仲間意識と仲良しクラブ
吉本興業をめぐる一連の騒動もようやく沈静化してきました。
芸人自身が取ってきた仕事を会社を通さずに引き受けていたことが発端となった今回の騒動ですが、その背景には、芸人へのギャラ配分が少ないこと、大半の芸人が芸能では食べていくことができず生活苦となっていること、芸人と会社との間で契約書の取り交わしをしていないことなど、芸人と会社との関係に関するいくつもの課題があったとされています。その反面、反社会的勢力との交際など不祥事が明らかになると、契約解除や謹慎など、会社からは芸人へ厳しい処分が下されます。これらが複合し、芸人と会社の相互不信が問題を増幅させました。大物芸人が会社と直談判し、後輩芸人が会社批判をする。今回の騒動は、かつてでは考えられなかったこういった展開を見せました。
仲間を守りたい、仲間の味方になってやりたいという気持ちが表れていたからでしょうか、メディアも一般市民も会社を批判する芸人たちに同情的であったように思います。一方で、芸人同士がいつのまにか仲良しクラブになってしまったという批判の声も存在しています。芸人たちが切磋琢磨し、ライバルに負けたくないとばかりにとんがっていた時代は、もう過ぎ去ってしまったのかもしれません。売れっ子芸人が抜けた枠を自分のチャンスと捉えるギラギラした芸人は、少なくとも表面的には決して多いようには見えません。
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ぼくのいたダイコクドラッグは、高時給を売りにしています。世間では、研修期間中の時給は低いのが普通ですが、ダイコクドラッグでは初日から高時給。その代わり、資格取得などによる手当を除き、勤務期間が延びても時給アップはありません。つまり、初出勤のアルバイトも、ベテランアルバイトも同じ時給で働いているのです。スキルの異なるアルバイトが同じ時給で働くことは、一見すると合理的でないように見えます。けれど、実際にはこのやり方はかなり合理的なのです。
まず、時給が高いので、アルバイトの募集に競争力があります。初日からその高い時給をもらえるわけですから、ほかの会社に比べても応募数は圧倒的に多い。だからこそ、厳選した人材を採用することができます。次に、経験豊かでスキルの高いアルバイトもそうでないアルバイトも同じ時給なので、シフトを決める責任者は、できるだけスキルの高いアルバイトに多くのシフトを割り当てるようになります。採用したての新人は、シフト希望の薄い時間にしか仕事に入れません。新人も、高い時給に惹かれてやってきているので、なるだけたくさんのシフトに入りたいと思っています。多くのシフトを得るためには、スキルを上げやる気を見せなければなりません。短期間でスキルを上げ、先輩アルバイトよりも仕事ができるようになれば、勤務期間に関わりなくたくさんのシフトに入ることができます。ダイコクドラッグでは、アルバイトの一人ひとりがあたかも個人事業主であるかのように、ライバルである他のアルバイトとの間で仕事の奪い合いをやっているのです。レギュラーを張っていたベテランのアルバイトが辞めることは、ダイコクドラッグのアルバイトにとって、自分のシフトを増やす大チャンスの到来なのです。
ドラッグストアの経営者としては、店長以下従業員たちが仲良しクラブになってしまうことは、断固として避けなければなりません。実力ではなく、古いから、親しいからという理由でシフトが割り当てられることの温床となるからです。
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誤解のないように付言しておくと、ダイコクドラッグの従業員たちは、仲間意識が強く、結束力も高いです。一人ひとりが個人事業主のようなものですから、全員がその苦労を分かち合っています。結束力が高いことで助け合ったり、お互いにやる気を鼓舞したりすることもできます。だからといって、仲良しクラブになって傷をなめあわせるようではいけません。
社会が変質する中で起きた、吉本興業をめぐる一連の騒動。結束力の高い仲間集団であることと傷をなめあう仲良しクラブに陥らないこと。この線引きをうまくコントロールすることができるかどうかに、これからの「お笑い」がかかっているのかもしれません。
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