見出し画像

トルコリラの転換点がやって来たのか?!

12/26トルコ共和国中央銀行(トルコ中銀)は、1年10か月ぶりに利下げを行った。今年3月以降政策金利を50%に据え置いてきたが、インフレ率が政策金利を下回ってきたことで、景気テコ入れの観点から利下げに踏み切ったと考えられる。今後のトルコリラ円相場の行方を展望する。


1.市場予想を上回る大幅利下げに踏み切った背景

トルコ中銀は、市場予想の1.75%を上回る2.5%の利下げを実施した。先月発表になった第3四半期GDP成長率が前期比マイナス0.2%となったことで、景気支援を優先したものと考えられる。中銀予測では、来年第1四半期にインフレ率が40%以下まで低下すると見込んでおり、今後も継続利下げが予想されている。トルコの金融市場は、トルコ中銀が利下げ後の会見で、「今後はインフレ動向を見極めながら慎重に利下げを進める」とのスタンスを示したことを好感し、一時、債券買い・株買い・トルコリラ買いのトリプル高で反応した。

2.天の時を得るトルコ

11/5に当選したトランプ米次期大統領とウマが合うエルドアン大統領との間で懸案となっている、米軍のシリア撤退の穴埋めをトルコ軍が行う見返りに、トルコに課せらている鉄鋼・アルミへの25%関税を撤廃させるディールが成約するのではないかとの思惑が出ており、11/7トルコ金融市場は一時トリプル高で反応した。

3.地の利を得るトルコ

シリアのアサド政権崩壊に際し、シリア解放機構による政権奪取を側面支援したトルコは、シリア復興のための経済支援にも積極的に関わる意向を示している。また、トランプ政権主導でのウクライナ停戦が実現すれば、ウクライナの復興支援にも地理的に近接し、建設業に強みを持つトルコが復興特需を享受する可能性がある。現在、中東やウクライナなど近隣諸国が紛争地域になっていることで、政治的に安定しているトルコに生産拠点を移す企業が増加しており、トルコは、今までのトルコリラ安も手伝い、漁夫の利を得る立場になっている。

4.人の和を得るトルコ

12/25アゼルバイジャン航空機がロシア軍に誤射され、ロシア内への緊急着陸が認められず墜落し多数の死者が出たことで、トルコとの関係が密接なアゼルバイジャンでの反ロシア感情が高まっている。今後、ウクライナによるロシア領土へのミサイル・ドローン攻撃が増加するにつれ、ロシア領内を飛行する航空機への誤射が増加する可能性が指摘されており、ロシア周辺諸国のロシア離れの動きが一層加速する公算が大きくなっている。カザフスタン・トルクメ二スタン・タジキスタン・ウズベキスタンなどトルコ系のロシア周辺国がトルコへの経済的依存を強めることは大いに想像できる。

5.トルコ中銀による介入政策

トルコの外貨準備高を見ると、今年に入り、増加も減少もしない横ばい推移を続けている。トルコでは、実質的に管理フロート制(為替レートの変動を一定範囲内に抑えることで景気への悪影響を防ぐ為替政策)を採っている。その結果、トルコ中銀は、為替レートは購買力平価の法則にのっとり、2か国間のインフレ率格差に収束するとの理論を前提に、高インフレのトルコリラを対ドルで緩やかに減価させる為替政策を採って来た。今後、トルコのインフレ率が順調に低下するのに合わせ、トルコ中銀のリラ安誘導幅が徐々に縮小していくことが予想される。

6.今後のトルコリラ円相場の行方

トルコ中銀による利下げが継続すると、海外からトルコ金融市場への資金流入が増加することが考えられる。一方で、急激なリラ高は、トルコの輸出競争力を損なうことから、トルコ中銀はドル買いリラ売り介入を継続し、行き過ぎたトルコリラ高の進行を抑制する可能性が高い。従って、今後、ドルトルコリラ相場は、今までの緩やかなドル高トルコリラ安トレンドから保ち合い推移に移行することとなろう。その結果、トルコリラ円相場は、いわば高金利のドル円相場(ドルトルコリラが動かない前提とした金利40%以上のドル円相場)と言える状態になり、ドル円相場の行方に左右される度合いが強まる。
トランプ政権による積極財政が景気を下支えすることから、米国経済の独り勝ち状態となる可能性がある一方、日本銀行が日本の税制改正やトランプ米経済政策の行方を見極めるため利上げを急がない姿勢を示していることを考慮すると、ドル円相場は当面底堅い推移を辿ることが予想される。
その結果、トルコリラ円相場は、現在4.50円近辺での推移となっているが、今後緩やかに5円方向に値を上げることが予想される。
かつては、高金利を背景にFX投資家の人気を集めることもあったが、ここ数年トルコリラ円下落が継続したことで、メキシコペソ円にお株を奪われた格好となっている。しかし、トランプ政権がメキシコに25%の高関税を課す方針を示していることや、メキシコのシェインバウム政権による司法制度改革が司法の独立を損なうとの観点から、メキシコの格下げ観測も出ており、メキシコペソ円相場はかつての勢いを失っている。来年は、トルコリラ円がメキシコペソ円の人気を奪い、FX投資家の人気を集めることになるかも注目したい。

(図表 トルコリラ円日次推移チャート 右軸:単位 円 出典:Trading View)

情報は、X(旧Twitter)にて公開中

前回の記事はこちら

2024年12月27日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久





いいなと思ったら応援しよう!