がんをめぐる冒険(42)抗がん剤治療をやめるという決断

 抗がん剤の副作用でうつになったと気づいたのは、点滴から5日後。
 ふと、「あれ? 何のために生きていたんだろう」と考え始め、
 人生で初めて「死にたいかも…??」と思いました。
 いやいや、おかしい。
 手術したってそんなはずなかったのに……。
 
 今まで生きてきた中で、うつになったことがなかったこともすごいなと、自分をホメてみたり。出版からIT転職してついていくのが大変だったり、今度は逆にドメスティックな会社に入って改善しようとしても反対勢力が動かなかったり、人を中傷して自分の給料を上げた性格の悪い同僚にからまれたり、どんな職場でも敵も吸収して味方にしてきまた(つもり)。下手したら心がポキッと折れて病む機会は何度もあったはずなのに、ここまで健康でいられたことは我ながらすごいと思うんです。
 うちの父のウリは「動じないこと」なんだけど、ここは親譲りでもあります。父は旧満州生まれで、当時は裕福な暮らしをしていたのですが、終戦でロシア兵が民家を攻撃、略奪し、押し入れに隠れて命拾い。日本に帰るときは引き揚げ船に乗せられ、日本に帰ってきたら「北の国から」のように山を開拓し、家を作るところから始める極貧生活を経験しました。ですが、自分の関心のないことは全く覚えていないし、嫌なことを覚えていないので人を恨むこともない人間です。もしかしたら恨みが溜まってて、年取ってボケて素が出だときに、ものすごい恨みがましいヒトになったら……なんて心配したのですが、晩年はますますお気楽な人になり、本当に動じないヒトなんだと実証されました。そんなわけで、動じないのは、我が家のDNAでもあります。

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