#3 チームづくりのつまずき②
事例の概要
前回の連載で紹介した事例の概要は次の通りです。図を参考にしながら読んでください。
研修主任となり、校長の指示で人選をすることになったA教諭は「一人の百歩より全員の一歩」との考え方で、ベテランも若手も参加する組織体制を考え、企画運営リーダーをおいて主体的に参加できる研修部を目指しました。校長の許可も得て、教務主任とも打合わせた上で、研修部の会議で提案したのですが、会議の場で異論が相次ぎ、提案は空中分解してしまいます。そしてこれがきっかけで消極的なチームの姿勢は一年間変わらず、押し付け合いのチームとなってしまったというものでした。
それぞれの教員の組織イメージ
Aさんからすれば、皆が研修部の活動を自分の問題として主体的に取り組めるように提案しているのになぜ・・・?と考えてもおかしくはなさそうですが、逆に他の教員の目線から見ればそれが唐突に思えたようです。提案を聞いた教員の「えーっ。私の名前のところに〇が付いているけど、これは何?」という反応は、こうした事情をうかがわせるものです。
ではなぜAさんの提案は他の教員達に唐突に響いたのでしょうか?それはおそらく、このP中学校でこれまでの慣れていた「組織における物事の決め方・進め方についてのイメージ」と異なっていたからです。
この学校の組織の置かれている環境には、組織としての「動き」をつくりにくそうな条件がそろっています。
まず学校が落ちた環境にある伝統校であることです。学校が生徒指導上の困難に直面していたり、学力が低下して保護者からクレームが出ていたり、といった状況にあれば、誰しも現状打破を考えます。が、安定している学校では「今のままで問題ないのにどうしてあえて変えるの・・・?」という雰囲気になりがちです。
年齢が上下に分かれていることも改革的な動きにはマイナスに働くことが少なからずあります。教職員が同年代層に固まっていれば、共通の話題も増え、コミュニケーションが頻繁になるのできっかけがあれば、動きも作りやすいのですが、年齢層が二分化されているとグループ化が進んで、互いに遠慮し合うので、動きは出にくくなります。
加えてAさんには不運が重なりました。不運の一つは校長のリーダーシップが欠けていたことです。校長は研修部にAさん一人の名前を挙げておいて、質問を受けてからAさんが人選する旨を他の職員に言い渡しています。また企画立案の際にもAさんの判断を裏で許可しているだけです。これではAさんの立場が苦しくなるのは当然です。
不運の二つ目は教務主任が来客で、研修部会の会議に不在であったことです。これにより他の教員の説得をAさん一人で行うことになり、空気は一気に「この提案には賛同できない」という方向に流れていってしまいました。
学校内のポリティクス
さて、多少唐突な投げかけや提案であっても前向きに取り組んでいただける先生方はどの学校にもいます。一方で何か新しいことをしようとすると、面倒くさがってとりあえずケチをつけたがる人もいないとは言えません。しかし、より多数の先生方はこれらのどちらでもありません。多くの教員は自分の持つ組織イメージをベースに、周囲の反応をうかがいながら自分の判断や態度も考えているはずです。
話はそれますが、私達の腸内には、善玉菌・悪玉菌・日和見菌があって、量的に多い日和見菌は健康なときはおとなしくしているのですがからだが弱ってくると悪い働きをする、という話を最近よく耳にします。
学校組織にも似たようなところがあるのではないでしょうか?新たな取り組みに対して一部の人が反発して異を唱えることはどの組織にもあることで、そんなことを恐れていたら何も改革はできません。けれども「日和見派」の教員が反対側にまわり多数派を占めるようになってくると、学校という組織は動かなくなってしまいます。学校の諸活動はそこに参加する先生方がそこに価値を見いだすことができなければ成果は期待できないからです。
今回の事例は、リーダーの改革意欲が高かったがために、それが裏目に出て他の教員のもっていた組織活動イメージとのギャップが生じたことによるつまずきであったと言えるでしょう。改革を試みるリーダーは、組織の動きを作る要所要所では、理屈の上でも雰囲気の上でも提示する方針や手立ての正当性を印象づけ、改革の脇を固めておく必要があります。
今回のポイント
誰もが自身の所属組織についてのイメージを持っており、これが学校の組織活動を枠づける。
学校改善を考える際には、組織の置かれた環境がどの程度の「動きやすさ」を持っているかを見極める必要がある。
組織を動かすためには「日和見派」も含め、リーダーの方向性に賛同する教員を多数派に持っていく必要がある。