エリートのスポーツ、ラグビー
ラグビーワールドカップで日本がアイルランドを破りました。体格に劣る日本のフォワード陣がスクラムで互角以上の奮闘を見せ、集中力を切らさない全員でのディフェンスが格上アイルランドを追い詰めました。どのスポーツよりもフィジカルが求められる競技でありながら、どのスポーツよりも精神性が重要になるところに、ラグビーのおもしろさがあります。
よく言われるように、ラグビーは紳士のスポーツです。ラグビーは紳士のスポーツ、サッカーは庶民のスポーツだと言われると、日本人は少し違和感を覚えてしまいます。どちらかというとラグビーは泥臭く、サッカーはスマートだからです。なのでぼくは、ラグビーはエリートのスポーツだと言っています。
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文豪アレクサンドル・デュマの代表作「ダルタニャン物語」に、敵と遭遇した際、三銃士のひとりポルトスが自分の従者を逃がすシーンが出てきます。平民である従者は勇気がないから戦闘には向いていない、敵と戦うのは勇敢なる貴族の仕事だというわけです。騎士道華やかなりし17世紀フランスでは、高潔で勇敢なことが貴族の名誉だったのです。おもしろいことに、同じ頃の日本でも、高潔さと勇敢さが重んじられていました。名こそ惜しけれ。板東武士に始まる名誉を重んじる伝統が、江戸時代に武士道として完成されていたのでした。
ヨーロッパにおける封建領主階級は、貴族と呼ばれています。対して日本では、中央集権制における中央官僚を貴族と呼ぶため、しばしば概念の混乱が生じます。日本における封建領主階級は武士と呼ばれていますが、この階級こそが、ヨーロッパにおける貴族に相当します。イギリスにおける「紳士=ジェントルマン」もほぼ同等の階級です。彼らは領主として領地と領民を治める傍ら、領地と領民とを守る責任を負っています。概念の混乱を避けるため、ぼくは、彼らのような一般市民に対して責任を負う高貴な人たちのことをエリートと呼ぶことにしています。
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ラグビーは、たしかに泥臭いスポーツです。防具ひとつ付けずに、迫りくる巨漢の足元にめがけてタックルをしなければなりませんし、ラックではボールを奪われないために全力で相手に体をぶつけなければなりません。フェイントやドリブル、パスワークでファンタスティックなプレーが求められるサッカーと比べて、体を張らなければならないラグビーが泥臭いのは間違いありません。けれどもラグビーは、体を張るスポーツだからこそ、エリートのスポーツなのです。そして、それがエリートのスポーツであるからこそ、どのスポーツよりも精神性が重要になるのです。
試合終了後に日本チームを拍手で称える敗者アイルランドチーム。そのアイルランドチームを拍手で送る日本チーム。騎士道と武士道の遭遇を、この素晴らしいシーンに見出すことができます。
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