日本が遂に米国による為替操作「監視リスト」から除外された!
週末、米国財務省による為替操作「監視リスト」から、日本が除外されたとのニュースが伝わってきた。競争上の優位性を得るために自国通貨レートを人為的に押し下げていると見なされる貿易相手国に圧力をかけることが目的とされる。
1.為替操作「監視リスト」に認定される3要件
① アメリカに対する貿易黒字が200億ドル以上=日本円でおよそ2兆円以上の国であるかどうか。
② 一方的な為替介入による外貨の購入を1年間で6か月以上、繰り返し行い、この金額がGDP=国内総生産の2%以上となる国かどうか。
③ 経常黒字がGDP比で2%以上の国に当たるかどうか。
このうち2つに該当すれば「監視リスト」の対象に、3つすべてに該当すれば「為替操作国」に認定される可能性がある。
2.日本が今回除外された背景
日本は、昨年の貿易赤字が過去最高の20兆円近い金額となったことで、年間経常黒字額が前年度比10兆円以上減少し、10兆円を下回ったことで、経常黒字のGDP比で、1.5%程度まで減少したことが今回の除外の理由となった。
この監視リストが導入された2016年以降、日本が除外されたのは、今回が初めての出来事であり、大変感慨深いものがある。
監視リストに挙げられているのは、中国、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、ドイツ、スイスの7か国であるが、ドイツ、スイスの2か国以外は、国内で為替規制を導入しており、実態的には、資本を自由化すると、いっきに資本逃避が起こり、自国通貨通貨安が発生する蓋然性が高いため、人為的に自己通貨を押し下げているというよりも、自国通貨安を防いでいるという意味で、国内経済構造が脆弱な発展途上国である。
日本は、1985年のプラザ合意以降の急激な円高局面において、断続的に円売り介入を繰り返し、80年代以降の日米貿易摩擦により、常に、米国から、円売り介入に対し、プレッシャーをかけられてきた経緯があり、それが、失われた30年と言われるデフレ不況の要因のひとつとなってきたわけで、昨年のような大幅な円安局面というのは、バブルの頂点の1990年と国内金融危機の1998年以来、3回だけであり、かつ過去2回の円安局面は、非常に短期で終了したが、今回は、昨年に続き、今年も140円台に乗せるなど、長期化の様相を呈しているのは初めての事態である。
昨年の円安は、エネルギー価格の高騰により、貿易赤字の急拡大が主たる要因であるが、今年は、米国の追加利上げ期待の継続や、日本の大規模金融緩和の継続により、日米金融政策の方向性の違いが長期化していることが主因で、今後、こうした金融政策の方向性が是正されるにつれ、現在の円安トレンドが修正されるとの見方も強いが、まだ、その兆しは見えていない。
3.問題視されるのは、円売り介入のみ?
今後、エネルギー価格の鎮静化により、日本の貿易赤字が縮小に向かうことで、日本の経常黒字が拡大に向かう可能性はあり、日本が、再度、監視リスト入りする可能性は否定できないが、昨今の経済安保の観点で、日米が半導体生産で協力体制を構築するなど、かつての競争相手の扱いから、パートナーとの位置づけに変化してきており、定性的評価に基づき、日本が監視リストから除外され続ける可能性がある。
また、米国が問題視するのは、自国通貨売り介入による、いわゆる「近隣窮乏化政策」をとることであって、自国通貨買い介入ではないことにも、留意する必要がある。
かつ、市場の安定を揺るがすような、急激な為替の変動を是正する目的での為替介入は認められるとのコンセンサスがある。
今後の円安進行次第では、日銀が、昨年同様、円買い介入に読み切る可能性があるが、それはあくまでスピード違反を取り締まる名目となることが前提となる。
前回の記事はこちら。
20230619執筆 為替アナリスト 林 哲久