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ポーランド買い・ハンガリー売り!

2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ハンガリーがロシア寄りの外交姿勢を崩さないことでハンガリーフォリントが対ユーロで軟調推移となる一方、ポーランドでは2023年12月EU(欧州連合)寄りのトゥスク首相が政権奪取した後、ポーランドズロチが対ユーロ・対ハンガリーフォリントで堅調推移を続けている。これらの背景と今後のポーランドズロチ円、ハンガリーフォリント円相場の行方を解説する。


1.政策金利を引き下げないポーランド・引き下げるハンガリー

ポーランド中銀(ポーランド国立銀行)は、足元のインフレ率が、目標上限の3.5%を上回る4%台での推移となっていることで、政策金利を昨年10月以降、5.75%に据え置いている。一方、ハンガリー中銀(ハンガリー国立銀行)は、インフレ率目標上限の4%を下回る3%台まで、インフレ率が低下したことを受け、昨年10月以降、政策金利を12.25%から6.5%まで段階的に引き下げている。

2.ユーロとの景況感格差を広げるポーランド

ユーロ圏の景況感悪化により、ECB(欧州中央銀行)が利下げサイクル入りしたことで、ユーロ圏との金利差が拡大しているポーランドズロチは、図表1のとおり、対ユーロで堅調推移を続けており、2020年以来の高値圏にある。

(図表1 ユーロ/ポーランドズロチ月次推移チャート 右軸:ポーランドズロチ 出典 Trading View)

3.積極的な利下げによりユーロとの金利差を縮小したハンガリー

ハンガリー中銀の積極的な利下げにより、ユーロ圏との金利差を大きく縮小させたハンガリー・フォリントは、図表2のとおり、対ユーロで軟調推移を続けている。

(図表2 ユーロ/ハンガリーフォリント月次推移チャート 右軸:単位 ハンガリーフォリント 出典 Trading View)


4.EUへの協調姿勢で明暗を分けたポーランドとハンガリー

EUとの協調路線に舵を切ったポーランドに対し、EUからの補助金が再開された一方、反EUの立場を崩さないハンガリーは、EUからの補助金が一部凍結されたままになっていることで、足元のGDP成長率はマイナス幅を拡大させており、ハンガリーフォリントは、対ポーランドズロチで図表3のとおり、下落を続けている。

(図表3 ポーランドズロチ/ハンガリーフォリント月次推移チャート 右軸:単位 ハンガリーフォリント 出典 Trading View)

5.したたかなポーランド・かたくななハンガリーの外交姿勢

今年4月ポーランドのドゥダ大統領は、関係が良好な米トランプ前大統領と会談し、ポーランドの軍事費をGDP比3%まで引き上げる方針を伝えている。一方、西側寄りのトゥスク首相は、米バイデン大統領にウクライナ支援の強化を要請するなど、国内では大統領と首相が与野党の立場で対立関係にあっても、外交において国益を優先する形で、対米関係の強化で協力するしたたかな外交を繰り広げている。一方のハンガリーのオルバン首相は、親ロシア姿勢を崩さず、米国やEUと距離を置く姿勢を貫いていることで、西側との関係を冷え込ませ、結果的に国益を害する外交を展開したため、経済面でも悪影響をもたらすことになった。
現在ハンガリーはEUの議長国でありながら、オルバン首相が単独でロシアを訪問するなど、EUの親ウクライナ路線とは異なる独自の外交を展開し、EU首脳から批判されるなど、国益を損なう行動を繰り返している。オルバン首相は関係の良好なトランプ次期大統領と面談を重ね、ウクライナ戦争終結に向け、ロシアのプーチン大統領との橋渡し役を務める姿勢を示しているが、トランプ次期政権でのウクライナ支援方針が明確でない以上、オルバン首相の果たせる役割は限定的な状況である。

6.ポーランドズロチ買い・ハンガリーフォリント売りは続くのか

中国の景気後退や欧州におけるEV(電気自動車)需要の低迷が、ハンガリーをEVの欧州向けハブ拠点にするとの思惑には逆風となっており、ハンガリーの独自経済路線が、成功を収められるかは、不透明な状況となっている。こうしたオルバン首相の独自路線が、これまで盤石であった国内の政治基盤にも亀裂を生み始めており、6月の欧州議会選挙で議席を減らした政権与党が、不安定化するのか注意を要しよう。
ポーランドズロチ円は、図表4のとおり、7月に一時40円を超えて上昇した後、現在も37円台後半で高値圏で推移している。ポーランドはインフレ率の低下に時間を要しており、政策金利据え置きの長期化が見込まれ、ポーランドズロチ円の堅調推移が続くと予想される。一方のハンガリーフォリント円は、図表5のとおり、一時0.44円まで上昇した後、現在は、0.40円割れまで下落しており、下落トレンド入りしている。内憂外患のハンガリーオルバン政権に対し、EUとの協調路線への転換により、国内経済を回復軌道に乗せつつあるポーランドトゥスク政権の安定度が増しており、当面ポーランドズロチ円堅調・ハンガリーフォリント円軟調の対照的な動きが続くことになろう。

(図表4 ポーランドズロチ円月次推移チャート 右軸:単位 円 出典 Trading View
(図表5 ハンガリーフォリント円月次推移チャート 右軸:単位 円 出典 Trading View)

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2024年12月19日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久





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