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旅をしながら働く:北海道・弟子屈の場合【基本情報編】

場所に捉われず働く選択肢が広がったことで、一人一人が理想の暮らし方を(数日なりとも)選ぶチャンスが広がっています。誰かに決められた働き方ではなく「自分で決める」働き方、働く場所、コミュニティ…自分で選ぶというアクションが、これからの時代を豊かに過ごすための大切なキーワードのように感じています。海外の記事によれば、旅をして働く人たち(=「デジタルノマド/digital nomads」と呼ばれる)は2035年までに世界で10億人市場にまで伸びると言われており、今後、世界中で新しいインバウンド市場として捉えられることにもなるでしょう。

弟子屈町-日本人が知るべき自然がある町。

屈斜路湖の夕焼けは優しい

今回紹介する地、弟子屈(てしかが)は東京都23区の1.2倍の広さに、東京都23区の1,200分の1、約7,000人弱が住んでいます。一人あたりが抱える”地球の広さ"がダントツにデカい町です。世界で二番目の透明度を有しアイヌ民族から「神の湖」と言われる摩周湖があり、日本で一番大きい(山手線1周分より広い)カルデラ湖・屈斜路湖があり、世界的にも珍しい「レモンより酸っぱい」約Ph1.7の川湯温泉があり…と、弟子屈にある日常がどれもこれも、母なる地球トップレベルの自然。これが7,000人弱の住人の日常に贅沢に溶け込んでいる町が、弟子屈です。それだけでも、この地を訪れ、暮らしを体験する価値があります。

地理感覚を少し頭に入れてから訪れよう

いわゆる「観光地」と違うのは「移動」の戦略をどう立てるかがとても重要ということ

地球トップレベルの自然が、とんでもない広さに詰まっているということは、つまりそれぞれの自然を味わうための移動も、割と本気を要することになります。

7,000人の住民のための公共交通機関は、ほぼ頼りにならないと言っていいほど脆弱です。日々の移動は、車がないとかなり不便。免許がなければ移動はかなり制限されると思っていただいていいのが弟子屈町です。図説の通り、弟子屈まで向かうにも車で2時間、弟子屈についたら各地域への移動が車で20分。バスや電車は、1時間に1本もありません。弟子屈についたら、日々の移動をどのように行うか、タクティクスが求められます。

「地域の移動の不便さ」は、DXだとかシェアリング・エコノミーだとかと少しずつ改善の動きが示されていたりするのですが、僕、個人的には、この地域の不便さも「楽しむ」ことが実はとても大切です。観光と違いますから、移動を控えて、じっくり1箇所で住み着くのも楽しんでもらいたいと思います。

旅をしながら働くプランのつくり方(1)スケジュール

森を散歩したくなる気持ちを、しっかりコントロールする、ある種の強い心が大切

「観光旅行」と「旅しながら働く」の大きな違いは「現地で働く」時間をしっかり設ける必要があるという点です。知らない土地に行くと観光したくなります。仕事よりも地域の魅力に飛びつきたくなります。まずは、これをグッと我慢することが大切です。観光したくなることを我慢できなさそう?でしたら、週末から地域を訪れ、休日のうちに地域の観光をある程度終わらせておくことが大切です。

「コ」の字を意識してスケジュールをつくる

ワーケーションのプランニングの基本は「コの字」型。前後土日を挟んで「ロの字」もあり

地域を旅しながら働く際には、こうした誘惑から自分自身をセルフコントロールするために、「コ」の字を意識したスケジュールづくりが大切です。

会社や家族など、周囲からの評価を意識しなければならないのも、事実です。旅をしながら働く?=「旅行・休暇でしょどうせ」と、誤解を招きかねません。働く時間は「オフィスで働くより働いている」くらいに作業を行う強い心が求められます。まだ旅をしながら働けていない人たちに向けて、旅をして働くことでしっかり成果を示すことも、今後の働き方の多様化を広める上でとても大切な役割を担っている、先人であることを自覚しなければなりません。

旅して働く時のスケジュールは「コ」の字で考える
①勤務時間:いつもの就業時間を、いつも以上気持ちいい場所で働き生産性をあげること。
②休日時間:いつもの「観光」をいつもと違った場所で思いっきり楽しむこと。
③朝・夕時間:「余白づくり」の重要なポイント。これまで通勤に使っていた時間で、地域とつながる大事なチャンスにすること。

Ryo Osera, 2022

旅をしながら働くプランのつくり方(2)Giveの心持ち

地域の皆さんとつながることで、何か新しいかぜを届けられる

旅をしながら働くことで「観光客」目線ではなく「住民」目線で、地域を見られるようになっていきます。毎日観光はやってられませんから、地域の方々と顔馴染みが増えていくことで地域に愛着がわきはじめていきます。地域の方々と繋がっていくことで、観光客には「お金」を取っていた体験や商品が、地域目線と同じ立場になることで「いいよ、あげる」「お金はいらないよ」などと地域の方々がたくさんのお裾分けを頂いたりする機会も増えていきます。

地域には「お金」という"経済資本"ではなく、互助で成り立つ"信頼資本"のようなものが価値を持ってやりとりが行われています。弟子屈も例に漏れず、経済資本だけではない、信頼資本の価値がとても重要な意味を持ちます。お金では変えられない、信頼でつながる相互関係。これは都会ではなかなか生まれにくいものです。都会の暮らしに慣れていると、とても新鮮で、新しい関係に映るでしょう。

このお裾分けをしようと思ってくれた、その「気持ち」自体がプライスレスすぎる

地域の方が優しければ優しいほど、たくさんのGiveをいただくこともあるかもしれません。その際に、Takeばっかりする旅人になっていないか?とても大切な心構えです。

観光であれば「お金で解決」が手っ取り早いでしょう。もらったお裾分けをお断りして「お金で買います」と言ってしまっても良いかもしれません。しかし、少しずつ地域のコミュニティに属し始めた時に、「お金」以外で何を自分がgiveできるのか。お掃除のお手伝いかもしれないし、何か仕事で得たスキルをシェアすることかもしれません。

Give-Giveの信頼関係で、信頼という資本が積み重なっていきます。地域に観光ではなく滞在する場合のGiveの精神がある方ほど、地域を旅して働くレベルはどんどん上がっていくと思います。

弟子屈スタイルでは「社会共通資本」という言葉で、この資本を地域通貨化する取り組みをおこなっています。

なお、弟子屈、あるいは北海道には、もう1つの資本=「自然資本」も大きな意味を持っています。高付加価値の土、水、風…そしてそこで育つ作物や生き物を持つもの/持たざるもので、地域でのポジションが大きく異なると感じます。経済資本(お金)・信頼資本(信頼)・自然資本(自然)の3つの資本のつまみが平等に価値を持つ点、これは弟子屈が未来の社会のあり方において、大変興味ぶかい場所だと感じる1つの理由です。

お金だけの世界ではないこの町で、外から訪れた旅人は、どの資本を持ってして、地域にGiveできるか。これを意識した上で、地域を訪れて欲しいと思います。

(【モデルコース紹介】編へ続く)

文責:大瀬良 亮(おおせら りょう)
1983年 長崎県生まれ。株式会社 電通入社後、政府出向中に世界を旅して働く経験を通じて、旅のサブスク HafH(ハフ)を共同創業。 2018年~2020年 つくば市 まちづくりアドバイザー、2021年~ 日本ワーケーション協会 顧問。