ベッセントトレード始まる!
11/22次期米財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏が、「関税は駆け引きの材料に使用するべき」と発言したことで、金融市場ではトランプ新政権発足後の関税早期引き上げの思惑が後退し、(債券買い・株買い・ドル売り)のベッセントトレードが始まった。ベッセント次期財務長官就任の影響を解説し、今後のドル円相場の行方を占った。
1.トランプ次期大統領が「米ドルは基軸通貨の地位を維持する」と発言
トランプ次期大統領は、ベッセント次期財務長官指名の際に、上記発言を行っている。これは既に選挙公約として共和党綱領にも盛り込まれていた内容であり、選挙キャンペーン時から経済アドバイザーだったベッセント氏から助言された公約を、トランプ候補が再度認識していることを明らかにしたものとして注目される。
2.ベッセント次期財務長官が上記「基軸通貨」発言をさせた真意
ベッセント氏は次期財務長官として、米国の財政赤字をGDP比3%以内に抑えることを主要命題に掲げている。西側諸国が、ウクライナに侵攻したロシアの外貨準備のほとんどを凍結処分にして以降、グローバルサウス諸国の多くは、外貨準備として保有する米国債が将来凍結されるリスクを回避すべく、米国債の保有比率を低下させる動きを強めている。財政赤字のファイナンスを海外からの投資に依存する米国としては、米国債の信認低下は米長期金利の高騰を招くため、今後のファイナンスに支障が生じる事態を回避する必要に迫られている。トランプ新政権による巨額減税を実現するためにも、米ドルの信認維持が不可欠のため、ベッセント氏がトランプ氏に基軸通貨発言をさせたと考えられる。
3.ベッセント氏の「関税は駆け引きの材料」発言の真意
ベッセント氏は、財政赤字削減以外に規制緩和により3%の経済成長を実現し、日量300万バレルの石油増産を主要政策目標として掲げている。即ち、インフレ率を低く抑え、財政赤字を削減することで長期金利の上昇を抑え、規制緩和により高成長を実現したいベッセント氏にとって、トランプ関税は不要な政策となろう。中国に対しては経済安保の観点から、デカップリングを実現するために高率関税を導入することは容認するとしても、日欧の様な同盟国に対しての関税引き上げは、あくまで通商交渉を有利に運ぶための手段として位置づけている可能性が高い。
4.「ドル高は米国の利益」政策復活か
1990年代ゴールドマンサックス会長であったルービン氏は、財務長官に就任すると「ドル高は米国の利益」政策を打ち出し、米国に世界の資本を集めることで米国株高を実現し、米国経済の高成長を実現した。ベッセント氏は、この政策を踏襲し、ドル高政策を復活させようとしている可能性もあろう。ヘッジファンド出身としてのベッセント氏は、トランプ氏が唱えるドル安政策を愚策と考えているはずなので、選挙キャンペーン時からトランプ氏に経済政策に関するアドバイスを行ってきた経緯がある。ドル安政策を実行しても、貿易不均衡は是正されず、米国株式市場の下落を招くことを説明しているはずであり、トランプ氏の基軸通貨発言に繋がっているものと思われる。
5.ベッセントトレードがドル円相場に与える影響
ベッセント次期財務長官が指名されたことを受け、11/25金融市場は、債券高・株高・ドル安で反応している。これまでトランプ政策の多くを、インフレ要因と考えていた市場参加者が多く、(債券売り・株買い・ドル買い)のトランプトレードの一部修正を迫られた格好となっている。
今後トランプ政権発足後の日米通商交渉において、関税の一律引き上げは避けられたとしても、米国からの農産品輸入拡大・防衛装備品輸入拡大・米国への直接投資拡大を迫られる公算が大きい。これらは対米貿易黒字縮小要因となることで、日本の貿易赤字が全体として一層拡大することに繋がり、日本の資本収支赤字も膨らむことを考慮すると、ドル円相場にはドル買い要因として働くことになろう。米国の長期金利低下によるドル売り材料を、国際収支の悪化という需給面での円余剰が相殺し合う形となり、ドルが対主要通貨で下落してもドル円だけは下方硬直的となり、結果的にクロス円が堅調となる「隠れ円安」相場が復活する可能性もあろう。
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2024年11月26日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久