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円金利に反応しないドル円・反応する日経平均?!

世界的な長期金利の上昇が日本の長期金利にも波及している。しかし、長期金利の上昇によるドル円相場の下押し効果が限定的である一方、日経平均株価への押し下げ効果は大きくなっている。その背景を解説し、最近下落が顕著となっている英国ポンドと比較しながら、日本の金融市場の今後を予測する。


1.米長期金利高騰が英国ポンドを押し下げる

米長期金利の上昇よりも英長期金利の上昇幅の方が大きいにもかかわらず、英国ポンドは、今週(1/6-10)対ドル・ユーロ・円で大きく値を下げている。英国は、ユーロ圏とは反対に経常収支が赤字で、ドルのように基軸通貨でなく、日本のように対外純債権国ではないことで、通貨の信認が他通貨比で弱いためと考えられる。加えて、財政赤字削減のため、富裕層への税制優遇を廃止したことにより、英国から大規模な資本逃避が発生している可能性もある。

2.米長期金利高騰が日本の長期金利に与える影響が鈍い背景

日本は、実質賃金が4ヵ月連続マイナスに逆戻りし、需給ギャップのマイナスが18四半期連続で継続するなど、相変わらず国内の需要不足を背景に景気の低迷が続いている。また、日本銀行(日銀)は、量的引き締め(QT)に移行しているが、引き締め額が米国や英国に比べて小さいため、長期金利の上昇が限定的となっている。

3.金利上昇に弱い日経平均株価・反応しないドル円

日本の長期金利の上昇幅は、米国よりもはるかに小さいにもかかわらず、日経平均への悪影響が大きいのは、日本の経済ファンダメンタルズの弱さを反映したものと考えられる。一方、ドル円相場は、東京市場において日米長期金利差の縮小を受け、午前中は下押ししても、午後になると反発するパターンが続いている。これは、ドル売りが投機による一方、ドル買いが新年度入りした新NISA経由での海外株投資などの、実需によるものであることが影響しているのではないか。

4.円安抑止のために利上げを余儀なくされる日銀

植田日銀総裁は、日本の賃上げ動向やトランプ政権の経済政策の行方を見極めた上で、追加利上げを検討する姿勢をみせており、3月利上げが有力視されている。しかし、米国経済のインフレ底打ち観測から、米長期金利が3月までに5%に到達した場合、ドル円相場は160円台に乗せていると想定され、日本の追加利上げ期待が一層高まっていると思われる。しかし、その一方、米国の長期金利上昇は、割高感のある米国株の下押し要因となっているはずであり、日経平均株価にも下落圧力が強まる地合いになっている可能性が高い。

5.円安抑制か・株価下落回避かの二択を迫られる日銀

円安・株安が同時進行する地合いにおいて、日銀が円安阻止のために、昨年同様、追加利上げで日経平均株価の再暴落を許容できるとは到底考えられず、日銀は、追加利上げを見送る公算が大きい。また、財務省が円買い介入を画策しても、基軸通貨としてのドルの価値維持や米国長期金利上昇を抑制したい米国が、日本の米国債売却を伴う円買い介入を容認するとは考えにくい。

6.日本の通貨当局が円安放置に舵を切る公算

経済実態を反映しない追加利上げが株価暴落を引き起こす背景には、ただでさえ弱い国内需要を、更に冷え込ませることを、市場が理解しているからに他ならない。頑なに所得税減税に後ろ向きな石破政権が続く限り、日本経済が利上げに耐えられる体力を回復することは望めず、債券安・株安・円安のトリプル安が常態化するリスクには注意が必要である。

(図表 ドル円日次推移チャート 右軸:単位 円 出典:Trading View)

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2025年1月10日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久






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