見出し画像

米国のNATO脱退の意味するもの!

バンス米副大統領は、2/14ミュンヘン安全保障会議での基調演説において、ウクライナ戦争での欧州との連帯ではなく、欧州による言論弾圧への批判など、「現在の欧州の危機はロシアではなく、欧州の内側にある」とする衝撃的な内容であった。今後、米国のNATO脱退のシナリオを検証し、安全資産である金の相場への影響を考察する。


1.ロシアをG7に迎えるべきとのトランプ政権

EU内には、ロシアがウクライナ戦争の次に欧州を標的にするとの見方があるが、トランプ政権は異なる見解である。ロシアは、ウクライナというロシアと源流を一つにする国家を周辺に維持することで、外国からの侵略を阻止するという防衛的な国家戦略を取っており、領土拡張を狙う中国とは国家戦略が異なるとの立場である。
米国にとって、ウクライナ戦争の発端は、NATOの東方拡大が止まらず、ロシアのレッドラインであるウクライナにまで迫ったことでロシアが反攻に出たとの認識で、ウクライナを超えてバルト3国やポーランド、フィンランドなどの近隣諸国を攻撃するとは見ていない。従って、ウクライナ戦争終結後の欧州の安全保障は、欧州で行えば十分であり、米国は、安全保障の主軸を対中国に注力する戦略と言われている。

2.EUの価値観を受け入れないトランプ大統領

トランプ政権は、EUの国際協調・移民受け入れ・多様性尊重などの融和路線とは一線を画し、欧州が言論弾圧を行い、治安を悪化させ、極右政党との連携を拒否していることを批判している。 EUと基本的価値観を共有せず、ロシアを脅威と見なさないトランプ政権は、EUのNATOにおける軍事費負担の低さに不満を持っており、ウクライナへの軍事支援も、ウクライナの天然資源という見返りなしには継続しない姿勢を示している。

3.トランプ政権に反発するウクライナ

ウクライナは、元々ウクライナの安全保障の見返りに天然資源を差し出す方針であったが、いつの間にか、米国は軍事支援継続の対価として要求する方針に転換している。即ち、停戦後のウクライナの安全は欧州が行うとのスタンスに変化している。これに反発したウクライナ・ゼレンスキー大統領は、米国との資源契約締結を見送っている。
海外への軍事支援を削減したいトランプ政権は、今後ウクライナへの軍事支援を見送り、EUに兵器を売却し、EUの財政負担の下、ウクライナ支援を継続させる方向に舵を切る可能性がある。ロシアをG7の枠組みに参画させたい意向を示すトランプ大統領は、ウクライナ停戦実現後、米国のNATO脱退に着手する可能性に留意する必要があろう。

4.自前での安全保障を迫られるウクライナ

米国がウクライナの安全保障をコミットしないだけでなく、軍事支援を打ち切る可能性も考慮し、ゼレンスキー大統領は、停戦後の欧州軍のウクライナへの派兵を要請しているが、欧州では派兵に積極的な英国とは別に、消極的な国も多く、ウクライナとしては、自国で安全保障の強化を図る必要があり、核再軍備の可能性も取り沙汰されている。

5.核拡散が東アジアに伝播する可能性

トランプ政権は、基本的に自分の国は自分で守れとのスタンスであり、日本がいつまでも米国の核の傘の下に安住できる状況ではなくなっている。トランプ政権は、ロシアと同盟関係にある北朝鮮の核保有を実質的に容認するだけでなく、駐留米軍撤退の見返りに韓国の核軍備を認める可能性すら出てきていると思われる。日本以外の東アジア諸国が核保有国となった場合、日本の取るべき道を今から策定しておく必要があろう。

6.トランプ政権が台湾独立不支持文言を国務省HPから削除

トランプ政権は、欧州の安全保障からの離脱の方向性を示す一方で、台湾へのコミットメントを強める動きに出てきた。これまでの台湾独立を支持しない立場を変更する可能性である。狙いとしては、民主主義の支援というより、半導体大手TSMC保全の色彩が強いと思われる。米国のAI産業の基盤を維持したい思惑が見え隠れする。

7.「力による平和」を推進するトランプ政権が金相場に与える影響

トランプ政権は、強大な軍事力を背景に自国の利益を追及する姿勢を鮮明にしている。鉱物資源や半導体産業など、米国にとって本源的な利益の確保については妥協しないスタンスであり、台湾を核心的利益と位置づける中国との利害衝突も厭わない可能性がある。こうした前時代的な「力による平和」路線が、世界的な地政学リスクを高め、安全資産である金への資金流入が更に加速、1トロイオンス3,000ドルの大台乗せも遠くない将来に実現しそうな勢いである。

(図表 金価格週時推移チャート 右軸:単位 ドル/トロイイオンス 出典:Trading View)

情報は、X(旧Twitter)にて公開中

前回の記事はこちら

2025年2月18日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久




いいなと思ったら応援しよう!