精神科の入院制度には致命的な欠陥がある

我が国の精神科の入院制度には、人権擁護の視点で致命的な欠陥があると考える。それは一言で言えば、「入り口は制度として検討されているが出口は検討が十分でない」ということである。

■ 現行の精神科の入院形態

現行の入院形態には、5つがある。

● 任意入院
本人が希望または同意しての入院

● 医療保護入院
医療および保護が必要であるにも関わらず、本人の同意が得られない場合の入院。家族の同意があれば入院が可能。

● 措置入院
都道府県知事または指定都市の市長が、自傷他害のおそれがあると判断しての入院。2名以上の指定医が入院の必要性を認めることが要件。

● 緊急措置入院
急速を要し、措置入院の手続きが取れない場合の入院。都道府県知事等は72時間を限度として本人や家族の同意なく入院を決定できる。

● 応急入院
応急入院の指定病院に、72時間を限度として、応急指定病院の管理者が入院を決定する入院。

20年ほど前までは、日本では任意入院の制度がなく、精神病をわずらった人々の多くは家族や医師の判断で入院を強制され、医師が退院を認めない限りは病院から出ることはないという、人権上とても問題のある運用がなされてきた。

■ 入口はあるが出口がないという大問題

問題は、これらの入院形態は、その入り口が法律などで整備されてはいるが、出口については明確な規定がなく、人権が制限された状態を解除できるのは入院先の担当医師のみである、ということである。

精神科での勤務経験のある看護師から聞くところでは、重篤な錯乱状態は、新薬と看護技術の発展によって、ほぼ30日程度で落ち着いた状態になるとのことである。エビリファイやクエチアピンなどの向精神薬の登場によって、精神科医療は大きく変化してきたが、その変化に応じた制度の改定がなされていないのが問題の本質であると考える。

また、近年オープンダイアローグという心理技法が注目され、特に統合失調症への効果が期待されている。これ以外にもさまざまな心理的な支援や訪問による看護が活発になっていけば、入院しなくても治療が行われ、人としての尊厳が守られた状態で地域で生活する基盤が整っていくであろう。

加えて、現行の医療保護入院と措置入院の制度は、「家族による間接的な医療虐待」という要素をはらんでいる。これを排除するためには、家族が申し出た入院については、家族とは無関係の後見人をつけることで、本人の権利が擁護されるように配慮すべきである。

日本の精神科医療の歪み=異常な長期入院は、国連からもたびたび是正を勧告されているところであり、出口を適切に設定すること等によって是正されるべきものと考える。

■ 現行制度の変更案


個人的な意見であるが、本来あるべき入院形態は、次のように改めるべきであると考える。

● 医療保護入院
最長の入院期間を60日間とする。60日を超えて入院が必要と判断される場合は、措置入院に切り替える。切り替えの要件として、都道府県知事または指定都市の長の承諾を必要として、家族とは無関係の成年後見人を指名して当事者の権利を擁護する。
つまり、最初の30日間で容態の安定を確認して、それでもなお強制的な入院を必要とするのであれば、次の30日以内に都道府県知事等の同意と成年後見人を準備することを要件とする案である。

● 措置入院
医療保護入院からの切り替え形態として、措置の有効期限を1年間として運用する。有効期限を更新する場合は、あらためて都道府県知事または指定都市の長の承諾と、(家族とは無関係の)成年後見人の同意を必要とする。

なお、緊急措置入院と応急入院は、期間に72時間の定めがあるので改める必要はないと考える。

このように整理すると、精神科病棟の入り口は、任意入院、医療保護入院、緊急措置入院、応急入院のいずれかであり、出口については、措置入院への切り替えや措置入院期間の更新要件を満たさなくなることで判断される。同時に、本人が希望する場合に、措置入院から任意入院に切り替えて入院を継続するというルートがあって良いと考える。

■ 本来の精神科医療とは

本来の精神科医療での入院は、本人が希望する任意入院がメインで、本人が希望しない措置入院は少数の例外であるべきだ。
そうして入院生活をされる方々が、薬物療法、カウンセリング、集団療法などの適切な治療を受けることができて、その個々の体験が病院の評価として公開され、医療サービスが不断に質的向上を目指すという、本来あるべき姿になっていくことを切に期待したい。

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