見出し画像

順張りの個人・逆張りの機関投資家!

昨年、ドル円相場は年初の140円から7月に160円台に乗せ、9月に一時140円を割れた後、年末に向け、150円台後半まで反発するなど、大きな乱高下を演じた。その裏で、海外株式・外国債券・為替市場において、日本の個人投資家並びに機関投資家の投資動向がドル円市場に大きな影響を及ぼした。今後のドル円相場の行方を、投資家の投資動向から予測する。


1.年初、好ダッシュの個人の海外株投資

1月第2週の新NISA経由での海外株投資が、1週間で9,000億円を超え、昨年同時期の2倍に膨らんだ。背景として、昨年、米国株中心に海外株が年初より一本調子に上昇し、円安も手伝って年間の投資パフォーマンスが好調であったことを考慮し、今年も同じシナリオを期待した投資が集まった可能性が考えられる。

2.逆張りのGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)

一方、GPIFは昨年年初からの米国株上昇局面では、米国株中心に円ベースでの海外株投資の純資産額が他のポートフォリオ比過大となったことで、リバランスによる売り越し基調が続いたが、7月以降、ドル円相場が急変し、大幅な円高が進行すると、米国債中心に同比過小評価となった外国債券を大幅に買い越し、8月には、単月としては過去最高の7兆円超を買い越した。

3.順張りのFX投資家

昨年のFX投資家は、年初来円売り建玉を順調に増やし、7月には2兆円以上の円売り越しを記録したが、8月の円急騰局面では、円買戻しを迫られ、円売り建玉が10分の1以下まで急減した。しかし、年末に向け、150円台後半まで円安が進行すると、再度2兆円近くまで円売り建玉を積み増している。

4.個人の海外株投資も実は順張りだった

新NISA経由での個人の海外株投資も、ドル円相場がピークの160円台を付けた7月に月間最高の1.5兆円以上の買い越しを記録した一方、8月の円急騰局面では、海外株投資は半減している。本来は中長期的な投資スタンスの新NISA投資においても、個人は、順張りの投資動向となっている。

5.今年の機関投資家動向予測

GPIF以外の銀行・生保も、外債の売買を積極的に行っているが、銀行は、ドル調達での米債投資がほとんどで、生保についても為替ヘッジ付き外債投資が大半を占め、為替リスクを取って外債投資を行うのは、GPIFなど年金勘定に限られるのが現状である。従って、今年は年初から、米長期金利が急騰し、米国債券価格が下落傾向にあるため、米長期金利が5%を超えるような局面では、逆張りの米国債投資を行う可能性が強い。
GPIFは、2023年と2024年合計で10兆円以上外債を買い越しているが、図表1の通り、米長期金利がコロナ禍以降、一本調子に5%まで上昇したことで、値ごろ感から買い越している可能性がある。その意味で、GPIFが米長期金利上昇を抑制する役割を担っているとの見方もできる。

(図表1 米10年債利回り月次推移チャート 出典:Trading View)

6.個人と機関投資家の金融市場に与える影響

今年もドル円相場は、トランプ新政権による経済政策や日米の金融政策の行方次第では、乱高下することが予測される。日本銀行の利上げにより円高が進行すれば、FX投資家の円買戻しが円高を加速させる可能性がある一方、ドル円相場が150円割れとなると、GPIFが同比過小評価となる海外株式や外国債券の押し目買いを実施することで、過度な相場変動を抑制する働きを担うことも想定される。また、行き過ぎた米長期金利上昇が米国株の大幅調整に繋がれば、個人投資家の新NISA投資が冷え込む一方、GPIFの押し目買いが入る公算が大きい。
また、日本生命など大手生保は、外債投資を大きく縮小させている一方、海外M&A拡大により、運用会社というより投資会社としての色彩を強め、中長期的観点の対外直接投資を進めることで、ドル円相場の下値を支える役割を担うと予想する。
全体としては、個人・機関投資家合計での日本から海外への資本流出が拡大する方向性は変わらず、ドル円相場は、年末には、160円台に乗せているものと考えられる。

(図表2 ドル円日次推移チャート 右軸:単位 円 出典:Trading View)

情報は、X(旧Twitter)にて公開中

前回の記事はこちら

2025年1月17日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久






いいなと思ったら応援しよう!