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動き出した日銀、円安・株高の行方!

FRB、ECBの利上げ打ち止めが見えてきたタイミングで、日銀植田新総裁が、ようやく重い腰を上げてイールドカーブコントロール政策の修正に舵を切った。今までの円安・株高の相場に転機が訪れるのか、探ってみた。


1.なぜこのタイミングでイールドカーブコントロール政策修正に踏み切ったのか?

私見では、今年の物価目標が2.0%以上になることが確実視された状況下において、現在の10年物国債の金利を±0.5%に抑え込むイールドカーブコントロール政策維持の正当性を見出す根拠がなくなったことが主因ではないかと思う。
即ち、日本の物価指数が、図表1の通り、生鮮食品・エネルギーを除く新コアコア指数で既に4%を超えている現状は平時に戻ったともいえ、年末に向け、2.0%以下まで低下すると言えなくなったことが原因と思われる。

(図表1 総務省 全国消費者物価指数統計からの引用)

2.日銀物価見通しから見える今後の金融政策の行方

今回発表となった最新の物価見通しでは、図表2の通り、今年度については、4月時点の1.8%から2.5%に引き上げる一方、来年度については、2.0%から1.9%に引き下げ、再来年度については、1.6%を据え置いている。
ここから読み取れる政策意図としては、今年度の物価が2.5%に達する以上、現在の硬直的なイールドカーブコントロール政策は修正するものの、来年度以降の物価水準が再度2.0%を割り込む予想となっている以上、安定的な2%の物価目標の達成とはならず、現在の短期金利のマイナス0.1%は当面維持する政策スタンスを示したものと判断する。

(図表2 日銀7月経済・物価展望レポートからの引用)

3.日銀の政策変更が日本の金融市場に与える影響

昨年来の急激な円安は、欧米が急激な金融引き締めを行う中、日銀のみが大規模金融緩和政策を維持した結果、日米短期金利差が5%以上まで拡大したことに加え、ウクライナ侵攻以降の資源エネルギー高の影響を受け、日本の貿易収支が急激に悪化したことによる部分が大きい。
しかし、欧米諸国のインフレは昨年後半にピークを打ち、金融引き締めも最終局面に入った一方、個人消費中心に景気減速の傾向も徐々に顕在化しつつあり、来年までの景気後退のシナリオが否定できない状況にある。
一方、日本の物価動向については、足元で電気、ガソリン等のエネルギー補助金が徐々に打ち切られることで、インフレのピークアウトが見通せない状況にあるとも言え、金融政策正常化の道筋は、まだ、始まったばかりとも言える。更に、国内景気の回復に合わせ、民間企業の賃金上昇率についても、今年は、30年ぶりに3%を超え、来年以降も足元の人手不足の影響もあり、継続的な上昇が期待できる状況にある。
長くデフレ下にあった経済がようやく融解しつつある状況で、需給ギャップの縮小、プラス転が見通せた段階で、現在の異常な低金利政策を転換していくのは、自然な流れだとも言える。
従って、中期的に、日米の金利差が縮小傾向に入ることが予想される以上、現在の円安相場も徐々に130円程度まで修正されていくことになろう。
過去の歴史を振り返ると、円高株安が長く続いたことから、現在の32,000円程度の株高が勢いを失うのではないかとの懸念があるが、上期の上場企業のドル円の社内レートは、131円程度に設定されており、まだ、余裕がある。加えて、最近では、経済安全保障の観点から、半導体産業中心に製造拠点を国内に回帰させる動きも顕在化しており、久しぶりに企業の設備投資も活発化の流れにある。また、コロナ収束によるインバウンドの復活など、国内経済の正常化の動きも顕著であることから、多少の円高ならば、急激な株安に陥ることは回避でき、30,000円を大きく割り込むことはないのではないかと予想する。
もちろん、金融政策の正常化には、適切な財政支援が不可欠であることから、政府サイドからのサポートが重要であることは言うまでもない。

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20230731執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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