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クレジットカード会社や大手プラットフォーム事業者による表現規制問題:欧州のデジタルサービス法に寄せて

ゆっくりしていってね!

2024年5月、ニコニコ動画公式から「Visaの扱いを停止する」旨の発表があったわ。

いつもニコニコをご利用いただき、ありがとうございます。

諸般の事情により、2024年5月10日(金)から、Visaでのプレミアム会員料金の決済を一時停止いたします。
急なご案内となり大変申し訳ございません。

■2024年5月10日(金)
一部Visaでのプレミアム会員料金の決済を一時停止

■2024年5月下旬頃
すべてのVisaでのプレミアム会員料金の決済を一時停止
※詳しい日程は後日ご案内いたします
※また、「クレジットカードまたはd払いでニコニコチャンネル入会時にプレミアム会員にも同時入会することで、プレミアム会員料金が初月無料になるキャンペーン」につきまして、同タイミングより「クレジットカード払い」での受付を一時中止いたします

【重要】Visaでのニコニコプレミアム会員料金の決済一時停止について


また、2024年4月にも、DLsite.comがVisa、Mastercard、American Expressの利用ができなくなると発表したわ。


先日のお知らせにてご案内いたしました一部のクレジットカードブランドがご利用できない件につきまして、
続報をご案内させていただきます。

クレジットカードブランド様と再開の交渉を行っておりましたが、現時点での再開は難しい状況となっており、
Visa / Mastercard / American Express ブランドでのクレジットカード決済は当面の間ご利用いただけません事、ご容赦ください。

引き続き、再開の交渉は行って参りますが、再開をお待ちいただいていたユーザー様につきましては、
他の決済方法のご利用やポイント購入をお願い致します。
他の決済方法につきましては、[ ヘルプページ ]をご参照ください。

【重要】Visa、Mastercard、American Expressをご利用のお客様へ【続報】


このクレジットカード会社を通した表現規制の問題は、Pornhubの時にも同様に表現の自由への脅威として話題になったわね。


クレジットカード会社はなぜ表現を規制する?

VisaやMastercardのようなクレジットカード会社による表現規制は、実際に私たちが享受できる表現の幅を著しく狭めるわ。

もっとも、クレジットカード会社がこうした表現規制に突き進んでいる動機はいまいち判然としないわ。もちろん真実は公開されないから(あるいは公開した表向きの理由が正しいとも限らないから)何とも言えないのだけど、単純には減収になるし、「いや、私たちは決済手段を提供しているだけで、どういうモノをやりとりされているかは知りませんよ」と素知らぬ顔をしていればいいと思うのだけどね。

とはいえ裏事情は知りようがないから、公開情報からストーリーを考えてみるのだけど、本記事でも後に述べるように、超大手企業に対する規制圧力が強くなっていて、次のような考察もあったわ。

なぜ、VisaやMastercardなどの国際決済ブランドは、自社ネットワークでの決済を受け付けている加盟店に対して、その商材に対する表現にまで厳しく踏み込んでいるのだろうか?
背景には、アダルト関連コンテンツの延長線上に存在する違法行為での決済関与の防止がある。
2022年8月、VisaとMastercardはPornhubとその親会社であるMindGeekの広告に対するカード決済を停止することを発表した。
性的な動画を撮影され、Pornhubにアップロードされた女性が訴えを起こした裁判で、女性はMindgeekに加え、Pornhubでクレジットカード決済の受付を許可していたVisaに対しても訴訟。
Visaは無実の第三者であると主張していたが、連邦裁判所はこの主張を却下。
カリフォルニア州中部地区のコーマック・カーニー連邦地裁判事は「MindGeekが児童ポルノを収益化していることをVisaは知っていたにもかかわらず、VisaがMindGeekを加盟店として認め続ける決定を下した」と発言。Visaにも責任があるとの判断を下した。
当時のVisa CEOであったアル・ケリーCEOは裁判所の判断に強く反対。
「Visaは性的人身売買、性的搾取、児童性的虐待を非難する。これは違法行為であり、Visaは当社のネットワークを違法行為に利用することを認めていない」
「当社の規則では、合意のない性行為や児童の性的虐待を描写するコンテンツへの支払いに当社製品を使用することを明確に禁止している。私たちは、このような行為や、私たちのネットワーク上で、その他の違法行為を抑止するための努力を怠りません」と発言している。

【考察】なぜDLSiteはクレジットカードブランドから表現規制の圧力を受けたのか?


もちろん、「たかが地裁で、しかも第三者申請が却下された程度で、金儲けからそんな簡単に手ェ引っ込める?」とは思うわ。(私は巨大グローバル企業は例外なく拝金主義のクズであって、彼らが道徳性をアピールする時は何らかの利益を隠す時の嘘か誤魔化しだと常に決めつけているわ。)

だけど、「訴訟リスクや世間の評判」くらいしか仮説も出ていないのよね。(ただ、違法な取引があったとして、「世間」ってクレジットカード会社をそんなに意識するかしら? 日本だと「どこのクレカを使った取引だったんだ?」なんて犯罪行為があっても気にされないわよね……。)

まあ確かにニコニコ動画やPornohubは、特に著作権を侵害していそうな違法コンテンツ(アニメやAVのシーンを勝手に切り抜いて掲載している海賊版頒布にほぼ等しいコンテンツ等)があるし、DLsite.comやFANZAにはフィクションだけれど、欧米基準だと児童ポルノとみなされるものがあるわね。


特にアメリカは厳しくて、完全フィクションで実在児童をまったく想起させない非実在児童ポルノであっても、販売・購入・単純所持のいずれも違法とされていて、実刑判決も喰らうわ。

そうなるともはや日本のオタク的表現物で「幼女っぽく見えるキャラのエロを描いたフィクション」は「違法薬物」と変わりがなく、何ならアメリカでは多くの州で合法化されている大麻より余裕でヤバい「ブツ」なのよね。

もしこの仮説が正しければ、クレジットカード会社を叩くのもまた違うのかもしれないわ。「単なる決済手段でいわゆる『導管』『コモンキャリア』ってやつなので、個別の取り引きが違法であっても、クレジットカード会社が主体的に関わった等の格別の事情がなければ免責します」という法律を作ってあげれば普通に喜んで戻ってくる可能性もあるわね。仮説が正しければ、だけど。

表現規制したってクレジットカード会社が儲かる訳ではないのは、さすがに正しいんじゃないかとは思うのよ。

もし、「VisaとAmerican Expressは駄目だけど、うちのMastercardならいけるぜ!」ってことなら、「なるほど、Mastercardさんが競合他社を潰すために裏工作を頑張ったのね!」と簡単に理解できるのだけど、全社駄目になってるからそういう説明もつかなくて謎よ。

一応、JCBがどれでも使えて、いわば「表現の自由」なクレジットカードだけど、まさかJCBがこいつらを裏工作で潰せるほど強いとは思えないし……。

でも、せっかくだしみんな、JCBでクレジットカード作って使いましょう? 私はもうそうしたわ。


民間企業の自由と利用者の自由

さて。「表現の自由」の観点から、民間企業による表現規制に反対すると、しばしばネットでは「表現を規制する主体が、法令が伝統的かつ直接的に『表現を規制してはいけない』と名指ししてきた公権力ではない上、民間企業側の自由もあるのだから、その権利こそ尊重されるべきだ」という論で対抗されることが多いわね。単純化しすぎているけれど、素朴なだけに分かりやすくもある。

でも、私はそれだけで表現規制を自ら容認する態度をとるべきではないとして、ずっと批判してきたわ。

ここから先は、大手プラットフォーム事業者による超巨大企業による表現規制、いわゆる民間検閲(private censorship)について、欧州およびアメリカでの議論も参照しながら述べるわよ! 特に後半では欧州のデジタルサービス法(Digital Services Act, DSA)を扱うわ!

素朴な論の欠陥

まずは、確かに民間企業にも経済的自由権および精神的自由権がある。けれど、当然ながら個人にもあるし、かつどの自由権も実際に制約を受けるわ。

例えば、既に放送法が規定していて特に違憲ともされておらず、また「企業側の表現の自由こそ大事だ」と唱える論者も反対していない次の決まりがあるわ。(彼らの主義主張からすれば、積極的に反対するべきでしょう。)

(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条
 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 政治的に公平であること。
 報道は事実をまげないですること。
 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

放送法 e-Gov法令検索

この論はヒトシンカさんが詳しく扱っていらっしゃるけれど、復習もかねて、私からも改めて述べておきましょう。


どうしてテレビ局は民間なのに、「できるだけ多くの角度から論点を明らか」にしなくてはならないなんて、表現内容について指図されるのかしら? それぞれ自社のポリシーってもんがあるだろうし、自分たちが「正しい」と考える意見だけを選別して報道する自由はないの?


一応の答えとして、法文上は「そこまでの自由はない」という設定ね。ここには、たとえ民間であろうと支配的・寡占的なメディアによって、国民の「知る権利」が事実上制限され、民主主義的な議論(思想の自由市場)が歪められることがあってはならないという思想があるからよ。

まあ現実にはこんなの無視して偏向報道しているように見えるけど、それは「政治的に公平であること」は、放送事業者の表現の自由を尊重し、原則として自律的判断に委ねられるとされているためよ。(最判平成20・6・12)

ただ、同時に「自律的・自主的に基準(番組基準)を定め、それを公開するなど透明性を確保してやれ」と法律で命令しているのも確かなこと。

当然、「自律的判断に委ねてもらえてるんだよね!」と考えて放送事業者が好き放題すると、「番組基準違反」等を理由とした行政指導を喰らうわ。(参考資料:行政の対応に関するこれまでの主な意見, 総務省)

放送法は国民の「知る権利」を尊重した考え方だけど、大手プラットフォーム事業者についても理屈上の応用は利くでしょう。「サービス利用者がその民間プラットフォームで表現する権利」はそのまま「そうした表現を知る権利」とつながっているわ。それを守る法的な仕組みを用意してほしいと主張しても、それは「表現の自由」論的にも王道と言える立場よ。

これは逆に言った方が一部の人には理解しやすいかもしれないわね。仮に「表現する場を提供する民間企業は、とにかく民間なので、いくらでも恣意的にその場の表現物を検閲・削除してよい」とすると、それこそ「表現の自由」が危機に陥るでしょう。

それに、超巨大企業の権利なんて、持ち前の大金を使ってロビー活動をし、議員を抱え込み、超強い弁護団を結成して実際に主張しまくってるんだから、私たちの方から思いやってあげないといけない存在じゃないわ。

なるほど企業が企業側の自由を強く主張するのは当たり前だし、私のようなユーザーが私の自由を強く主張するのも当たり前でしょう。どちらも自分がほしい権利を自分で主張しているという話だからね。

でも、明らかに今問題となっている企業側に利害関係を持っていないような個人が、「企業側の自由」をやたらと重視した論を展開するのは、不思議を通り越して不気味と言わざるを得ないわ。欲しいものを欲しいと素直にいいましょうよ。最終的な立法や司法判断がどうなるかはともあれ、権利の主張それ自体が別に違法ってことでもないんだし。

誰の表現の自由を守りたいのか。企業側の自由と衝突するとしても、「双方の自由権のバランスが取れた」とされる位置を、どれだけ私たち側に引き寄せられるか。その原点に立ち返りましょう。

欧米に見るプラットフォーム規制法

企業側の自由権を重視する論者に言わせれば、「企業の『表現の自由』の行使だから妨げてはいけない」そうね。

けれど現在、欧米社会を中心に問題視されている民間検閲(private censorship)は、そもそも「表現」(expression又はspeech)にあたるのかすらも司法に疑問視されているわ。

例えば、リベラルなポリシーを持つ大手プラットフォーム事業がいるとして、そこでユーザーから投稿された保守的な意見をいくつか削除したとしましょう。


この「削除」って「事業者による表現」なの? 表現というより行為ではなくて?

たとえば自分で作ったイラストや漫画、小説、あるいは論説文や感想文、そういうのは当然に「表現物」でしょう。著作権も発生するし、また内容によっては名誉毀損などの法的責任を問われて処罰されることもある。

でも、「プラットフォーム事業者が特定のコンテンツを削除することを通して自らのポリシーを表す」ってのは、自己表現の一種だと分からなくはないけれども、従来考えられてきた表現物からはかなり距離があるわよね。

また、プラットフォーム事業者は、「あくまでも表現をやりとりする場を提供しているだけ」として、そこに投稿された表現物に関する法的責任も相当免除されているわ。(企業の自己表現だとしてもいいが、それならそれでユーザーの投稿に対して一部は連帯責任を負うのか、負う覚悟があるのかという話にもなってくる。)

アメリカの裁判所は、「まず表現だとは言い難いし、仮に表現だとしても、純粋な言論と比べれば、弱い保護しか与えられない」と判示しているわ。

プラットフォームは、彼らの検閲が、何らかの形で憲法修正第1条上の表現物・言論として解釈されるべきだと主張する。この主張については、後述の第III.B、第III.C、第III.D、および第III.Eで詳しく検討するが、彼らの検閲が憲法修正第1条に保護されると仮定しても、(訳注:彼らがテキサス州法HB20を無効と主張する根拠である)「過度の広汎性ゆえに無効の法理(overbreadth doctrine)」の中心的な関心事である「純粋な言論」からは程遠い(United Reporting, 528 U.S. at 40)。

プラットフォームの検閲は、連邦地裁の言葉を借りれば、「オンラインサービスが自分自身を表現し、コミュニティ基準を示す方法」であるにすぎない。つまり、検閲はせいぜい表現的な行為(expressive conduct)の一形態であり、「過度の広汎性ゆえに無効の法理」は「弱まった」保護しか与えない。

NetChoice v. Paxton, 2022


アメリカのプラットフォーム規制まわりについては、以前のnoteで取り上げた通りよ。連邦最高裁は現在、議会に判断を求めているんだけど、アメリカ大統領選も近いから目立った進捗もないわ。詳細はこちらを読んで頂けると幸いよ。


なので、まだ扱っていなかった欧州(EU)に目を向けてみましょう。ついに施行されたデジタルサービス法(Digital Services Act, DSA)は、「表現の自由」に関する様々な問題をはらんでいるわ。

実際、私としても賛同できる部分と、賛同できない部分があるのよ。まずは賛同できる部分からいえば、DSA提案書の「基本的権利」の項目に書かれている次の内容はいいわね。


連邦市民やその他の人々は、違法なコンテンツや活動の拡散から、自己表現の制限やその他の社会的被害に至るまで、オンライン上のリスクや被害にますますさらされている。本立法案で想定される政策措置は、現代的で将来に備えたガバナンスの枠組みを提供することにより、この状況を大幅に改善し、関係者全員、とりわけ連邦市民の権利と正当な利益を効果的に保護するものである。本規制案は、市民が自由に自己表現できるようにするための重要なセーフガードを導入するとともに、オンライン環境におけるユーザーの主体性を強化し、効果的な救済を受ける権利、非差別、児童の権利、オンラインにおける個人データやプライバシーの保護など、その他の基本的権利の行使も可能にする。本規制案は、誤った、あるいは不当な言論封殺のリスクを軽減し、言論の萎縮効果に対処し、情報を受け取り意見を持つ自由を刺激するとともに、ユーザーの救済の可能性を強化する。

Union citizens and others are exposed to ever-increasing risks and harms online – from the spread of illegal content and activities, to limitations to express themselves and other societal harms. The envisaged policy measures in this legislative proposal will substantially improve this situation by providing a modern, future-proof governance framework, effectively safeguarding the rights and legitimate interests of all parties involved, most of all Union citizens. The proposal introduces important safeguards to allow citizens to freely express themselves, while enhancing user agency in the online environment, as well as the exercise of other fundamental rights such as the right to an effective remedy, non-discrimination, rights of the child as well as the protection of personal data and privacy online.
The proposed Regulation will mitigate risks of erroneous or unjustified blocking speech, address the chilling effects on speech, stimulate the freedom to receive information and hold opinions, as well as reinforce users’ redress possibilities.

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX%3A52020PC0825
※強調太字は引用者による。


EUの中でもとりわけドイツは、憲法論においても基本権保護義務論が強いから、「私人間で起きる基本的人権の侵害からも、国家は立法を通して国民を守らねばならない」という考えが浸透してるのよね。

【基本権保護義務論】
・国家は、私人間での人権侵害的状況を、立法政策により予防・救済する義務があるとする考え方。
・そのため、私人間の人権侵害的状況が発生したときに、国家の立法不作為が違憲であると主張できる

「基本権保護義務論」とは何か?わかりやすく解説


DSAがユーザーの表現の自由を守るために具体的に何をするのかというと、提案書が実際に採択された条文を読むと分かるわ。実際の条文とあわせて説明していきましょう。実際、私のエックスアカウントの凍結解除とも関係がありそうなのよ。時期的にも合うし。(DSAは表現関係ばかりの法ではないけど、本記事の主題として。)

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