【卓球】理想の世界チャンピオン
グルッバのヨーロッパ卓球
1996年~1997年卓球レポートで、グルッバのヨーロッパ卓球 というグルッバ自身が、ヨーロッパの卓球、つまりシェークハンドの卓球について語る連載があった。そもそもマニアの子以外、若い子達はグルッバを知らないと思うので説明を。グルッバというのは、1980年代~1990年代に40歳近くまで世界トップクラスで活躍したポーランドの選手。現代卓球では、40歳でも世界レベルで活躍する選手がいるが、当時はほとんどおらず、卓球界の鉄人と呼ばれていた。他にもグルッバと言えば、居合抜きバックハンド 両手打ちスマッシュ ロビング、試合中ブチ切れる 等とてもユニークな選手であった。
未来のシェークハンドチャンピオン
1997年12月号、連載の最終回で、未来のシェークハンドチャンピオン という題で、グルッバ自身が思い描くチャンピオン像が語られている。つまり、卓球少年達が、フォアは馬龍、バックは張継科、カウンターはボル! みたいに理想の卓球を語るように、鉄人グルッバが語るのである。「おーなんか面白い企画だ!」と当時11歳の僕は、ワクワクしながら読み進めたのを覚えている。
理想のチャンピオンの体格・技術
はじめに、現在の卓球ルールが変わらなければという前提となっている。当時と今、卓球ルールとして変わっているのは、38㎜ボール→40㎜ボール、21点制→11点制、表ソフトラバーの形状変更、サーブを隠してはいけなくなった、タイムアウト制導入、スピードグルー禁止、セルボール→プラボール、これ以外にも変更されている可能性があるが、大まかに思い出しただけでも、これ程のルール変更が行われている。それでは、グルッバのチャンピオン像を一気に見ていきたい。
身長:180~185㎝、体重72~75kg(この体格が最もパワーロスがなく、あらゆる角度からの打法が容易らしい。)
長い腕を生かした無駄のない動き、卓球に必要な知性と予測能力を持つ
右利き左利きどちらでも構わない
卓球台から50㎝の距離でプレーする(あらゆる打法はこの距離が最も効果的な為。)
あらゆるコース、あらゆる回転のサーブが出せる
フォアもバックも、完璧にドライブ、スマッシュ、ブロックができる
つまり完璧な選手ということである。当時読みながら、「おいおいグルッバ、夢語り過ぎじゃねえか?完全にSFじゃん。これなら俺でも語れるよ。」と思った記憶がある。しかし、ここから面白くなるのです。このSFみたいなチャンピオンに実在の選手をあてはめて語られていきます。それでは見ていきたいと思います。
理想のチャンピオンを選手に当てはめると
まずバックハンドから。ここでフォアからではなく、バックから語るところが「ヨーロッパらしいなー、グルッバらしいなー」と思った記憶がある。日本みたいにフォア→バックという考えがない証拠である。
バックドライブ:調子が良い時のD・マズノフ(ロシア)
バックハンドブロック:全盛期のクランパ(ハンガリー)
バックハンドスマッシュ:パーソン(スウェーデン)
実際はもう少し詳細に語られているのだが、当時「ここでD・マズノフ出てくるのかよ!しかも調子が良い時限定って、グルッバ厳しいなー」と思い、よく見るとクランパも全盛期と書かれており、この辺にグルッバのこだわりが見えるのが面白い。次にフォアハンドついて。
フォアハンドパワードライブ:ヨニエル(ハンガリー)
フォアハンドカウンタードライブ:クランパ(ハンガリー)
ボールタッチとコントロール:ワルドナー(スウェーデン)
フォアハンドスマッシュ:オーロスキー(チェコ)、ヨハンソン(スウェーデン)
このような打法を最も効果的に組み合わせることが出来るらしい。感想は一言「完璧じゃん」となってしまう。それにしても選出される選手が古い。当時の僕は、ワルドナー、パーソンしかビデオで見たことが無かった。他の選手は名前と実績、プレースタイルを昔の卓球雑誌を読んで知っていただけで、特にクランパの凄さを理解できていなかった。今であればYouTubeで見ているのでクランパの凄さを理解できているが。彼が唯一バックもフォアも理想とされているのは納得がいく。皆さんもクランパを見たことが無い人は絶対に見た方が良い。あの「ぬぼー」とした感じでめちゃくちゃ強いのである。最後に技術以外の部分を見たいと思う。
予測能力:ワルドナー(スウェーデン)
過剰な自信:アペルグレン(スウェーデン)
ハードな練習をこなす才能:フリーゼコープ(オランダ)
冷静な試合運び:セクレタン(フランス)、ワルドナー(スウェーデン)
ワルドナーが2回も出てくる。「やっぱり、グルッバからしてもワルドナーは天才なんだなー」となんか嬉しくなってしまう。そしてフリーゼコープ。彼女もグルッバと同じく、20年近くヨーロッパのトップで活躍した選手である。当時「ここでフリーゼコープか、確かに気が強そうな顔してるもんな―」と思い、今でもそれが彼女のイメージとなっている。実際に引退して復帰したり卓球だけでなく、夫の死等かなりハードな人生を歩んでいるようです。
ここで、「少し調子に乗り過ぎたようだ。夢を語るのはこの辺でやめておこう。」とグルッバ自身も夢を見過ぎていたことを自覚して、理想のチャンピオン像が終わります。
今読んでも面白いですね。興味深いのは、中国人選手が出てこないこと。1997年当時では、技術的にも中国のシェークハンドプレイヤーは発展途上だったということでしょう。(1995年に孔令輝が中国初シェークハンドでの世界チャンピオンとなってはいるが)。今だとグルッバは、誰をチョイスするのでしょうか。しかし、残念ながらグルッバは2005年47歳の若さで癌で亡くなっています。
今度、僕が思う理想の世界チャンピオンを考えてみたいと思います。それでは。