわ。
ただ、話の続きに行く前に、セックスワーカーの定義を確認しておきましょう。以下の通りよ。
日本語で「セックスをする」というと、いわゆる本番行為に限定されるイメージがあるけれど、性的サービス全般を提供して対価を受け取っている人ならセックスワーカーに該当するわ。英語のsexは、必ずしも本番行為がなくても成立するのよ。(参照:Oxford辞書"sex")
Twitterでは一部、「AV出演者はセックスワーカーではないのでは?」という意見があったけれど、本記事ではひとまずアムネスティの定義とOxford辞書の語釈に基づいて「AV出演者もセックスワーカーに含まれる」ものとして扱うわね。
――さて。話を戻しましょう。
読者の皆さんとしては、人権団体がセックスワークを非犯罪化しろと提言しているのは、ちょっと不思議に感じるんじゃないかしら?
そのように提言している理由は、「セックスワーク=犯罪」とした時、セックスワーカー(AV出演者や売春者)が被るリスクとデメリットを考えれば分かるわ。
まず、「労働者」が受けられるはずの法的保護のすべてまたは大半は、「犯罪者」には与えられなくなってしまうのよ。たとえば、AV新法では「契約書をちゃんと作成して同意を得なければならない」と規定する方針だけれど、AV出演自体が犯罪なら、「契約書」なんて全く無意味よ。むしろ、犯罪行為の証拠を残すことになるから残せないし、残しておいたところで「契約違反がありました!」なんて被害届はどこにも出せない。
また、セックスワーカーという「犯罪者」は、労働基準法や労働安全衛生法、労働者災害補償保険法といった類の「労働者の人権や安全を守るための法律」の保護下にもおけないわ。
他にも「セックスワーカー同士で団結ができない」「セックスワークに関して犯罪行為の被害を受けても警察に届け出ができない」といった問題があるわ。要は何が起きようと自己責任の世界よ。
日本でも、性交渉の売買を含む「援助交際」や「パパ活」をしたものの、支払いがなされず逃げられた場合、成人なら泣き寝入りするしかないという問題があるわね。
売春防止法第三条では「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。」と明確に定められているし、民法上も売春契約は無効だと判断されるわ。これに関しては、理崎智英弁護士の解説が分かりやすかったから引用するわね。
一応、相手方(買った側)を詐欺罪に問える「可能性」はあるんだけど、「詐欺罪である」とする裁判例と、「詐欺罪ではない」という裁判例があって、しかも最高裁判例はまだ存在しないわ。特に支払いを求める場合、基本的には泣き寝入りするしかないというのが現状ね。
じゃあ「"買う側"だけ処罰するようにしたら?」と思うかもしれないわね。
まあ自然な発想よ。でもね――。
その「買い手のみ処罰」法には、既に「北欧モデル」という名前がついていて、大失敗してるのよ。
アムネスティも公式サイトのQ&Aで「北欧モデル(スウェーデン・モデルまたはノルウェー・モデルとも呼ばれる)を支持しない理由」を述べているわ。
「性を売ることでお金がほしい人」の立場を考えれば分かるでしょう。競合する「性を売る人」と違って「自分を買うことは安全だ」とアピールしないと、誰も買ってくれないわ。
実際によく使われる方法としては、買う側の自宅で性行為を行ったり、買春の誘い文句を「"お付き合い"しない?」などにして、「私たちはあくまでも恋人関係だ」「金品のやり取りは恋人同士の贈り物のやり取りだ」とすることね。
つまり、買う側には「私としては、恋人関係になれたと思っていた」とする逃げ道を用意してあげる訳よ。これ、買春が違法な国での常套手段として古くからめちゃくちゃ有名よ。(イスラム圏の一部では、ごく短い"婚姻関係"を作ることで脱法的に売春を成立させる手段も知られているわね。)
さらに、セックスワーカー自身が逮捕されなくても、要は「セックスワーカー」=「犯罪者ホイホイ」だから警察がセックスワーカーに張り付いて監視するという事態が現実に発生しているわ。また「コンドームを持ち歩いていると売春婦だと思われるため、持ち歩けない」という本末転倒な状況も引き起こしてしまってるのよ。
そして、犯罪化されているにも関わらず、それでも買おうとする客層は結局「危険人物」「ヤベーやつ」なのよね。だから、セックスワーカーが殺人を含む暴力被害に遭う事件が激増するという結果も招いたわ。
実際、アイルランドでは2016年に「北欧モデル」に準拠する形でセックスワークの非合法化を行ったんだけど、翌年2017年(およびその次の年も)にセックスワーカーが巻き込まれる犯罪報告が90%以上増加したのよ。
いつもなら「相関関係であって因果関係ではないのではないか?」という懸念を抱くところだけど、セックスワークの非合法化以外の要因で、「セックスワーカーを標的にした(暴力)犯罪」を倍増させる説明はちょっと考えつかないわね。
さらに非合法化によって顧客が減少したことで、セックスワーカー間の競争が激しくなり、報酬が低下するという事態にもなったわ。
だから、アムネスティ・インターナショナルを初め、ヒューマンライツ・ウォッチやWHO、ILGA、エイズ撲滅関連団体(UNAIDS、WORLD AIDSキャンペーン、STOPAIDS)は口をそろえて買春の非犯罪化を勧告しているわ。
決して「セックスワークの非犯罪化」はアムネスティだけの特殊な意見ではなく、世界規模の団体の複数から支持されているのよ。
「売春」だけでなく、「買春」「客引き」「組織化」も非犯罪化しておかないと、結局、セックスワーカーが危険に陥るのよ。
※根拠資料としては、"Decriminalisation of prostitution: the Evidence(売春の非犯罪化:その証拠)"(2015)などが挙げられるわ。
AV新法の反対の「撮影被害当事者声明」では、「本来、AVは全面的に禁止すべき」と書かれていたけれど、アムネスティ・インターナショナルに代表される国際的な人権保障の取り組みと、完全に逆行していることが分かるでしょう。
セックスワーカーには男女両方が含まれるけれど、圧倒的多数はやはり女性よね。
撮影被害当事者声明は、呼びかけ人がフェミニストを自称する人たちで構成されているにも関わらず、国際的な人権活動の動向に無知または意図的に無視し、女性の人権保障を困難にする方向の提言をしているわ。
そもそも、"Sex work is work"(性労働も労働だ)はフェミニズム運動の中でもコアにあたる提言よ。女性の身体はその女性自身の自由だという「原則」に立ち返らなければならないわ。
「セックスワーカー当事者の人権を守る」というのなら、いつもはお気に入りの「国際的な人権保障の考え方」にちゃんと"アップデート"しなさい!
なお、買春を犯罪化する「北欧モデル」の問題点については、下記のページに情報が非常によくまとめられているわ。
※英語記事だけど、Google日本語訳かDeepLにでもブチ込めば楽に読めるわよ。
「適正AV」の取り組み
AV人権倫理機構が中心となって、AV業界の健全化を図る取り組みが続けられているわ。
「契約書を共通フォーマットを用いて取り交わす」(各業者が作って出演者側に不利を押し付ける内容にしない)や、「出演作の配信停止申請ができる」といった仕組みを作って実際に運用しているのよ。
もちろん、自主規制団体だから、加盟している企業・プロダクションにしか効力はないけれど、基本的にAV出演者は「加盟している企業・プロダクションを選ぼう」とするから、一定の効果があるでしょう。(あえて加盟していない所を選んで、より多くのお金を掴もうとする動機付けもあるから、当然ながら完璧ではないわ。)
また、「配信停止申請ができる」は、実は「出演強要問題」の実態を明らかにすることにもなったわ。
じつは、結婚などを機に「自分が出演したAVを配信停止にしてほしい」と思った時、従来の契約書では、「永続的に配信できる」ことになっていたから、契約書を無効にするためには、いわば法廷戦術として「出演強要された」と主張するしかなかったのよ。
でも、配信停止が普通に出来たら? 当然、そんな無理をする必要はなくなるわね。
AV人権倫理機構が配信停止申請制度を整備したところ2万3千作品を実際に配信停止したけれど、「配信停止したい理由」として「出演強要があったから」という理由を挙げたのは1件を除いて無かったのよ。
詳しくは次のようにAV人権倫理機構の公式サイトで述べられているわ。(要旨は上の通り説明したから、読み飛ばしても大丈夫よ。)
また、AV出演に至るまでには何度も面接があって、細かく出演者の希望やNG事項を聴取しているわ。面接で使われる書類も含めて、このあたりの細かい事情を現役AV出演者の七瀬アリスさんが動画で説明してくれているわよ。
撮影被害当事者声明の内容に違和感を覚えたAV出演者は一定数いるみたいで、Twitterでは月島さくらさんが積極的に現場の立ち位置から情報発信をしてくださっているわ。
もちろん、「だからAV業界はすべて安全だ」とは言えないわ。それこそ、労働基準法等があるサラリーマンにだって過重労働の強要や各種ハラスメント、サービス残業等があるように、どこの業界にも問題は必ずあるでしょう。ゼロになることもあり得ないから、さらなる改善と管理体制の構築は必須よ。
けれど、一部の被害を取り上げて業界全体が悪の巣窟であるかのように言うのは、AV出演者に対する職業差別だし、なにより適正AVのように真摯に改善を行っている人まで対象になるのは違うわよね。ここは明確に区別していきましょう。
また、フェミニストの中でも、ちゃんとこの問題が分かっている人もいらっしゃるわ。セックスワーカーを危険に陥れ、女性としての自己決定権を蔑ろにする「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」へのカウンター運動が始まっているわ。
『出演被害当事者声明』と呼びかけ人たちの主張の問題点
最も主要な批判すべき点は以上よ!
そして、ここからは、ちょっとした有料オマケとして『出演被害当事者声明』および呼びかけ人たちの主張の問題点について個別的な批判的検討を加えていくわね。
よろしければご支援くだされば幸いよ。
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