今年の最高値更新を覗うメキシコペソ円相場の行方!
米国の利上げ打ち止め観測の恩恵を強く受け、8月に付けた8円80銭の今年の高値を上抜けそうな勢いのメキシコペソ円相場の行方を占った。
1.来年のメキシコ大統領選挙を見据えての積極予算運営
メキシコ合衆国(以下 メキシコ)のロペス・オブラドール大統領は、2024年6月の大統領選挙の与党勝利を見据え、2024年度予算を左派政権らしく、高齢者年金や奨学金など低所得者向け政策を含む社会開発費に予算全体の半分を割り当てた。同大統領は、18年の就任以降、年金額を増やし、最低賃金の水準を毎年2割程度ずつ引き上げてきた結果、現在においても尚、50%以上の高い政権支持率を維持している。
更に、現政権は、同予算で、国防費を前年度比2.3倍に増やした。また、自らの出身地に建設したオルメカ製油所にも多額の資金を投じている。
2.来年の大統領選の行方
ロペス・オブラドール大統領は、リチウムを国有化するなど、民間企業の活動支援には後ろ向きで、外資系企業は、来年就任予定の後任の大統領に期待する向きも多い。
来年の大統領選挙では、現大統領の愛弟子を自認するシェインバウム氏が野党候補を抑えて、現在支持率でリードしている。
3.メキシコを取り巻く経済環境
米中対立に伴う通商環境の変化がある。メキシコは、中国に代わる生産拠点として直接投資の受け皿になっている。米国の製造業を中心に、消費地の米国に近い地域に工場を建設する「ニアショアリング」の動きが進む。具体的には、米電気自動車大手テスラが北部ヌエボレオン州への進出計画を進めている。こうした動きを背景にメキシコの自動車生産台数は、18か月連続で前年同月比を上回っている。こうした経済の好循環を評価して、IMF(国際通貨基金)は、メキシコの今年度経済成長率見通しを引き上げている。
4.足元の金融市場の動向と今後のメキシコペソ円相場の行方
メキシコの足元の実質金利は、7.0%と米国の2.3%と比較しても大幅に高く、日本のマイナス4%と比較すると11%の開きがある。
その一方で、メキシコの2024年度財政赤字は、1兆7,000億ペソと前年度比4割増と過去30年で最大の水準に達する見込みである。こうした高水準の財政赤字は、メキシコの長期金利を高止まりさせる要因となり、積極財政自体がインフレ要因となることを考慮すると、来年3月と予想されるメキシコの利下げ開始も円滑に実行されていくのか予断を許さない。
足元のインフレ率に関しては、図表1の通り、順調に低下を続け、直近は、4%台前半まで低下しているが、メキシコ銀行(以下、中銀)の物価目標の4%を依然上回る状況にある。
また、メキシコの第3四半期GDP成長率は3.3%と中銀の高金利政策やペソ高にもかかわらず、堅調な伸びを続けており、金融引き締め政策の悪影響は顕在化していない。
こうした好調な経済状況を勘案すると、中銀は景気後退を懸念して利下げを急ぐ環境にはなく、強い内需を背景に、現行のペソ高の悪影響も吸収できる経済状態にあると判断しているものと思われる。
メキシコペソ円相場は、図表2の通り、昨年来一本調子に上昇を続けており、8月に付けた今年の高値8円80銭に面合わせの状態になっているが、今後も、メキシコへの資金流入が続くことが想定され、来年に向け、10円を目指す展開を予想する。
前回のメキシコ記事はこちら
2023年11月27日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久
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