こんなひといたよ 第15話「人生という化け物と戦う男」
私の読んだマンガで出会った人たちの物語を紹介するシリーズ「こんなひといたよ」。
最近すっかり古谷実にはまっている。今回は「サルチネス」というマンガから…。あたまのおかしい男とお巡りさんのやりとりを紹介する。
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道端でお巡りさんの股間をいきなり握った男が交番へ連行された。男は、伸び放題に伸びた髪の毛に整っていないあごひげと汚らしい身なりだ。
股間を握られたお巡りさんは「お兄さん名前を聞かせてくれるかな?」と聞いた。彼まだ30歳くらいだろうか若くて誠実そうな男だ。
名前を聞くお巡りさんに向かって男は変な話を始めた。
「一機がオーストラリア大陸ぐらいある無数の未確認飛行物体が、ある日突然、地球に襲来し…あらゆる交渉をした結果…どうやらオレがケン玉のココに一発でキメないと地球がコッパみじんにされる状況に追い込まれたとしても、オレは余裕でできる…パルムの薄いチョとの部分だけ上手に食べながらできる」
あっけにとられて聞いていたお巡りさんだったが、ハッと気が付いたように
「…それ何のお話?」とようやく言葉を返した。
「オレの精神力が尋常じゃないというお話です」
「いやだからね…そんな話をしてるんじゃないんだよ。名前だよ名前!どうして教えてくれないの?」
「名前は今、神様に預けています…」憮然とした顔で答える男。
「じゃあその神様に預けた名前教えてよ」
「神様なんていねーよ!何言ってんだよ、おまわりさん超気持ち悪い!!」
会話…にもなっていないが、男のペースにお巡りさんは振り回されている…。
「もーじゃあ何でお巡りさんのオチンチン揉んだの?あんなの初めてだよ?酔っ払いでもいなかったよ?」
「人は転びそうになると手やヒジで…防御体制をとります…自然に無意識に。そして人は恐怖や不安を感じると…勝手にビビります…無意識に…本能で。」
男は、お巡りさんの質問に…関係なく…再びよくわからない話を始めた。
「お巡りさんご存じですか?人間の脳は恐ろしくズボラでポテンシャルのポの字も力を発揮していない事を。人でいうと超ダメ人間です…ずっとチャック全開でハナクソ食べながら逆上がりしたらウンチが飛び出ちゃうようなヤツです。そんなやつに自動的にしょっちゅうビビらされるのは実に不本意だ…だから私は17年間どんな状況下でも”平常心”でいられるとても厳しい修行を積んできました」
再びお巡りさんは聞いた
「…それ何のお話?」
「私がものすごい修行をしてきたというお話です。」
「お巡りさん…あなたは首から下を地面に埋められて3か月間暮らせますか?」
「ええ?そんなの無理だよ…誰だって無理でしょう」
「私はやりました…庭にガッツリ埋めてもらい3か月間…パンと水を1日1度運んでもらって…。」
この変な男ならやりそうだが…この男まったく信用できない…そりゃそうださっきからお巡りさんの質問には何も答えていない。そもそも道端でいきなりお巡りさんの股間を握る男だ。
男の修行話はまだ続く「おまわりさん…あなたは2か月間…1日18時間ただひたすら時計の秒針を読み続ける事ができますか?誤差が3秒でたら2時間延長です…地味だがこれが一番きつかった。最も長かったのは2年間一言も言葉を発せずフラフープを持ったまま生活するヤツです。フラフープが少しでも地に着いたり、言葉を発したら、じいさんとディープキスだ」
お巡りさんは困り果てた顔で「…それが君のいう厳しい修行?」
「自分でも何をやったのか覚えていないくらいありとあらゆるモノをやりました」
お巡りさんは一応もう一度聞いてみた
「それで?君の名前は?」
男はもちろん悪びれ風もなく、真顔で言った。
「名前は落としました…おやおやコチラに届いていませんか?」
「もぉ~~~」若いお巡りさんはうなるしかなった。
***
男は、このマンガの主人公である中丸タケヒコ。自分が自立していない事が愛する妹の自由を疎外していることを祖父から指摘され、新しい自分へ生まれ変わろうとしている(?)。
この場面の前に、自分は「人生という摩訶不思議な化け物と戦うファイター」だと宣言している場面がある。そして化け物との戦い方には方法があると言い「人生と戦うには、人生に翻弄される前に先手必勝で仕掛けることが大事。人間が持っているもっとも重要な武器は「勇気」だ。」と言っている。
その勇気の証明として、お巡りさんの股間を握ったという…お話である。