上昇を続ける米長期金利とドル円相場の行方!
米国の長期金利の上昇が止まらない。FRBにより、利上げ打ち止め観測が強まる中においても、米国長期金利が上がり続ける背景と今後のドル円相場の行方を追った。
1.米国の長期金利動向
米国の長期金利は、図表1の通り、8/1の英国格付け機関フィッチによる米国債格下げ以降、更に上昇圧力が高まっている。米国格付け機関S&Pに続きフィッチが格下げしたことで、米国は最高格付けのAAAを失なうことになり、米国債を投資対象から外す投資信託が現れ、米国債への需要が減少することになった。加えて、米国マッカーシー下院議長が解任されて以降、後任の議長選出が難航しており、来月に迫ったつなぎ予算の期限に向け、上下両院で2024会計年度本予算審議が可決する可能性は後退しており、来月、政府機関の閉鎖に追い込まれる公算が高まっている。こうした状況が、現在唯一、最高格付けを維持している米国格付け機関ムーディーズによる米国債格下げのリスクを高めており、市場の長期金利上昇圧力が弱まる兆しは見られない。
更に、供給面に目を向けると、図表2の通り、米国議会予算局は、今後10年平均での、米国の対GDP財政赤字比率が6.1%で高止まりするとの予測を出しており、需給面での供給増が米国債価格を押し下げ、長期金利の上昇圧力となる事態が懸念されている。米国バイデン政権は、インフレ抑制法やCHIPS法など、気候変動対策や経済安全保障対策から、EV化の促進や半導体産業の国内シフトを進める観点から積極的な財政支出を続ける一方、ウクライナやイスラエル支援など最近の地政学リスクの高まりに対応する観点からも、財政支出を拡大する政策を推し進めており、こうした積極財政が国内のインフレ圧力を高めている側面もある。
2.米国の金融市場動向
米国の金融市場は、昨年来のFRBによる金融引き締めにより、政策金利が、5.5%に引き上げられているが、米国長期金利は、10年物国債で現在、4.9%の水準にあり、短期金利との逆ザヤが0.6%程度残っている状況にある。こうした逆イールドの状況は、米国経済の将来の景気後退を先取りした動きと捉えられてきたが、足元の米国経済の雇用環境や賃金上昇率、個人消費の動向に鑑みるに、景気後退に陥る兆候は見られない。今後、米国経済に対する悲観的な見方が修正されていくとすると、米国長期金利が、政策金利と同等水準まで上昇して行ってもおかしくない環境にある。
3.FRBの金融引き締め政策の状況
FRBの保有総資産推移を見ると、図表3の通り、昨年来、政策金利を大幅に引き上げてきた過程で、一時9兆ドル近くまで膨らんだ資産を足元8兆ドルを下回る水準まで圧縮してきているが、今後更に、1兆ドル以上の国債の売却による資金吸収を見込んでいる。これは、国債市場の需給を更に悪化させ、国債価格の下落、金利上昇要因に働く可能性には留意する必要がある。
4.日米の金融政策の相違点とドル円相場の行方
日銀は、今年に入りYCCの柔軟化政策に移行することで、長期金利の一定の範囲での上昇を容認する一方、その過程で、適宜、国債臨時オペを通知し、国債を買い入れる量的緩和政策を継続している。
その結果、図表4の通り、日銀の総資産は高止まりを続けており、資産圧縮に転じているFRBとは異なる位置付けにある。また、日米の長期金利差についても、最近の米国の長期金利の急上昇を受け、拡大の一途を辿っている。
こうした状況は、明らかにドル円相場を押し上げる方向に力が働き、来年以降、日本がマイナス金利の解除に動いたとしても、マイナス0.1%をゼロ金利に戻した程度では、とても現在の円安圧力を止める力にはならないものと予想する。
米国の金融引き締め政策の長期化と、日本の金融正常化の遅れが、一層の円安進行に繋がるリスクには留意したい。
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20231020執筆 チーフストラテジスト 林 哲久
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