がんをめぐる冒険(29)真由美さんとの出会い

 入院が長くなると、看護師さんが忙しい(人員が手薄な)とき、医師の指示がなかなかこない時間帯などもわかるようになります。看護師さんは本当によく動いていて「忙しそうだからもうちょっと落ち着いたころに相談しよう」と思うこともしばしばでした。
 そんな中、同じ病室の奥のほうで何やら話し声が。寝たきりの患者さんが、お水の購入を頼みたいけれど、看護師さんも手一杯な様子。お買い物を頼むヘルパーさんは日中しかおらず、夜になると看護師さんにお願いするしかありません。患者さんも必要そうでしたが、看護師さんは他の仕事もあるので、後回しになりました。つい数日前、術後で動けなかっただけに、寝たきりで水も買えないもどかしさに共感してします。私は自販機で水を買い、カーテン越しにお水のペットボトルをプレゼントしました。
「他に必要なものがあれば行きますよ」と言ったら、
「あのね、トマトジュースが飲みたくて」
 寝たきりで何もできないからこそ、好きな飲み物ぐらい選びたいもの。選択できないって、心理的にとても不自由です。
「今、自販機の写メ撮ってくるから、それで選んで?」
と言って、写メを見せて、お金を預かり、トマトジュースとお茶を買って届けました。
 彼女はとても嬉しそうな顔をしてくれて、私も嬉しくなりました。そのあと、ストロー穴をあけたペットボトルのキャップをあげたりしました。
 ようやくトイレまで歩けるようになると、ラウンジにいる私のところに寄ってくれて話をするようになりました。彼女は真由美さんといって、私と同じ卵管がんで、抗がん剤治療で髪が抜け、おなかには腹水がたまって動きが難しくなっていました。真由美さんは娘さんに自分の病気のことは言ってないそうで、「私も母に内緒なんです」と言ったら意気投合。
「お友達になって?」
「もちろんです!」
 と私は答えました。

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