戦友ヘナトアウグスト
他人に無関心な自分はあまり
友情や、義理、人情
などの言葉はそぐわない人生を歩み、選択をしてきた。
だけど、これが”友情”か、と小っ恥ずかしい表現を堂々と言える出来事があった。
愛の巣、清水エスパルスとの練習試合
一昨日、練習試合で三保を訪れた。
試合を知った日からワクワクが止まらず、遠足気分で
みんなが紺色の移動技でバスに乗り込む中、一人、
試合のできる練習着で準備万端な格好でバスに駆け込み、
いじられる僕の姿があった。
それぐらい、心躍らせていた。
そしてやっぱりこの男と一番長く話すことになった。
7割ぐらいしか理解はできなくて、会話が行き違うことはあっても、
気まずさはなく、心の中で硬く結ばれた信頼感で、
目を逸らさず、彼の放つ言葉を一言一句、ありがたく、心に染み込ませた。
2020年夏、清水エスパルスとお別れの日
遡ること去年の夏、
ついに愛する静岡、そして清水エスパルスを去る日がきた。
エスパルスでプレイすることに拘った自分は、
年俸を割ってまで、契約延長したほど。
途中に試合に出れるクラブに移籍してれば、
また違う輝く現役の姿があったかもしれない
でも、5年間、清水で挑戦を続けるのを選んだことに、
一点の後悔もない。
家族全員が静岡という地を愛してる。
しかし、無常にも戦力外の日々が続いた
そしてアルビレックス新潟からオファーをいただき、
新天地へと旅立つ日が来た。
別れの挨拶をする日、皆は練習の準備のため、
大半はジムや、トレーナールームにいる。
いつもなら一緒にそこにいるはずの自分が
練習始まる前のミーティングで、みんなの前で挨拶するため
場の雰囲気に合わないスーツ姿でソワソワ、モジモジしながら
整理してすっからかんの自分のロッカーに一人で立ったり座ったりを繰り返してた。
ロッカーに戻る選手何人かと握手をかわし、抱き合って
寂しくて胸が張り裂けそうな中、
平静を装って「頑張れよ」とクールに告げていたら、
ヘナトアウグストがロッカールームに現れた。
シーズン途中の移籍は急で、全員に伝えきれないことがあるけど、
日本人選手は情報が早いので、噂で聞いてると思うので
報告を省き
「ありがとな、がんばれよ。」で終えられるが
ブラジル人選手にも伝わってるかわからなかったので
移籍することを1から伝えてお別れを言おうとした瞬間
それを遮るように、
僕の姿が見えた途端、鼻を啜り始め、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
感情を隠しクールに振る舞おうとしてたのに、
虚をつかれて、
途端に大量の涙が溢れ出た
気づけば、言葉を交わすこともなく
お互い声を漏らして、人目を憚らず、抱き合いながら号泣した。
大の大人2人が理性崩壊して声を出して泣いて抱き合う姿を見て、
背後で豆鉄砲食らった鳩みたいにポカンと立ちすくみ、
若干ひいてる常識人の金子翔太の姿があった。
理性と感情で、圧倒的に理性が強い
頭脳明快な彼には理解のできない光景だったのだろう
多分ほとんどの人が戸惑うと思う。
それぐらい壮絶な状況だった。
ただ、実は、正直そこまで思ってくれてると思わなかった。
仲は良く、割と事あるごとに会話してたけど
こんなに泣きじゃくるほど別れを惜しんでくれてるとは思ってなかった
だからこそ嬉しくて、悲しくて、
泣きじゃくった。
ヘナトアウグスト加入
あれは2019年、かなり遅れて合流したヘナトは、最初はスタメンから外れていた。
序盤のアウェイ札幌戦で大敗を喫するも、僕もヘナトも試合に出れなかった
出場した選手より先にロッカーに戻るんだけど、
自分の席に座ってシュンとする選手がいた
これまで共にプレイしたブラジル人選手は大体、
自信家で自己肯定感が強いので
試合出れないと、キレてるか、フテるかが普通
でも明らかに落ち込んでセンチメンタルなヘナトが気にとまった
初めての海外で不安な中、試合に出れずに落ち込んでると案じて
そんな姿が愛しく映り
拙いポルトガル語で励ました。
「能力は間違いないから、絶対すぐ試合出れるようになるよ」
よっぽど苦しかったのか、
短いこのたった一言が
心に響いたみたい
ヘナトからのお返し
その後、助言通り遺憾なく能力を発揮しはじめ
チーム内でドウグラスと肩を並べて、バケモンと言われていても
栄光の時間から滑落して、試合に出れず
歯を食いしばって、もがき苦しんでいて
ベテランにも関わらず悩みまくってる僕の姿を見かけたら
何度も励ましてくれた。
その言葉もまた、苦しい僕の心に、深く深く染み込んでいた。
そして2018年のジュビロ戦での久々のスタメンでの復活ゴールは、多くの選手、サポーター、アナウンサーが喜んでくれた中、ヘナトも強く祝福してくれた。
2人の想いが結実した日だった。
本物の財産
長く共にプレイした選手が多い中、
彼ほど別れを悲しんでくれた選手はいなかった、
ちょっとした心遣いでかけた短い一言が、
これほど深い信頼関係を築けたことに、言葉の力に驚く。
こうやって言葉がちゃんと通じなくても、芽生えた友情。
「お金、いい車に、いい家、高い時計、ブランド物
それらを獲得したら、自分のモノと感じるが、
死んだら破棄されるか、誰かの手に渡る。
本当の所有物とは言えない。
じゃあ本当に自分のモノとは何か。
自分が放ってきた言葉と、行動と、選択。
それこそが本物の財産」
だとあるドラマで言ってた。
これのことかと今、思い耽る。
いい言葉をかけて、呼応して深まる友情こそが
本当の財産だと気付かせてくれた、ヘナト
Muito Obrigado meu amigo
あの別れの日にそれを確認できて、更に情が深まりました。
否定的で天邪鬼な自分の今までの声がけが恥ずかしい
逆にいい言葉はこうやって波及してで大きくなっていく
悪い言葉も同じように大きくなり、包囲され、
孤独になっていく。
気をつけよう。
素晴らしい経験をありがとうヘナト。
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