がんをめぐる冒険(3)がんのはじまり

最初に異変が起きたのは足の付け根にしこりができたことでした。
ダンスのストレッチでなんとなく触っていたら、しこりがあることに気づき、病院に行ったのが始まり。大きさは5センチくらい。うずらの卵より大きいけど、卵のSサイズほど大きくはない、といった感じ。外科に行き、レントゲンをとると特に問題なく、一応婦人科も受診させられたけど問題なし。
「でも気になりますよね?」
「はい……」
「とりますか?」
「はい……」

 以前精巣がんの方の取材で「ある日気が付いたら睾丸が腫れてニワトリの卵のSサイズぐらいになっていた」という話を思い出しました。気になりだすとやっぱり気になる。
そこで、形成外科を受診し、手術の日も決めたものの、別の問題が頭によぎりました。その頃、終の棲家になるマンションが欲しかったんです、これが近々に手術歴があると住宅ローンの団信が通らなくなる。しかも3カ月前に父が亡くなったばかりだったので母に言うとまた動揺するのし、混乱するし面倒……、とあれこれ考え、その日のうちに一旦キャンセルしました。
ところが、ダンスのレッスンに行き、ストレッチで開脚すると、しこりが床にゴロゴロ当たり、なんとなく気になる……気になるからまた触ってが増えて「やっぱり手術しちゃおう!」と思い、もう一度形成外科に。すると「別に急ぎじゃないから改めて落ち着いてからで」と断られ、保留にしていました。医師からしたら、手術やる、やらないで気持ちの安定しない患者は問題起きたら困るというもの、断られて当然でした。

と思ったら、なんと気になる物件が! 1DK、駅近。気になり始めて申し込みを指値で入れました。通るかどうかわからないし、もうGWが迫り、旅の予約そしていたので、こちらも銀行に相談したところで保留になりました。その後、ゴールデンウイークは10日間波照間島で過ごし、途中リモートワークで原稿を送りながら、毎日ウミガメと海で泳ぎ、最高にリフレッシュし、しこりのことは一旦保留。結局、審査は通ったものの手遅れ。次のチャンスに向けて動き方を考える機会になったかなと思い見送ることになりました。

 そんなことを忘れて夏は伯父のマンション処分に奔走。4年前に伯父が亡くなり、その後1人で暮らしていた伯母が1年前にゴミ屋敷を残して亡くなり、相続の手続きが済んだ後のマンションの処分というミッションができたのです。きっかけは1年前の夏、伯母が外に買い物に出た際に熱中症で倒れ、救急車で運ばれ、警察から我が家に電話があったのです。ちょうど父も入院中。母も手一杯で、私が着替えなど入院セット諸々を買い込み、手続きに行ったのでした。そこで以前から気になっていたのは伯父マンションのこと。伯父が死んだときにも誰も部屋に入れず、伯父の葬式を終えるとタクシーにひょいとお骨を乗せて1人で帰ってしまった。口数の少ない伯父が「荷物が多い」と言っていたので、かなり怪しい……。今後入院となると生ゴミも心配。伯母のカバンを預かり、その足でマンションに行くと、予感は的中!! テレビで見るようなゴミ屋敷!!! 玄関の下駄箱の上には葬式のときに持ち帰った袋のままの伯父のお骨と位牌。けものみちを抜けた先のリビングも天井までゴミだらけ。生ごみどころか手を付けられず、写真だけ撮って、親戚に知らせました。そこから1カ月後、体調が急変し亡くなったのですが、ゴミ処理と相続の手続きが済んで売れるようになったのがこの年の6月で、8月に買い手が付き、9月の末に決済が済んだのです。

 ようやく落ち着いた9月末の土曜日のこと。夕方になるとなんか足の付け根がうずき、痛くなってきた。気づけば前より腫れているようで、夜20時くらいに仕事を終えて帰ろうとしたときには足を引きずるほどになっていました。

 いつも通っている銭湯に行くと、近所のナオミさんが、「うちのダンナ、脱腸で、たまに飛び出てますよ」なんて言ってて、「そーなんだー(笑)」なんて思っていたけれど、日曜になるとさらに腫れ、仕事に行くと椅子に座っていても足の付け根を圧迫するので、微妙になってきました。
腫れもますます広がり、まずは月曜朝イチで以前受診した総合病院に行きました。 

 3月に受診した外科に行くと、形成外科のほうがいいでしょうと回され、CTを撮ってみたけれどよくわからず、中身が何なのか、美人の形成外科の先生と筑波大から来ている研修中の学生の先生が触診したり。水分なのかと注射針を刺してみても引けず……脂肪なのかカタマリなのか、生検してみないとわからないということで、翌日手術で中身を確認しようということになりました。この日は抗生物質のお薬を処方され、薬を飲むだけ。まさかこんな大事になるとは思いもしませんでした。

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