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”コオロギ”でカンボジアの農家の未来をつくる!葦苅 晟矢さんロングインタビュー

―葦苅さんはカンボジアに来てだいたい何年ぐらいなんでしょうか?
2018年の6月からなので、ちょうど3年目になります。カンボジアでの生活にも大分慣れてきました。
―葦苅さんが行っているコオロギの事業について教えて下さい。
現在はベースは日本の会社なのですが、プノンペンに基本的な加工を行う加工場と事務所があります。プノンペンでは4名のカンボジア人スタッフがマネジメントの仕事をしたり加工を行ったりしています。農家さんが生産したコオロギを買い取るという形で生産委託をしています。
―数年前から世界の先進国でも、将来の食糧危機に対しての有効性などで昆虫食が注目されていますね。
そうですね、そういった意味でも昆虫食はこれからの未来の食料資源になると思っています。確かに、食料問題という面では日本も含め、なかなか飢えという状況とは程遠いと思いますが、ただそうは言っても、5年10年のスパンで考えていくと、タンパク質危機というのは起きてくると私は思ってるんですね。特に食料の中でもタンパク質はやはり、人口の増加に伴って当然生産量を増やさないといけない状況の中で、既存の家畜産業や水産養殖産業から供給されるタンパク質でいいのかと。やはり既存の家畜・水産養殖産業は持続的ではないと思います。牛のゲップから発生するメタンガスによる地球温暖化の問題は有名ですが、その通りでして、地球環境的な問題も多くある。食料を増やさなければいけないのに既存の食料の生産システムは持続的ではないので、新しい持続的な食糧生産システムが必要となった時に、昆虫食は生産側の供給面ですごくメリットがあると思っています。

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―カンボジアで事業を行おうと思ったのは、どういった理由から何でしょうか?
私たちの事業はグローバルに輸出することを目指しているので、安定的に供給するためにも多く生産する必要があるんですね。もともと日本で研究を行っていましたが、日本はやはりコオロギを生産するにはあまり適していない環境です。目標達成のためにはやはりきちんと生産する必要がある。そういった面で、カンボジアの温暖な気候というところからカンボジアに目を向けました。
―カンボジアでは東南アジアの国々の中でも特に日常的にコオロギを食べる国だと思いますが、こういった面もカンボジアを選んだ理由の一つなんでしょうか?
正におっしゃってくださったように、おそらく東南アジアの中でも都心部とかでもまだ昆虫食の文化が根付いていると思います。先ほどカンボジアの気候的なメリットをお話しましたが、もう一つの背景としてはカンボジアの市場に出るコオロギは、天然のコオロギと養殖のコオロギの二つがありますが、カンボジア既にコオロギを生産する人がいるんです。そういう基盤があるならば、その基盤を活かしながら、かつ日本での研究を組み合わせれば、もっともっといいコオロギ生産ができるのではと思って、カンボジアで事業を始めたわけです。
―ただ、同じ東南アジアであるタイとやベトナムの方が農業がシステム化され、進んでいるという印象があります。逆にカンボジアの農家さんは自分たちの暮らしに沿うような、システム化や効率をそこまで求めないやり方をされていると思いますが、システム化された国よりカンボジアを選んだというのは、そこにも何か理由があったのでしょうか?
そうですね、ただ私は基本的には今のカンボジアの生産のポテンシャルで十分だと思っています。どちらかと、そういう機械化された食料生産っていうよりは、人の手が入り温かみのある食料生産をやりたいと思っていたこともありましたし、そのシステム化で効率を求めるという時に、例えば、コオロギに食べさせる餌など既存のものを変化させることによって、システム化しなくてもちゃんと、人の手とコオロギの機能性・生物のポテンシャルを引き出せば十分に安定生産できますので、そういったところでカンボジアの環境がいいと思いました。また、カンボジア自体が農業国であるというところもいいなと思ったんです。
―そうですね、海外からは観光産業が注目されていますが、カンボジアは農業がとても身近な産業だと思います。
先進国の人に比べて、自分で何かを育てる生産者魂がさりげなく根付いているんだろうなというところも、私達が一緒にコオロギの生産をやりやすいと思った部分でもあります。

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―生産の委託を農家さんにしていらっしゃるということですが、何かそういった統一した生産方法を提携の農家さんに共有しているのでしょうか?もしくは、農家さん独自のノウハウで生産したものを買い取っているのでしょうか?
そういった意味では両方で、もちろん農家さんがこれまでの経験で培ってきたノウハウを尊重することが大事だと思う一方で、私たちから見ると、ここは非効率化だなと思うところもありますので、そういうところうまく私たちが生産指導などもしながらやっています。
―現在は何軒くらいの農家さんと提携しているのでしょうか?
現在、タケオ州で50軒ぐらいの農家さんと提携しています。私自身カンボジアがまだ3年目でして、いわゆる農村事情について詳しいわけではなかったので、長年カンボジアで農村開発や食料開発支援などを行っているNGOと連携することで、現場にきちんと入れるようになりました。農村で現地の農家さんと繋がるのは、私の個人活動には限界があるといいますか、言葉も伝統も文化も違うところで、さらにカンボジアにネットワークがなかったこともあり難しかったですね。現地のパートナーさんと同じ目線で、繋がりを築くことができたのがすごく大きかったですね。
―現在、カンボジアもコロナの影響で、各地でロックダウンなどが起きていますが、こうした中で実際に現場に行けない状況が続いていくと、農家さんと築いてきた信頼関係や生産状況は心配になりませんか?
この3年間でこれだけ農家さんと接触しないことは初めてです。特にロックダウンがあった時期からは、行きづらくなってます。長距離の移動手段も不安定ですし。とはいえ、ものは動いているので、信頼できるバイヤーさんを通じて、農家さんが作ったコオロギはちゃんと買い取るっていうことは継続はさせています。こういった状況でもちゃんとコオロギは手に入りますし、農家さんも一応生活はできています。そういった面では、生産者は強いなと思いますね。
―最初のお話では日本のマーケットをメインに、安定供給を目指してらっしゃると伺いましたが、日本自体、昆虫(コオロギ)食のイメージが全くないのですが、日本のどういった分野での市場開拓を目指しているのでしょうか?
もちろん、昆虫食そのものはまだ一般的ではないと思います。現在は一般的な食事というよりは嗜好品の位置づけになっていると思っています。ちょうど昨年から、その動きが活発になってきています。例えば、昨年日本では無印食品が、コオロギせんべいを発売しました。また、敷島製パンでは、コオロギのバケットを発売しています。大手の、いわゆるみんなが知ってるような会社がそういう商品を出したこともありまして、様々な企業が今、昆虫食に興味を持ち始めてるというフェーズですね。私たちの場合は、ちょうど今カンボジア産コオロギを使った健康食品やサプリメントであったり、コオロギを活用した味噌と醤油の共同開発を進めています。味噌と醤油も原料はタンパク質なので、同様にタンパク質を多く含むコオロギでも、味噌や醤油といった調味料が作れるのではないかと考えたことがきっかけです。
―こういった企画を日本の会社と共同で行っているのでしょうか?
基本的には共同企画になるのですが、やはり私たちが一番やっぱり原料としてのコオロギに詳しいので、じゃあこういうコオロギの成分や利点を生かしましょうという提案をもとに、実際に加工食品を作れる企業さんと一緒に様々な企画をさせてもらっています。

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―カンボジアでは、こういったようなカンボジア人に対しての商品を開発していらっしゃるのでしょうか?
カンボジアでは確かに元々コオロギを食べる文化がありますけど、単にコオロギをコオロギとして食べてると言うか。カンボジア人の方々の大半がコオロギに栄養価がたくさんあるなど、知らないで食べていると思うのです。なので、私たちはもともと持ってるコオロギの価値、栄養価や効能などをきちんと再定義して発信していけば、カンボジアの単なるビールのおつまみという枠を超えた新しい食材になると思いますし、日常的に食べてるコオロギ食とは別の提案をカンボジア自身にしていきたいと思っています。
もちろん日常の食にコオロギが入っていることは素晴らしい、それを変えるつもりありませんが、そこにプラス、新しい意味付けをできたらいいなと思っていますね。カンボジアのコオロギの食べ方って実は不健康な食べ方をしていると思います。栄養価が高いのに、大量の油と大量の化学調味料で味付けして食べていることが多い。そいういったところの概念も少し変えていきたいと思います。
―プラスアルファで付け加えていきたいということでしょうか?
おっしゃる通りです。今は、日本でのビジネスがメインになっていますが、カンボジアでもコオロギ商品の販売はしています。油で揚げるコオロギではなくて、乾燥させたコオロギで、油を極力使わない、新しい健康スナックとして更なる商品化を進めています。
―カンボジア人も健康という付加価値に興味を持っていると思いますか?
確かに今まだメジャーな文脈じゃないかもしれないですが、若い女性層など、健康意識の高まりはあるなと思っています。日常的にただ運動するだけではなく、食からも変えていきたいというような意識が生まれるといいと思います。
―商品のお話をさせて頂きましたが、原料となるコオロギの養殖の事業についてもう少しお聞かせして頂きたいのですが、カンボジアを生産の場に選んだ利点だったり、逆に難しかった部分をお聞かせください。
そうですね、良かった部分といえば、コオロギの生産という事業がカンボジアの農家さんとすごく相性いいと思います。というのも、コオロギは卵から孵化して収穫するまで約45日という短期間でできるんです。カンボジアで多く行われている米やキャッサバの生産はどうしても一年間という長い期間が必要です。年に2回もしくは3回しか収穫できないのですが、そうすると農家さんの現金収入が収穫と同時期しか得られない。お金がある時とない時の差がかなり大きいと私自身感じます。でもコオロギだったら、約45日周期で収穫して出荷できるので、ある意味、安定的にコオロギを生産すれば、コンスタントな現金収入を得る仕組みができる。この点は、農家さんにとってもいいと思います。あと加えて良かった部分が、自宅の高床式の家の軒先とかで生産ができるという点です。自分の家の敷地内でできる、自宅と職場が一緒というのはある意味、最先端と言いますか。工場に通う必要もないですし、お母さん子供の面倒を見ながらでも生産できる。やはりカンボジアの、農村でやれたからこそのいい部分だと思っています。苦労した部分は、実際にちゃんとやってもらうまでの信頼関係構築部分ですし、今ももちろん苦労している部分はあります。農家さんとのつきあいは、ウエットな部分も大いにあります。すごい泥臭い人間関係の構築というのは必要だと思います。あと、いくらコオロギの生産は社会にとっていいと説明しても、なかなか農家さんに理解されるわけじゃないので、農家さんのいわゆる現金主義、ちゃんと生産したら我々がきちんと買い取るというところも重要です。そのプロセスを回していくところは最初、苦労しました。
―現在、加工もカンボジアで行っていると聞きました。
基本的な加工はカンボジアで行っています。生のコオロギのまま流通すると日持ちも良くないので、これを乾燥するわけですけど、その姿が残ったままの乾燥コオロギだったり、あとそれを粉砕して粉末にする一次加工はカンボジアで行っています。そこからさらに何か、味噌を製造したり粒子の細かい粉末を作るような高度な加工は、どうしても今のカンボジアの設備や技術だけでは不十分なので、日本で行っています。
―加工する上での品質管理の難しさは感じましたか?
そうですね、今はすごく改善しつつあります。現在はカンボジアで加工したものが日本の食品衛生基準点をちゃんと満たすだけのクオリティになっていますが、最初はどうしても日本に比べると当たり前な衛生概念がカンボジアにはないので、自分たちのスタッフにも意識を身につけさせるところが、最初は大変でした。
―今は日本マーケットをメインに展開していると思いますが、今後は別のエリア、東南アジアとかや昆虫食がホットなヨーロッパなど、将来の展望はあるのでしょうか?
そうですね、色々広げてきたいとは思っています。昆虫食っていう分野がじわじわ来ている中で、まず昆虫食と言ったらあのカンボジアで生産している会社だという風に思ってもらえるようなブランドを作っていきたいとは思っています。また、せっかくカンボジアで事業を行っているので、他の東南アジアの地域での展開も行ってきたいと思っています。これだけ昆虫食の文化があるならこそ、既存の食べ方ではなく、メイド・イン・ジャパン・クオリティの商品を提供していきたいと思います。

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