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市場は、なぜ金融正常化見通しを見誤るのか?

昨年末、黒田前日本銀行(以下、日銀)総裁が、突然、YCC変動幅拡大を発表したことで、市場は、今年就任した植田総裁も、金融正常化路線を踏襲すると予想したが、植田総裁は、YCCの変動幅の更なる拡大は実行したものの、量的・質的金融緩和という2013年以来続く現行の大規模金融緩和政策の大枠は維持している。市場が依然として来年前半のマイナス金利解除を織り込む背景と日銀との認識ギャップを解説する。


1.市場が早期のマイナス金利解除を想定する背景と日銀が政策変更に動かない理由

植田総裁が、YCCの上限を1%程度まで拡大したことで、次なるステップは、マイナス金利政策の解除であると市場が予測したくなるのは順番としては理解できる。しかし、植田総裁は、12/19の会見で、マイナス金利政策の解除に関し、実際は何の言質も与えなかった。
それどころか、米国の利下げの前に、日本が利上げを行うという考え方は不適切であると珍しく語気を強めて否定したり、マイナス金利政策継続の副作用は顕在化していないと発言するなど、早期のマイナス金利解除に否定的な発言を行っている。
日銀として、物価と賃金の好循環の実現、インフレ率2%目標の安定的達成には、まだ一定の時間が必要と考えていると思われる。来春の春闘での相応の賃上げにより、実質賃金のプラス転換が実現しても、個人消費が国内需要を押し上げ、需給ギャップがプラス転換するまでには、一定の時間が必要となるからだ。加えて、米国がインフレ率の低下を背景に利下げ前倒しに動く可能性を示唆したことで、年初来続いてきた円安トレンドが反転したことが、大規模金融緩和政策継続に一定の安心感を与えていることが大きい。

2.日銀金融正常化の道筋についての市場認識とのギャップ

市場は、YCC拡大からマイナス金利解除は連続的なステップと考えている節があるが、日銀は、かねてより、YCCの拡大は、大規模金融緩和政策の修正ではないと述べており、YCC拡大とマイナス金利解除の間には、依然として大きな距離があることが見て取れる。

3.今後のドル円市場への影響

市場は、昨年末のYCC拡大を受け、今年中のマイナス金利解除を含む金融政策正常化への着手を予想したが、実際には、大規模金融緩和政策が維持されたこともあり、図表1の通り、ドル円相場は、年始の127円台から、年後半の151円台まで大きく円安が進行することとなった。来年も、市場は、早期のマイナス金利解除を見込んでいるが、実際は、行われない公算が大きい。その結果、現在の日米金利差縮小による円高進行予測は、来年前半に修正を迫られることになり、来年末のドル円相場が現行とさほど変わらない水準に留まっていることも十分に考えられる。

(図表1 ドル円推移チャート 右軸:単位 円 Trading Viewからの引用)

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20231221執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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