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#6 小中一貫教育のつまずき①

 今回は小中一貫教育推進のプロセス中で起こった「つまずき」の事例を題材に、学校(種)間の協働について考えてみたいと思います。次に紹介する体験談は、都市郊外2小学校と1中学校よりなるR中学校区で小中一貫教員を推進するコーティネート担当を任されたC教諭が直面したつまずきのストーリーです。

事例 効果を上げても盛りあがらない教員たち

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R中学校区のある小学校に勤務していた3年ほど前、「数年後に、市全体で小中一貫教育が導入されることが決まった」という知らせが入った。導入する自治体が増加している小中一貫教育、今でこそ私は「義務教育の制度を見直して系統的に子どもを育成する…」ことの必要性を理解するようになってはいるが、その当時、私を含めた多くの職員は見通しがもてないでいたのか、どこか他人事という様子だった。
そんな中、勤務5年目の4月に、R中学校長の考えで「小中一貫教育コーディネーター」役として準備期間における取組を支援することになった。2小1中のそれほど大きくない中学校区で、それまでに担当していた研修主任等の業務で他校ではあっても顔見知りの職員も比較的多い状況だった。
早速、「小規模校の児童にとって、他校との交流は新鮮で、学習にも良い効果があるはず」と考え、夏休み前に2つの小学校6年生の担任と連携し、国語の「討論会をしよう」の単元で合同授業を実施した。1学年1~2クラス規模の小学校同士だったことから、他者意識を高めた授業ができたり、中学校で同級生となる子ども同士が関わる機会になったりと、子どもの反応も良く、学習面でも生活面でも成果が見られた。
また、中学校進学へ向けて不安感を感じていた6年生へ、秋から冬にかけて国語授業での中学校教員が乗り入れ授業も実施した。私は調整役として授業の検討をしたり、連絡調整をしたりした。これらはR中学校区ではこれまでなかった取組であったため手探り感があったが、目の前の子どもへの教育効果が見込めていたことや、連携している職員とのやり取りが新鮮だったこともあり、業務の合間を縫って各学校に行くというスケジュールもさほど苦にはならなかった。
翌年度4月に中学校へ足を運ぶと、校長先生や中学1年生の担任陣から「落ち着いたスタートが切れている」「昨年度の取組が効いている」という声を数多く耳にした。中学1年生対象のアンケート調査の結果から、6年生時に実施した「合同授業」や「乗り入れ授業」が中学校入学時の不安解消に効果があったと分かったことに加え、中学1年生への個別の聞き取りから、「知っている先生がいて安心した」という声が聞かれた。このような教育効果が明らかになったことで、安心したことを覚えている。
しかし、その夏の小中一貫研修会アンケート調査をしたところ、私がコーディネーター役として推進した合同授業や乗り入れ授業といった取組は、職員の意欲にあまりつながっていなかったということがわかった。私が推進した取組は、子どもへの効果こそ上げていたものの、それはR中学校区の多くの職員にとってあまり意識されることのない、「一部の教員の取組」になっていたのである。
小中一貫教育の推進は市が目玉施策として打ち出している方向なので教員全体としては小中一貫教育自体の必要性はそこそこ意識されていたあったものの、そうした職員の意識を支えていたのは「昨年度の研修会や部会を踏まえているから」「(中学校区の)求める子ども像が示されたから」といった、どちらかと言えば形式的な中学校区全体での取組であった。
この一連の実践から、私がコーディネーター役として推進していた取組、合同授業も乗り入れ授業も、各学校の限られた職員の取組になっていたことに気づかされた。同時に、どこかで「子どもへの教育効果があれば、職員は前向きに取り組むようになるだろう」と考えていたが見通しが甘かったことを痛感した。                (小学校教諭 30代男性)
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<次回に続く>
*このマガジンは2019年度に教育公論社の雑誌『週間教育資料』で取り上げられた連載記事を一部修正し、出版社の許可を得て掲載するものです。(著作権は教育公論社にあります)