ガレージで焙煎! 副業の文化が根付くポートランド
嫌いだったコーヒーが、アメリカ旅行で大好きになってしまった会社員の藤原裕樹さん。今や週末副業焙煎士として、焙煎したコーヒー豆をネット販売する藤原さんに、子育て仲間で藤原さんのコーヒーのファンでもある女性ライターが話を聞きます。第2回は、特に藤原さんが影響を受けた、コーヒー文化と副業文化が根付くポートランドについてです。
住宅街の中にコーヒー店が多数
アメリカの西海岸、オレゴン州のポートランドに行ったのは、新婚旅行の時が初めてでした。コーヒーの美味しさももちろんですが、どちらかというと、コーヒーの周りにある文化に「あぁ、すごくいいな」と感じました。
ポートランドの街中を歩いていると、ポツンとコーヒー店が出現するんです。「こんな不便な場所にあるお店に、誰が来るのかな?」と最初は不思議に思いました。日本ではだいたいカフェって、駅前や大通りなど人がよく来る場所にあったので。でも、あの時は住宅街で民泊したので、その答えが分かりました。朝7時とか8時くらいに近所の人たちが、その小さなお店にコーヒーを飲みに集まるんです。お店を中心にコミュニティができていて、コーヒーを片手にみんなが楽しそうにおしゃべりをする。そして、9時くらいになると、それぞれが仕事に向かうんです。「こんなコーヒーとの付き合い方もあるのか」と、心を動かされました。
ガレージで焙煎をして周りに振舞い、人が集まる
あまり知られていませんが、ポートランドは「小商い」と呼ばれる副業が当たり前の文化なんです。コーヒーの他にも、クラフトビールや革製品を作っている人たちをたくさん見かけました。ちなみにクラフトビールの醸造所は西海岸の中で一番多いみたいですね。あんなに小さい面積の中で、私が行った時は70近くもありました。
そういう文化だから、好きなものを「ちょっと自分でも作ってみるか」と気軽に始める人が多いみたいです。コーヒー好きは、まずガレージで焙煎に挑戦するようですね。美味しくできたら、友人や近所の人に振舞う。それを繰り返しているうちに「あいつのコーヒーはうまいらしい」と噂が広まり、どんどん人が集まるようになります。そうしているうちに「お店をやった方がいいぞ」って言われて、お店を出すようになるらしいです。街全体でもコーヒーを飲む場所は、大手のチェーンより個人の店の方が圧倒的に多かったですね。
テック企業の「職人気質」とヒッピーの「楽しいことをする風土」
コーヒーが盛んと聞くと、水がきれいとか、近くにコーヒー農園があるとか、そういった環境を思い浮かべるかもしれません。たしかにポートランドは環境都市ではありますが、ここまでコーヒーが盛んになったのには、他にも理由があるんです。
ポートランドは郊外にあって、テック企業で働いている人たちが多く住んでいます。なので、住民の職業もエンジニアや起業家が多く、「やり始めたら止まらない!」という、職人気質の人たちが多いんです。あとはヒッピーカルチャーが根強いので、元々「楽しいことをやろうよ」という雰囲気も漂っていました。そういう人が集まる街なので、コーヒーを始めとした副業も盛んになったのではないでしょうか。
ポートランドのコーヒー文化については、妻も気に入ってくれました。なので、日本に帰国してすぐに焙煎機を買って、副業を始めました!──という流れになるかと思いきや、全然そんなことはありません。せいぜい家でドリップコーヒーを淹れる程度でした。子どもが生まれて、本業が忙しかったということもあります。やっぱり趣味って、時間がないとできないんですよ。焙煎機を買い、そして実際に副業を始めるのは、もっともっと先の話です。
でも、妻と一緒にポートランドに行ったことは、なくてはならない経験でした。「コーヒーを自分で焙煎して、それを仕事にしていくって素敵だよね」という感覚が共有できたことは、後に副業をやっていく上で、すごく効いてるなって思ったので。あの時、ポートランドに行っていなければ、コーヒーを自分で焙煎することも、ましてや副業にすることも、絶対になかったでしょうね。