【TeSHコラム企画 vol.01】 産学連携と大学発スタートアップ
Tech Startup HOKURIKU(TeSH:テッシュ)は、北陸先端科学技術大学院大学と金沢大学を主幹機関とし、北陸3県の10大学、3高専を共同機関とする北陸地域の大学・高専発スタートアップ創出プラットフォームです。
TeSHではスタートアップ支援のスキル・ノウハウなどのナレッジ共有や、活動実績の記録のためにコラム企画をスタートします。
第一回はTeSHプログラム代表の内田先生に執筆いただきました。
産学連携と大学発スタートアップ
私は、2013年に民間の日立製作所から筑波大学に移りました。日立時代は、オープンイノベーションを担当しており、日立R&D部門の年間約10億円の産学連携費をマネージしていました。ところが、ある日、R&D担当の副社長が、「このままでは産学連携から何の成果も産まれない。小さな共同研究はやめて、全部1,000万円以上にしろ。」との指示がありました。民間は厳しいのです。確かにその当時、予算10億円に対し、450件もの共同研究をやっていました。1件あたりにすると、平均200万円程度です。そこで、私は大ナタを振るって大型化を敢行し、共同研究を200件削って250件にしたのです。1件あたり400万円です。ただし、小さなものでも、真に重要なものは残しました。いったい、どのような施策をしたのでしょうか。
産学連携費10億円が急に増えるわけではありません。R&D各部門から、まず1,000万円以上の案件を提案してもらい、残った予算でその他の共同研究を決定したのです。こうして、筑波大学の小型の共同研究についても何件も削ったのですが、あろうことか、その年に筑波大学の産学連携の取りまとめとして赴任したのでした。
筑波大学でのミッションは産学連携と大学発ベンチャーです。大学発ベンチャーでは、当時2004年に創業した山海先生のCYBERDYNE社が2014年に上場したところでした。時価総額は、上場時1400億円、2016年4370億円。まさにJカーブを描くスタートアップでした。
山海先生はなぜCYBERDYNE社を創業したのでしょうか?山海先生は、こう語ります。「当初は、日立などの民間と共同研究をしていたのです。会議で成果を示すと、毎回“これは、いいですね”との反応ですが、2年たっても、3年たっても製品化の動きをしようとしません。そうか、彼らはR&D部門の人間で、事業化の権限がなく付き合っても無駄。自分で会社を作るしかないと気付いたのです。」と、私が日立出身と知っているのでしょう、3回くらい同じ話をしてくれました。実は、睡眠科学の基礎研究成果でノーベル賞候補にもあがっている柳沢教授も(株)S’UIMINを創業しました。いつ製品化されるかわからない企業のvalue chainのさらに外側に組み込まれる民間共同研究でなく、自ら創業の道を選んだのでした。
本年度からスタートしたTech Startup HOKURIKU(TeSH)では、ステップ1、ステップ2を合わせると70名あまりの教員・学生が研究成果の事業化に向けたギャップファンドの取得に手を挙げてくれました。このように多くの次世代のスタートアップの種が北陸3県のアカデミアに育っていたことは、驚きです。その中にCYBERDYNEのようなユニコーンの種があるかもしれません。その可能性を持つ北陸の土壌で産まれた種に、ギャップファンドという水と肥料を注いでいきたいと思います。
コラム企画は毎月第4木曜日に更新。
次回は10/31(木)に金沢大学 先端科学・社会共創推進機構 特任准教授 大山 真吾 先生のコラムを公開予定。