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円キャリーからスイスキャリーはワークするのか?!

米商品先物取引委員会(CFTC)資料によると、11/26時点での投機筋ポジションについて、スイスフラン売り越し幅が円売り越し幅を上回り、2025年は※スイスフラン売りキャリートレードがトレンドになるとの見方が有力となっている。円売りキャリートレードに替わるスイスフラン売りキャリートレードがワークするのか、検証する。
(※キャリートレードは、円やスイスフランなどの低金利通貨を売却して高金利通貨で運用する取引手法)


1.利上げする日本・利下げするスイス

12月の金融政策決定会合で、日本銀行(日銀)が0.25%利上げし、スイス国立銀行(スイス中銀)が0.5%利下げすると、日本とスイスの政策金利が0.5%に並ぶ。更に来年は、日本が1%程度までの利上げが予想されているのに対し、スイス中銀はマイナス金利も辞さない姿勢を示しており、日本とスイスの金融政策の方向性の違いが鮮明となっている。

2.日本が利上げする背景とスイスが利下げする背景の違い

日本が利上げする理由は円安が止まらないからである。一方、スイスが利下げする理由はスイスフラン高が止まらないからである。円安が止まらない理由の一つは、円安にもかかわらず、貿易赤字基調から脱却できていないからである。一方、スイスフラン高が止まらないのは、スイスフラン高にもかかわらず、貿易黒字が減少しないことが理由として挙げられる。

3.日本が貿易赤字・スイスが貿易黒字の背景

円安進行にもかかわらず、日本の輸出数量が伸びなくなっていることが貿易収支が改善しない最大の理由である。なぜ輸出数量が伸びないかというと、日本が対外競争力を維持できるのが、自動車など限られた産業になっているからである。その自動車産業に関しても、日本からの輸出額よりも、北米での現地生産台数が圧倒的に多くなっていることが背景に挙げられる。それに対し、スイスでは、国内に化学・医療・食品・精密機器など幅広い業種で、国際競争力の高い多国籍企業を多数抱えていることで、国内産業の空洞化が起こらず、スイスフラン高にもかかわらず、貿易黒字が減少しない構造になっている。

4.ユーロスイスフラン相場から見るスイスフランの歴史

スイスの大幅利下げ観測にもかかわらず、ユーロスイスフランは趨勢的な下落基調を続けている。足元では、独仏の政情不安、欧州の景況感の悪化、世界的な地政学リスクの高まりなどがスイスフラン選好の背景になっている。しかし、図表1の通り、ユーロスイスフランの長期チャートを見ても、一貫してユーロ安・スイスフラン高が継続していることが見て取れる。スイス中銀は、スイスフラン高を抑制するために、2014年末から2022年までマイナス金利を導入したが、スイスフラン安誘導効果は短期間に留まり、最終的にはスイスフランが史上最高値を更新し続けることになった。

(図表1 ユーロスイスフラン月次推移チャート 右軸:単位 スイスフラン Trading View提供のチャート)

5.来年もスイスフラン高が続くのか

欧州では、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアからのエネルギー輸入を遮断したことで、エネルギー価格が高騰し、国内の産業競争力が低下、これに中国の景気後退が重なり、外需も伸びない内憂外患状態に陥っている。更に、ウクライナ戦争、中東地域での緊張激化により、周辺国からの移民流入による治安の悪化などの問題も発生している。これにトランプ政権誕生による関税引き上げが加わると、欧州経済は壊滅的打撃を受けかねない。
こうした状況が、独仏など欧州中核国で相次いで連立政権の崩壊や内閣不信任決議が可決されるなど政情不安に発展しており、貿易需給に加えて、リスク回避の観点から逃避通貨としてのスイスフランへの選好が止まらない状況が来年も続こう。

6.スイスキャリートレードへのシフトでスイスフラン円は下落するのか

スイスは今年3月以降、他の先進国に先駆けて利下げサイクルに移行している。しかし、スイスフラン円相場は、図表2の通り、7月の財務省の円買い介入が入るまで上昇を続けた。その後も、スイス中銀は利下げを継続し、日銀は利上げに動いても、スイスフラン円相場が下落トレンドに入ったとは言い難い。スイスフラン円相場の行方を左右するのは、金利差よりも、貿易需給の違いが大きい。特に日本では、貿易赤字に加え、資本収支赤字(対外直接投資増・海外株式投資増)の拡大が顕著となっており、日銀が1%まで利上げしたとしても、資本収支赤字を減少させる効果が乏しいことを踏まえると、円がスイスフランを含めた対主要通貨で上昇に転じることは容易ではないと思われる。

結論として、逃避通貨としての魅力も薄れている日本円にとって代わって、スイスフランが単に低金利を理由に調達通貨としての座を占めると想定した、スイスフラン売りキャリートレードを行った場合、スイスフランが円より下落することで、円売りキャリートレードよりも収益が上がるとは到底思えない。

(図表2 スイスフラン円週次推移チャート 右軸:単位 円 Trading View提供のチャート)

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2024年12月6日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久






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