『せかいいち大きな女の子のものがたり』
その名はアンジェリカ。
1815年8月1日、テネシー州で生まれました。
作者は、環境教育に携わっておられた方で、カリフォルニア在住。
この本が最初の作品だそうです。
絵は、ニューヨーク在住で、既に高い評価を得ておられる画家さんです。
訳者は落合恵子さんです。
ものがたりがはじまる前、こんなふうに書いてあります。
さてアンジェリカちゃん、生まれたときは、普通の赤ちゃんということですが、お顔は、父さん母さんよりはるかに大きくて(笑)、体も大きい。
なんと2歳のとき、父さんからもらったぴっかぴかの斧で一人で丸太小屋を建てました。えっ? 2歳のおチビちゃんに新品のぴっかぴかの斧をあげるの?
水色のドレスのアンジェリカちゃん。目の色はドレスと同じ水色です。
アンジェリカはみんなを驚かせながらすくすくと大きくなります。
12歳のある日、沼にはまって動けなくなった幌馬車を何台も軽々と持ち上げて救い出し、「どろんこてんし」とよばれるようになりました。
さて、ここからアンジェリカのすごさがさく裂します。
テネシー中の食料貯蔵庫を荒らし回るとてつもなく大きなクマを人びとは「じごくのならずもの」と呼んで、やっつけようとします。だけど鉄砲玉だってはじいてしまうほどの毛皮につつまれたクマはとても手ごわくて、村人は困り果てています。
クマを退治した者にはクマの毛皮と栄誉を与えるということで、命しらずの男たちがぞくぞくと名乗りをあげ、長い列をつくります。
その行列にアンジェリカが並ぼうとしたとき男が「おう、てんしさんよ。おまえさんは家にいて、裁縫でもしてたほうがいいんじゃないのかい?」といいます。アンジェリカは「裁縫? それは男の仕事じゃなかったかしら」。
男たちのからかいに尻込みするようなアンジェリカではありません。
男たちはクマ退治に挑んだものの、次々、ほうほうのていで戻ってきます。
さて、アンジェリカは?
まず、クマを空のはるかかなたへ投げ飛ばします!!!
しばらくすると竜巻がやってきました。アンジェリカはその竜巻をつかむとぐるんぐるんと振り回します。竜巻の先が、空のかなたのクマにひっかかり、クマがドシーンと落ちてきます。アワワワッ~~
うん? 闘争心むきだしで取っ組み合ってはいるけれど、どちらも、ふっと気のぬけた顔をしていたり、ふふふと、笑っているようにも見える。闘う者同士に通じる“何か”があるのでしょうか。
アンジェリカとクマの表情が画面いっぱいに描かれているかと思えば、隅っこの小さいスペースに釣り人や小鳥がちんまりといたりする。テネシー州の森、山、川‥‥、あたたかい絵です。
3日3晩、闘いつづけているから、どちらも本当に眠い。ほとんど寝たまま闘っている。そしてそろって大いびきです。
クマのすごいいびきと、あらしの中を走る機関車のようなアンジェリカのいびきの大合唱は大地をふるわせ、森の木はほとんど倒れてしまいます。
テネシーで2番目に大きいマツの木も倒れ、てっぺんにあった小山ほどもあるハチの巣から川のようにはちみつが流れ出します。5日間何も食べていなかったクマは腹ペコで、うとうとしながら夢中になってハチミツをなめます。
そこにアンジェリカのいびきの振動で、テネシーで一番大きな木が倒れました。クマは下敷きになり、あえなくあの世にいったそうです。
アンジェリカは、心をこめてお祈りをしましたよ。
「みんなをあんなに困らせるからこんなことになっちゃうんだよ。アーメン」
そして、そして、テネシーじゅうの人たちの大宴会が始まりました。
クマのステーキ、クマのマフィン、クマのケーキなどでおなかいっぱいになり、食べきれなかったクマの肉は、空っぽになっていた貯蔵庫にぎゅうぎゅう詰めになったそうです。
最後の絵は、
アンジェリカがクマの毛皮をひきずって意気揚々と歩いている。
クマの爪をけずって造ったボートが川に浮かんでいる。
🐰うちの子どもたちが小さいとき、『11ぴきのねことあほうどり』のでっかいあほうどりや、『うさぎちゃん』の「おおきく おおきく おおきくおなり うさぎちゃん」が大好きでした。“大きくなる”お話は、ワクワクして、おもしろかったようです。
『一寸法師』や『桃太郎』は、さらさらとスルーだったような‥‥。
200年前のアンジェリカちゃんと、『成瀬は信じた道をいく』の元気な女の子が重なったような、楽しい絵本でした。
『せかいいち大きな女の子のものがたり』
ポール O. ゼリンスキー 絵
アン・アイザックス 文
落合恵子 訳
冨山房 1996年2月16日
『11ぴきのねことあほうどり』馬場のぼる こぐま社 1979年4月10日
『うさぎちゃん』せなけいこ 金の星社 1980年9月