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円買い介入から国債買い介入へ!

2/21植田日本銀行(日銀)総裁が、衆議院予算委員会での答弁で、「国債利回りが急上昇した場合、速やかに国債買い入れを増額する」と発言すると、ドル円相場は、いっきに150円台を回復、日経平均株価も一時プラス転換した。
これまで米バイデン政権下において認められてきた為替市場における円買い介入がトランプ政権下では難しくなる可能性がある一方、昨夏以来進めてきた日銀の量的引き締め(QT)が、長期金利急騰により一時的に頓挫することで、金融当局の介入対象が国債市場に入れ替わる状況を解説し、今後の金融市場に与える影響を占った。


1.1月消費者物価指数予想上振れ

2/21発表の1月CPIが4%の大台に乗せ、コアCPIが3.2%と市場予想を上回ると、長期金利は、16年ぶりの1.46%まで上昇した。しかし、最近の長期金利上昇により、大手生保中心に保有国債の含み損失の拡大を懸念し、植田総裁が長期金利上昇を牽制する発言を行った。その結果、10年債利回りは、図表1の通り、一時1.40%まで急低下した。

(図表1 日本の10年債利回り日次推移チャート 出典:Trading View)

2.政策金利を上げても、長期金利を上げたくない日銀

日銀は、政策金利を引き上げ続けていながら、償還金額に近い金額の長期国債を買い続けており、量的引き締め(QT)のペースが極めて緩慢なことから、円安抑制効果が減殺されてきた。また、日銀の保有する国債残高が巨額なため、日銀にとって長期金利の上昇が含み損失を拡大させる要因となる一方、国債買い入れ増額を行うことはQTの一時停止を意味し、金融正常化プロセスが遅れることになり、安易な国債買い入れ増額も行いにくいジレンマにある。

3.ベッセント財務長官による為替介入に否定的な発言の真意

2/20ベッセント財務長官は、「米国以外の国には為替を操作して欲しくない」と発言した。バイデン政権下では、自国通貨売り介入が米国の交易条件を悪化させることで、自国通貨売り介入を行う国を為替操作国に認定してきた経緯がある。しかし、トランプ政権下では、関税引き上げにより貿易不均衡を是正する方針となっており、ベッセント財務長官としては、国債の利払い負担を減らし、円滑な減税実施を行いたい戦略のため、長期金利を引き下げたい意向を持っている。その場合、ドル売り介入は、米国債の売却を意味し、長期金利の上昇要因となることから、外国が自国通貨買い介入を行うことを認めない方向に転換した可能性が高い。今後、円安が進行し、日本の財務省が円買い介入を米国に打診しても、却下される公算が大きいことに留意しておく必要があろう。

4.日米通貨当局の共通の悩み

日銀が長期金利の抑制を図りたくても、国内インフレが鎮静化しなければ、長期金利の上昇を抑えることはできない。1月の物価上昇の内容を見ても、エネルギーがガソリン補助金縮小の影響で前年比10%以上の上昇となっており、最大の伸びを記録している。それにもかかわらず、石破政権は、ガソリン税暫定税率の廃止に後ろ向きの姿勢を示し、インフレを放置している。
一方、トランプ大統領も、ベッセント財務長官の忠告にもかかわらず、関税の大幅引き上げ策を発表しており、将来のインフレ期待を上昇させ、長期金利の低下を阻んでいる。
日米の金融当局が長期金利の抑制を目指しても、政府からの協力が得られない現状では、金利上昇抑制効果は限定的にならざるをえないかもしれない。

5.今後の金融市場への影響

植田総裁の国債買い入れ発言を受け、日経平均株価も一時プラス転換するなど、低迷が続く日本株式市場にも一定の安心感を与えている。また、米国の長期金利の低下は、ドルと逆相関の関係にある金相場の更なる押上げ要因となっており、米国の関税政策に一定の歯止めがかかれば、金相場は史上初の3,000ドルの大台乗せも見えてこよう。
また、ドル円相場は、図表2の通り、2ヵ月ぶりに149円台まで下落したが、CPIの上振れにもかかわらず、本邦輸入筋からの旺盛なドル買い需要により、下値が固い展開となっている。今後、日銀が国債買い入れ増額に踏み切れば、長期金利低下を通じて、間接的な円売り介入の意味を持つため、投機的な円買いの動きも抑制され、再度円安トレンドに回帰することも考えられる。

(図表2 ドル円日次推移チャート 右軸:単位 円 出典:Trading View)

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2025年2月21日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久





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