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AVスプラの問題から、創作物と二次創作物の関係について考える~通報祭りというキャンセル活動の問題~

動画配信ツールには、特定の色を別の画像または動画に置き換える機能(クロマキー)というのがあるわ。

その機能を使って、相手チームの色をAV画像にすることで、「塗り負けるとアカウント停止を食らう!」という、かなり品のない勝負をした人たちがいるみたい。

これは「#AVスプラ」と呼ばれ、ネットで大炎上になったわ。Twitterのトレンドにもあがった模様。

https://twitter.com/terasuke4_xeno/status/1578793813724008448より(アーカイブはこちら

この騒動について「良い、悪い」を言う前に、原理原則を整理しておくわ。

ある表現をする(創作した動画を配信・投稿することなど)ことは、生存する他者の人権を侵害しない限り(公共の福祉を侵害しない限り)において、許されていることよ。

動画を配信することも、誰かが配信している動画に対する「パロディ」動画を配信すること(=これも立派な表現)も憲法で保障された権利だわ。

ただし、個々人の人権は時に対立するから、相手側の著作権・著作者人格権を侵害するような表現は認められないわ。対立は著作権者同士の人権の問題だから、たとえば表現物と表現の二次創作物の間で「著作権に関する問題」が生じた場合には、その2者間で話し合いが行われるのがまずは原則。うまく決着がつかずに裁判になることも、第三者機関が調停に入ることもあるわ。

ただし、それらと関係のない人が、勝手にどちらか片方の著作物の取り下げを求めるようなことがあれば、これはもう単なる「キャンセル」と同じよ。

これを踏まえたうえで、私の見解を述べるわ。

さて。AVスプラがYouTube規約はもちろん、任天堂の動画配信ガイドラインに違反しているのではないかということで、Twitterでは通報を呼びかける声が多数あがったわ。

しかしながら、そもそも私を含むネット上の第三者は、著作権違反かどうか、ガイドライン違反かどうかを判断する立場にないわ。

ガイドラインは憲法でも法律でもなく、そもそも民間企業がお願いをしているだけで、拘束力があるのではないし、あくまでもそのガイドライン制作者(権利者, 一次創作者)が主張したい権利の範囲を大まかに示したものよ。

「主張したい権利」だから、これがそのまま裁判で認められるのではなく、先述の通り、表現者同士や加害・被害に生じたとする当事者同士で協議される話よ。

ネットでは、これを無視して、勝手に「これは良くないから削除されるべきだ」などの主張がなされているけれど、実際にその人(ただの閲覧者)の人権が侵害されたのでもないのに、削除を要求するといった「著作者の権利の規制を求める行為」に突き進むのは、フェミニストがやっていることと同じだと言わざるを得ないわ(もちろん、フェミニストたちは、ある表現物によって自分や「女性みんな」が人権侵害の被害を受けたと言うけれど)。

もちろん、削除を求めない批判・非難は好きにしたらいいでしょう。私だって、AVスプラが価値のある良い取り組みだとは思ってないのだわ。

ここから個別具体的に、実際のガイドラインも見ていきましょう。

任天堂のガイドラインで問題の箇所はこちら。

任天堂は、違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿、このガイドラインに従わない投稿に対して、法的措置を講じる権利を保持しています。

ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

何をどこまでやれば「公序良俗に反する」のかは不明だけど、そもそも任天堂の著作物利用は、ひとえに任天堂の「善意」でしかなく、こういう曖昧さ(解釈の幅)を持たせたガイドラインを策定するのは当然と言えるでしょう。

私は法律やその運用の曖昧さは批判しているけれど、それと同じ扱いで「曖昧だからダメだ!」と言うつもりはまったくないわ。あくまで主張したい権利の範囲を提示しただけだからね。

現在ネット上で任天堂への通報祭りが起きているけれど、これは当該表現による人権侵害の被害者である可能性すらない「第三者」によるキャンセル活動そのものよ。

私の動画や同人誌等における二次利用・二次創作に対する方針は、

「著作権侵害で訴える企業の権利は当然あるし、また実際に告訴してもそれを批判・非難しないが、私という個人が"違反しているっぽいもの"や"違反している可能性が高く思えるもの"を見つけた場合も、権利者に通報は一切しない」

というものよ。

だからAVスプラについても、著作権侵害の問題が生じる可能性があることは十分に認めるものの、私は通報に参加していないわ。今後も参加しないでしょう。キャンセルには反対しているからね。

また、この方針を採用しているのは、原理原則の話だけではなく、現実的に同人活動を守る意義もあるわ。

同人誌について、「権利者が黙認してくれているのでグレーゾーン」と言っている人は多いけれど、これは確かにそういうケースもあるものの、実は正確ではないわ。

特にガイドラインの文章に基づいて、本当に文字通りに強く解釈して「これは違反だ!」とすると、表現の多くが規制されてしまうことになるわ。

たとえば、芳文社は次のようなガイドラインを示しているのよね。

芳文社はインターネット及びイントラネット上において、
当社の出版物を以下の行為に使用することを禁止しております。

・出版物の装丁及び見開きなどの画像の全体又は一部を掲載すること。
・出版物の内容及び目次などの全体又は一部を掲載すること。
・出版物の要約及び出版物を元に制作した小説などを掲載すること。
・キャラクターの画像及び写真等の全体又は一部を掲載すること。
・キャラクターの自作画(イラスト・パロディなど)を掲載すること。
・出版物やキャラクター(自作画を含む)をフリーソフトやアイコン、壁紙等に加工して掲載すること。
・芳文社ホームページの内容(画像・データ・ソース)の全体又は一部を転載すること。

以上の行為は営利非営利の目的いかんに関わらず著作権等の権利侵害となります。
守っていただけない方には法的手段を講じることもありますので、ご注意ください。

※強調太字は引用者による。

画像利用・著作権について(芳文社)

「ガイドラインを守っていないものは通報しまくってやればいい! キャンセル当然!」という活動を肯定すると、芳文社の出版物である『ご注文はうさぎですか?』『ゆるキャン△』『まちカドまぞく』などについて、ネット掲載されている自作画はぜんぶ「規制対象」にできるわ。

だって、ガイドラインからちゃんと根拠が示せるでしょ?

でも、それは本当に芳文社が望んでいることかしら。ガイドラインの適用をどこまでやるかについて、第三者が勝手に判断するべきではないでしょう。

他にも、小学館白泉社も同様の"厳しい"ガイドラインを出しているわ。『プリキュア』を持ってる東映や、『アイドルマスター』のバンダイナムコも当然そう。

自分で制作した小説やイラストなどについて
バンダイナムコピクチャーズ作品を基にしてご自分で制作された小説やイラストでも、弊社が許諾していない限り、インターネット上ではご使用いただけません。

著作権について(バンダイナムコ)

これらの同人誌が「(全体に対してごく一部を除き)訴訟されてはいない」という意味で黙認状態にあるのはそうだけど、「公式が明示しているガイドラインに違反している(とも読める)」という点では今回のAVスプラの件と同じなのよ。

便宜上、「ガイドライン論法」とでも呼ぶけど、これで通報騒ぎを起こすのは非常に危なっかしいのだわ。

例えば、オタク文化嫌いのフェミニストが、pixiv等のファンアートを含む同人活動を潰そうと考え、同じガイドライン論法で大騒動を起こされても、今回の通報騒ぎに参加した人は論理的に文句は言えないでしょう。

「ガイドライン違反(と読めるもの)を根拠として、通報を殺到させる」という本質は同じだからよ。

だから、私は「ガイドライン違反らしきもの(自分がそうではないかと思うもの)を見つけても権利者に通報はしない」「権利者やプラットフォーマーが自ら発見して著作権侵害として問題化した場合は、その当事者の協議や裁判に任せる」という方針を二次利用・二次創作のすべてに対して統一的に採用しているわけ。

それが「同人活動のグレーゾーン」を守る上で、権利者ではない第三者が出来るもっとも適切な振る舞いだと考えているわ。通報義務はないし、出版社だって「発見次第、通報くださるようご協力をお願いします」と言っているのでもない(これはむしろご迷惑でしょう)。

多くの同人活動が、出版社が布告しているガイドラインに違反していると読める中でその文化を培っていた側面もあるというのを知ってもらいたいのよ。

そうなると、AVスプラに対しても、些か慎重な態度を採らざるを得ないわ。言論による批判はいくらでもやればいいと思うけど、「ガイドライン違反の個人的な疑念を理由とした権利者への通報」は、かなり広範囲に適用・応用でき、究極的には「同人活動を全部潰せる」レベルの潜在能力を持っているから、触れない方がいいのだわ。

また、たとえばキャンセルカルチャーによって責め立てられた企業が『降参』して広告を取り下げるのも、広い意味では権利者による権利行使よ。だけどそれは多くの方が納得してないわよね。

この感覚を言語化すると、本人による権利行使とキャンセルの境目というのは、ガイドライン違反があるかどうかという線引きよりもむしろ、「それが権利者によって真に自主的に行使されているか?」ということにあると考えるわ。

通報祭りってのは、繰り返しになるけれど、こうした側面から言ってもしない方がいいのよ。第一、権利者がその著作権違反を知らないならまだしも、知るためには一通だけ通報があれば十分だわ。それ以上の通報を量的に殺到させなければ権利者が動かないとしたら、それはもう「動かない」が著作権の正当な行使として選ばれたということなのよ。

それを数の力で無理に動かすなら、しょせんキャンセルカルチャーと同じ事でしかないのだわ。すでになされた通報が1通でもあると知っているなら、もう権利者の判断を座して待つべきよ。 もちろん、すでにキャンセル祭りが起こっているなら、擁護意見も多数あるという事を知らせるために大勢のファンが応援を送るのはありだけどね。それは圧力をゼロ状態に戻すことを目指すためのものだから。

加えて、AVスプラを批判している人は、どこか正義の立場にあるようだけれど、実際に彼らのツイートを確認してみると、「一体どの口でほざくのか?」と思ってしまう所が多々見受けられるわ。

具体的には、次の木風公子氏の「開き直り」ツイートに対して、内容的には十分「批判」に値するものだとは思うけれど、そこについているリプライが問題なのよ。


で、リプライがこういうの。

自ら著作権侵害をし、各出版社ガイドラインに違反しながら注意する人たち

私はこういうマンガのコマの無断転載(引用要件も全く満たしていない)について、いちいち通報しないわ。私もたまにツイートで面白がって使うことがあるし(適当な間隔を置いて削除してはいる。だからやって良いという訳ではないけど……)。



でも、「ガイドライン違反が!」「著作権侵害だ!」と騒ぐ人たちは、せめて自分で言ったことくらい自分で守ったらどうかしら?

本件について議論をさせて頂いたフェミトーさんも、「ガイドライン違反という点が重要であり、問題だ」という旨で主張していらっしゃったのだけど――。


内容的には一応の理解はできるけれど、やれガイドライン違反だ、やれ〇〇に反する、などと主張して表現を潰してきたのがフェミニストであり、表現規制主義者なのよ。加えて、ぶっちゃけフェミトーさんも著作権法もガイドラインもぜんぜん守ってないのよね。


フェミトーさんによる集英社著作物の無断利用(鬼滅の刃に関しては加工あり)


実際に集英社のガイドラインを確認してみましょう。ガイドラインが大事なんだったわよね?

■著作権・著作物の複製等について
集英社の出版物およびウェブサイト、SNS等で提供している文章・写真その他画像、漫画・キャラクター等の著作物は、著作権法で守られており、それぞれの著作権は、各著作権者に帰属します。
法律で認められた場合を除き、無断で以下のような行為をすることは禁じられています。

出版物の表紙やカバー・文章・漫画その他イラスト等の絵柄・写真・キャラクター等の全部または一部を複製・翻案等して印刷物に掲載する、(有償・無償を問わず)物品の表面等に表示する、あるいはSNS・動画などを通じてインターネット上に掲載すること。
・ウェブサイト上の文章・漫画その他イラスト等の絵柄・画像・動画・キャラクター等の全部または一部を複製・翻案等して印刷物に掲載する、(有償・無償を問わず)物品の表面等に表示する、あるいはSNS・動画などを通じてインターネット上に掲載すること。
・出版物やサイト上の文章・漫画その他イラスト等の絵柄・画像・動画・キャラクター等を利用してロゴ・アイコン・壁紙・コンピュータソフト・動画等を作成しインターネット上に掲載・頒布すること。
・出版物を、代行業者等の第三者に依頼してコピーやデジタル化を行うこと。

※強調太字は引用者による。

出版物(雑誌・コミックス・書籍)に関するお問い合わせ(集英社)

フェミトーさんのマンガの無断転載ツイートは、「ガイドラインに違反している」とみなして通報祭りを行うことも十分可能ね。

繰り返しになるけど、私は別に通報しないわ。これはフェミトーさんと集英社の間の問題で、私は第三者でしかないもの。個別に「集英社ガイドライン違反をやめろ」と要求もしない。それはフェミトーさんのツイートという表現に対する「キャンセル」になるからね。

けれど、「ガイドラインを読んで、その内容を遵守するべきだ」という主張をするなら、まずは自分がその決まりを守ることが大事じゃないかしら?

そうでなければ、説得力というものがまるで無い。AVスプラではたまたま「自分の気に入らないこと」と「ガイドライン違反」が一致していたからガイドラインを論拠にしただけで、「自分がやりたいこと」の場合はガイドラインを無視しても平気でいるというのは、私には理解しがたいのだわ。

一貫性がない。整合性がない。完全なその場しのぎ。

最後に、私の主張をまとめるわね。

①特定表現について著作権侵害かどうかを判断するのは当事者の協議・裁判によるべきである。
② 第三者がガイドラインを根拠にして特定表現を削除する方向に呼びかけるのは、キャンセルカルチャーに該当する。

日本のサブカルチャーや二次創作文化は、結構な部分がグレーゾーンで成り立っているわよね。例えば、前述した『Twitterのリプライで漫画の一コマを投稿する』みたいにね。だから、著作権侵害が非親告罪化しそうになったときに、騒動になったのよ。

追加で最後の批判もまとめておきましょう。

③ 仮に、第三者がガイドラインを根拠にして特定表現のキャンセルを呼びかける場合、その第三者はあらゆる権利者の発行するガイドラインを遵守していなければダブルスタンダードではないか。
④ ただし、「権利者Aのガイドラインは守る必要はないが、権利者Bのガイドラインは遵守すべきだ」とする法的根拠があれば、その限りではない。

今回の場合は、権利者Aが集英社で、権利者Bが任天堂ね。ガイドラインを守っていない人に「ガイドラインを守るべきだ」と主張されても、さすがに通らないわよ。権利者の権利に根拠なく差をつけるのは『差別』ではないかしら?


今回は以上!

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最後はお礼メッセージだけが表示される有料エリア――だったけど、Twitterで頂いたコメントにお答えするオマケを用意してみたわ。(個別にはTwitter上でお返事させて頂いているので、私のホームから探せば無料でも読めるから、あくまでオマケね。論旨が変わらない程度に少々加筆はしてあるけど)

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