がんをめぐる冒険(43)抗がん剤で筆文字が書けない⁈

 もう抗がん剤の化学治療は一旦やめよう、と思った頃、手指の副作用に気づきました。
 人差し指と親指の先がちょっとしびれるくらい。パソコンは打てるから問題ないと思っていたら、
あれっ、筆ペンで名前が書けない……。
指先のコントロールができず、筆ペンがコントロールできず、UFOキャッチャーのようなもどかしさ。
ちょっとした指先だけでこんなに不便とは。
キーボードだけ叩いていると気が付かない盲点でした。
 
 そもそも、不祝儀は大学の剣道部の先輩(男子)のお通夜。1年のときの4年で、副将で、背も高くて、強いし、絶対的先輩。ふだんはすごく優しいけど、飲み屋でからまれたらビシッと抗戦するタイプで、居酒屋とかでも「うちの兄ちゃん強いし」って誇らしかった。
 一流企業に入社して、母校の監督に就任。非の打ちどころのない、そんな人が1年経たずして肺腺がんでこの世を去るなんて思いもしませんでした。お通夜で見た先輩の顔は穏やかで、横に飾っていたお子さんとの写真がとても幸せそう。

 先輩のおかげで剣道部の先輩や同期と会うこともでき、
「びっくりした! 名前見て気がついたわ!」
亡くなった先輩の代の主務だったハギさんに驚かれました。同期はたまーに集まりがるけど、何十年も会っていないので驚くところ。手術でちょうど痩せたので、見栄えは良くなってました(笑)。
 他の先輩に、瘦せた、と言われ、「ハイ! 断食ダイエットしました!」と返しました。
 お通夜は金曜の夜だったので、サクッと行ったけど、次の日の告別式は土曜日の昼間。免疫力が弱まっているので外出はなるべく控えるよう言われていたし、渋谷、新宿と人の多い駅も通過するし、告別式にたくさんの方が参列するので、お通夜だけの参列にしました。
 早すぎるのは悲しいけど素敵な人生を送ったんだな、と「うちの兄ちゃんカッコイイ!」とまたまた後輩として誇らしく、「先輩、私はまだがんばります!」と声をかけてきました。

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