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クラフトビール職人になった理由は「バカだから」? 醸造所開店までの紆余曲折を聞いてみた
バリエーション豊かで、ビール愛好家たちを飽きることなく楽しませてくれるクラフトビール。飲み手ではなくつくり手として日々向き合っているクラフトビール職人に話を聞いてみたら、“てさぐり”の連続だった!?
「#てさぐり部」ビール特集第2回は、「日ノモトブルーイング」田村大介さんのクラフトビール人生にスポットを当てていきます。聞きにくい「お金」の話もこっそりうかがっちゃいました。「自分でクラフトビールを作りたいかも」と思う人、必読です!
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1981年生まれ、秋田県出身。サラリーマンを経験した後、2017年より東京・神保町に「日ノモトビアパーラー」をオープン。自らビールづくりにも携わりたいという思いから、2022年、東京・駒込に拠点を移し、クラフトビール醸造所「日ノモトブルーイング」をオープン。併設のビアバーではオリジナルビールや世界各地のクラフトビールが堪能できる。https://www.instagram.com/hinomotobeer/
会社員からクラフトビール職人へ! しかしコロナ禍で紆余曲折
――前回もうかがったように、最近は小さな醸造所(マイクロブルワリー)も増えていますよね。田村さんはどうしてクラフトビールづくりの道に?
田村さん:もともと会社員をしていたのですが、ゆくゆくは何か自分で事業をしたいなと思ってはいて。そんなときに、自宅でつくれるビールキットがあるということを当時勤めていた会社の社長から聞き、興味本位でつくってみたんです。
――それがめちゃくちゃおいしかった?
田村さん:むしろ逆で、全くおいしいとはいえない代物でした。ただ、意外と簡単につくれることがそれでわかったんですね。ちょうどその頃、日本でクラフトビールが盛り上がってきて、いろいろなビアスタイルが登場してきたのも大きいです。
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――ビアスタイルの話は前回のお話でもありましたね。
田村さん:風味や味わいのバリエーションが多くて、ビールってこんなに多彩なのかと驚きました。しかも、自分がつくったビールキットと全く違っておいしい。大規模な施設じゃなくてもビールをつくれることを知って、自分でもやってみたくなったんです。それに、ビールだったら一生嫌いにならないだろうと。それで会社を辞め、2017年に神保町でビアバー「日ノモトビアパーラー」をオープンしました。
――「会社員を辞める」って大ごとだと思うのですが、踏み出すきっかけとなったのは?
田村さん:妻の一言ですね。ずっと「やりたいけどどうしよう、まだ早いかな」と悩んでいたら、「いつまでぐだぐだ言ってんの? どれくらい準備できたらやれるの?」って。
――奥さま、かっこいいーー!!
田村さん:どうせいつかやるんだったら、早くやるべきだと目が覚めました。「今すぐやります!」って即決でサラリーマンを辞めましたから。今では言った本人も後悔してるかもしれませんが(笑)。
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――ビールをつくる醸造所ではなく、ビアバーを開いたのはどうしてですか?
田村さん:いきなり醸造を始めるのはハードルが高かったので、まずは国内のクラフトビールをお店で扱いながら知識を深めたいなと。オリジナルクラフトビールの製造を委託できるブルワリーというのがあるんですね、いわばビールのOEM(委託者のブランドで製品を生産すること)と言いますか。そこでビール作りを勉強させていただきつつ、店舗オリジナルのビールを数ヶ月に一度くらいのペースで作り、日本全国のクラフトビールと一緒に提供していました。しかし、軌道に乗ってきた3年目に、コロナ禍に突入しまして。
――飲食店はダメージも大きかったですよね……。
田村さん:せめて売り上げの足しになればと、昼にお弁当を販売しようと思い試作もしましが、周りは安くてうまい店がひしめく学生街。一つ1,000円近い弁当で太刀打ちできないと実感し、吹っ切れました。クラフトビールの事がしたいのだから、クラフトビールに特化するべきだと。もうお店も畳んでしまおうか、でもクラフトビールには関わっていきたいと、日々悩んでいました。
一人っきりでビールをつくる理由は「経験しないと納得できない」から
――そんなピンチのなかで、現在の「醸造所併設のビアバー」を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
田村さん:中小企業の業態転換などに利用できる「事業再構築補助金」という国の制度を知ったんです。それを使って飲食業から酒類製造業のほうに転換すれば、補助金を利用してクラフトビールづくりに挑戦できるんじゃないかと。でも、一方で葛藤も。
――葛藤?
田村さん:醸造所をつくるとなるとさらにお金もかかります。家族も養っていかないといけない。でもこれはもう、やるしかないと「ラストダンス」的な感じで妻を説得しました。
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――それで2022年に神保町のお店を閉店し、駒込に場所を移して醸造所兼ビアバーをオープンさせることになったと。でもクラフトビールの醸造所って、誰でも始めていいものなんですか?
田村さん:「酒類製造免許」が必要になります。免許を取得するには、大きく4つの条件をクリアする必要があります。
事業用の土地・建物
ビールを醸造する設備
醸造に必要な技術的スキル
資金
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――醸造のスキルはどうやって得たのでしょうか?
田村さん:独学しつつ、ほかのブルワリーの方々からも色々と教えていただきました。ビアバーをやっていましたから、ビールの仕入れもさせていただきながら。一般的には醸造所に勤めて経験を積んでから独立というパターンが多いので、僕はレアケースだと思います。神保町時代にオリジナルビールの製造を委託していたブルワリーでレシピの設計から、仕込み準備、仕込み、片付けまで一通りの作業を、2〜3ヶ月に1回の頻度で2年くらい経験させていただいたのがベースです。コロナ禍になり、醸造所の立ち上げを具体的に考え始めてからは友人達が運営しているブルワリーに毎週通い、研修を受けさせてもらいました。その時期は店が営業できず、時間だけはありましたので……そこでの経験は、今でもすごく役に立っています。
――醸造の作業はすべて一人でやるんですか?
田村さん:ビアバーの営業はスタッフがいますが、ビールづくりは完全に一人ですね。どうすればイメージ通りのビールがつくれるか、発酵の状態がどうなっているのかなど、悩みながらやっています。
――まさに“てさぐり”ですね!
田村さん:本来は醸造責任者を迎え入れてやるのがいいんでしょうけど、まず全部自分でやってみて、失敗もしながら経験していかないと納得できないというか、ドキドキ感がたまらないというか。なんというか……ちょっとバカなんでしょうね。
――笑。
田村さん:ビール仲間や他の醸造所の人と情報交換することもあります。クラフトビールに関わる人たちって、みんなでクラフトビールを盛り上げようという気風からか、レシピやコツとかを結構教えてくれるんですよ。クラフトビール業界のそんなオープンなところも好きですね。
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自分でビールをつくる魅力は「好きな味のビールがつくれる」
――ビールづくりのどんなところに魅力を感じますか?
田村さん:なんといっても、自分の好きな味のビールがつくれるところですね。麦やホップの種類や副原料、発酵の具合などで、さまざまな味わいになるのがビールのおもしろさです。狙い通りにつくるのも腕の見せどころですし、この組み合わせはどういう結果になるのかな、みたいな、理科の実験をしているような楽しさもあります。
――試行錯誤を楽しめるのって素敵ですね。
田村さん:僕は醸造の経験こそ少ないものの、ビアバーをやっていたので、国産のクラフトビールだけでも1,000種類以上は飲んでいます。他の醸造家よりもたくさんの種類を飲んできていると思うので、そういった強みも活かしながら、新しい発見があるビールを提供していきたいし、みなさんにも楽しんでもらえたらと思います。
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聞きにくいけど聞いちゃおう! お金の話
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それはそうと、この存在感のある設備たち、お金がかかりそう。聞きにくいけれど、聞いちゃおう!
――あのー、ちなみにお店をつくるのっていくらくらいかかるんですか? 例えば、この醸造の設備とか……。
田村さん:これ? 設備費もろもろで2,000万円は余裕で超えています。
――にせんまん!?
田村さん:運送費や諸経費、いろいろ入れると2,500万円くらいかな。今は金属価格の上昇が関係して、この規模だともっとすると思いますよ。設備はリースでもないし、固定資産税もかかります。普通、一人で買いませんよね。醸造関連設備以外にも店舗の内装とか運転資金とか、いろいろお金はかかりますから、個人でできる借り入れ金額マックスでねじ込みました。だから失敗は許されないけれど、……やっぱりバカなんでしょうね(笑)。
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お金の話で突然現実に引き戻された気分になったけど、目の前の田村さんはとても楽しそうで。クラフトビール、色んな意味で奥が深い……!
いよいよ次回はビールの味のわかる大人になるべく、“利きビール”に挑戦。ビールの味わい方や好みの一杯の見つけ方を学びます!
(つづく)
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クレジット
文:大浦綾子
編集:川口有紀
撮影:和田咲子
校正:月鈴子
取材協力:日ノモトブルーイング
制作協力:富士珈機
ライター・大浦綾子
東京都在住。雑誌編集者を経てフリーライターになって早12年目に突入。「とりあえず、生!」が口癖の昭和生まれ。ビールをたくさん飲めると聞いてホイホイ受けたこの企画だが、飲みながらまともに話が聞けるのか。クラフトビールの知識をつけて、ビアバーでスマートに注文できる大人になりたい。
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