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かき氷ブームの火付け役! 都内初のかき氷専門店「ひみつ堂」の店主においしさの”ひみつ”を聞いた

どんどんバリエーションが豊かになるかき氷。かき氷専門店の店主たちは一体どんな思いと信念を持って、日々かき氷に向き合っているのだろうか。店主たちの頭の中をのぞいてみたい!
 
ということで今回は、2011年に都内で初めてのかき氷専門店として台東区谷中にオープンした「ひみつ堂」の店主・森西浩二もりにしこうじさんへインタビューを実施。 オープンのきっかけや、氷の削り方、蜜作りの秘密について伺った。


かき氷を通して驚きと感動を与えたい

開店前で忙しいにもかかわらず、にこやかにインタビューに応じてくれた森西さん

ひみつ堂をオープンするまでに、20種類以上の仕事を渡り歩いてきた森西さん。偶然見に行った歌舞伎の美しさと迫力に魅了されて、三代目市川猿之助の弟子として6年間稽古に明け暮れていたこともあるという。
 
その後、歌舞伎を見て感じた驚きと感動、複数の飲食店勤務での経験から「いつか自分のお店を開きたい、その店で驚きや感動を与えたい」と思うようになった。
 
「かき氷屋さんを選んだきっかけは、毎年夏に足を運んでいたお祭りです。手動式のかき氷を作る屋台の前で、目を輝かせている子どもたちを見て、かき氷なら記憶に残る感動体験を与えられるのではと思ったんです」
 
ひみつ堂がオープンした頃は、通年かき氷を出すお店は都内になく、全国でも2店しかなかったそう。本当にかき氷だけでやっていくつもりなのかと、周りから心配されたという。
 
「オープン当初は、冬はどうするの? とたくさんの方に聞かれましたね。でも、周りから何を言われようと、かき氷を食べている人の笑顔が好きだったから、なんとしても通年でやりたかったんです。どうしたら冬も食べたいと思ってもらえるのかを考え抜きました。試行錯誤していろんなメニューを作って出すうちに、冬のかき氷はフルーツのさっぱりとした味よりも、かぼちゃなどを使った濃厚な味が人気だと気づいたんです。今では、冬に出るかき氷のファンだという常連さんもいますよ」

定番メニューの「ひみつのいちごみるく」。いちご蜜の美しい輝きは写真でもよくわかる

努力の甲斐かいあって、今では冬も行列ができる人気店に。行列を作るお客さんの顔は、テーマパークのアトラクションを待つ人のように期待にあふれている。「それがうれしい」と森西さんは笑顔を見せた。
 
「かき氷の味だけじゃなくて、お店の内装や従業員のふるまいからも非日常を感じてほしいんです。イメージは夏祭り。かき氷を削るシュルシュルという音や、美しい色合いの蜜など、五感でかき氷を楽しむエンターテイメントを提供したいんです」

ハンドルを手前に回して、氷を削っていく。その姿は招き猫にたとえられることも

口に入れるとふわっと溶ける純白の氷。秘訣は温度管理と削り方

ガラスの器を動かしながら、きれいな山型になるよう氷を受け止めていく

いよいよひみつ堂のかき氷の秘密に迫る。まずはかき氷の土台となる氷について。
 
ひみつ堂のかき氷に使用している氷は基本的に天然氷だ。入荷状況によっては純氷も使用している。天然氷とは自然に湧き出た天然水を、やはり自然の寒さを利用して凍らせたもの。純氷とはろ過した水を人工的に凍らせたもの。どちらも手間をかけてゆっくりと凍らせているため、氷の密度が高く、多少温度が上がっても溶けにくいのが特徴だ。

一貫目(約3.75kg)の天然氷。ピックを使って半分に割ったあと、かき氷を削る機械にセットする

ひみつ堂のかき氷は、一口食べるとふわっと溶ける。この食感の秘密は、削る前の氷の管理にあるという。
 
「口の中で一瞬で溶ける柔らかい食感にするために、氷の表面を少し溶かしてから削っています。この温度で削り始めると決めているわけではないんですが、その日の温度や湿度によって氷の状態が変わるので、それを見極めています」
 
溶けてちょうど良い柔らかさになった状態で削ると、氷は白くて細い形になる。硬いままだと色は透明で、さらに氷の破片がまじって口当たりが悪くなるのだとか。

真っ白なのは、細かく削れている証拠

また、ひみつ堂では手動式のかき氷機を使っており、創業以来手削りにこだわり続けている。
 
「1杯作るのに130回くらい回すので、正直大変ですし、時間もかかる。でも手削りならではの食感の違いや、削っている姿を見た時のワクワク感も楽しんでほしいんです」

全部で300種類以上! 蜜作りのアイデアはどこから?

まさにメロンという黄緑色が食欲をそそる。氷全体にまんべんなくかけていく

ひみつ堂のもう一つの特徴といえばメニュー数の多さだ。ゆうに300種類を上回る。発想のヒントは、どこから得ているのだろうか。
 
「旬の食材からヒントを得ることが多いですね。フルーツだけじゃなくてかぼちゃやさつまいも、とうもろこしなど野菜も含めて考えています」
 
旬の食材と言っても、それぞれ特徴があるはず。かき氷の蜜にするのが難しいものもあるのでは?
 
の個体差が大きい栗や、水分量が多い梨などは、蜜として氷にかけると味が均一にならず、食べた時の印象がぼやけてしまうので蜜作りが難しいですね。素材の味を生かしつつ、氷に溶けても負けない味を目指してさまざまなパターンを作り、スタッフみんなで試食しながら開発しています」

夏限定の「メロン三昧」。メロン一切れがまるまる載った迫力ある見た目。
氷の中には生クリームが隠れている

食材本来の味を大切にした蜜作りを行っているからこそ、素材選びは重要だ。
 
「一つの素材でも、さまざまな産地や農園のものを食べ比べて、自分がおいしいと感じたものだけを仕入れるようにしています。正直、原価率が高すぎるメニューもあるんですが、味に直結するので、そこは絶対に妥協したくないんです」
 

かき氷への思いを語る森西さん

溶けた氷と蜜が混ざり合う至福の味

口に入れた瞬間にふわっと溶ける氷、食材本来の味が詰まった蜜とのハーモニー。それらを楽しんだ後は、溶けた液をストローで最後まで飲み干すのがこの店の暗黙のルール。実際にやってみると、透き通った氷(すでに水だけど)の味と蜜の味が口の中で混ざり合い、冷たいかき氷の時とは違う、えも言われぬ至福の味を楽しめた。

最後はストローで飲み干す。おいしかった……
平日にもかかわらず、開店前には10名ほどの行列が

超がつくほどの有名店で、行列の絶えない繁盛店。取材中も仕込みで大忙しだったにもかかわらず、楽しそうにかき氷づくりについて語る森西さんの姿を見ていたら、ライターもかき氷を作りたくなってきたぞ!
 
森西さん! 初心者の私でもオリジナルのかき氷って作れますか? 私にしか作れないかき氷ってなんでしょうか? かき氷を作る上で、絶対に譲れないことって?
 
「それは──」
 
答えは次回!

(つづく)

Supported by くるくるカンカン

クレジット

文:古澤椋子
編集:いからしひろき(きいてかく合同会社
撮影:蔦野裕
校正:月鈴子
取材協力:ひみつ堂
制作協力:富士珈機

ライター・古澤椋子 https://twitter.com/k_ar0202
1993年生まれ、東京都板橋区出身。水産系の社団法人、ベンチャー企業を経て、2023年よりフリーライターとして活動開始。映画やドラマのコラム、農業系イベントの取材、女性キャリアに関するSEO、飲食店取材など幅広く執筆。在宅ワーク中心で、運動不足なことが課題。

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