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ドローン、AIは組み合わせることにより新たな地平を拓く

先端技術は社会経済の在り方を変えてきた。ドローンとAIはこれからの社会に欠かせない技術であるが、日本では警戒感と過剰な期待が綯交ぜ(ないまぜ)になっているように思う。長所短所を見極める姿勢が重要。ドローン、AIそれぞれ単独でも様々な可能性があるが、組み合わせて使うことにより、より新たな領域を切り拓くことが期待できる。

先端技術が社会経済の在り方を変える


今回はいつものマクロ的な話題とやや毛色を変えて、個別の技術・製品分野であるドローン(無人航空機)とAI(人工知能)に着目する。とは言え、技術や製品そのものに関する専門家ではないので、社会経済的な観点から見たドローンとAIの可能性と課題を考えたい。
いつの時代も先端技術(サービス等を含む)は社会経済の在り方を変える起爆剤となってきた。もちろん、普及せずに終わった先端技術も数多あり、どの先端技術が社会を変えるに至るかは当該技術が登場した時点では見通し難い。
冷戦以降の時代の身近な先端技術だけを見ても、インターネット、携帯電話、スマートフォン、SNSなど生活や仕事の在り方を大きく変えてきているものは多くある。日々を暮らしていく中では気付きにくいが、30年前と今を比べてみれば、その違いには愕然とすることもあるのではないだろうか。50歳以上の世代であれば携帯電話が普及する前の時代を経験していると思うが、外出先での友達等との待合わせが何とかなっていたのは信じられないような気分の方も多いのではないか。
先端技術の普及は、当該技術の消費者側だけでなく、当然ながら供給者側の企業や製品も変えていく。その技術の種類にもよるが、大きく見れば産業構造を変えていくことにもなる。

ドローン、AIに対する警戒と可能性


先端技術が画期的であればあるほど、当該技術が普及し始める時は世間の多くは警戒感を示す。これは生物として当然の反応とは思われる。その警戒は正当なものもあれば、誤解に基づくものもある。また神ではない人類が開発するあらゆる技術は、マイナス面がゼロというのはほぼ困難と思われる。結局はプラスの効果がマイナスの側面よりも大幅に大きければ普及していくことになろう。

(1)ドローンの可能性と警戒感

ドローンは都市部でも過疎地でも山間地や離島でも様々な地域で活躍できる。用途としては、宅配便など物流、現場確認や物資供給など災害対応、生育状況確認や農薬散布など農林水産業、各種のインフラ点検など多様な場面で活躍できる可能性がある。テレビ番組などでドローンを使った映像が多用されているのはご承知の通りであろう。さらにキナ臭い話で恐縮であるが、ロシアのウクライナ侵攻の戦場では、双方ともにドローンが大活躍しており、軍事面での可能性も大きい。
それ故にとも言えるが、我が国ではドローンの可能性よりも危険性に重きを置いた対応をしているように思われる。2015年4月の「首相官邸ドローン落下事件」は、テロや軍事でのドローンの有用性を明確に示したと言える。
ドローンを規制する法令は、航空法、小型無人機等飛行禁止法をはじめとして数多い。道路交通法など飛行場所に関連する法令や個人情報保護法なども関係してくる。国土交通省の法律案の概要説明資料によると2021年の航空法等の一部を改正する法律は、「機体の安全性確保及び操縦者の技能確保の導入等により有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4)の実現を可能」とすること、「現行の個別審査の手続きの合理化・簡略化を図ることにより、無人航空機の利活用全般の拡大」を図ることを目標として掲げている。
そのために、操縦者の国家資格が創設され、機体登録が義務化された。さらに従来は重さ200g未満のドローンは航空法の対象外であったが、重さ100g以上のドローンが規制対象になった。これらは安全確保した上で、「有人地帯での補助者なし目視外飛行」を可能にするためとの事であり、理解はできる。しかしながら、個人の参入障壁を高くしてしまう可能性はないだろうか。
なお、国家資格がなくても、目視範囲内であれば従来のようにドローンを飛ばすことは可能である。ただし、場所は限られる。詳細は国土交通省サイト「無人航空機の飛行禁止空域と飛行の方法」をご参照。

図:無人航空機の飛行の許可が必要となる空域

出所:国土交通省ウェブサイト「無人航空機の飛行禁止空域と飛行の方法」 (https://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_000041.html )(図の注を文末に記載)

(2)AIへの警戒及び限界

OpenAI社 が提供しているChatGPTがにわかに注目され、またまたAIが仕事を奪うといった話題が出ている。何やら1810年代に英国で起きたラッダイト運動のようである。ラッダイト運動は、力織機導入によって仕事が減った綿織物職人を中心に起きた機械を破壊する運動である。ChatGPTが仕事を奪うと喧伝している人たちは、AIに代替されてしまうような仕事をしている人は不要になると脅していることになるが、短絡的であると思う。あるいは意図的に脅しをかけているのか。
一方、AIを使えば簡単にいろいろなことが出来ると思っている人々も意外に多い。AIの機械学習の一つであるディープラーニング(深層学習)を実施するためには、準備段階として大量のデータをAIが認識できるようにする必要がある。世の中のデータの形式は様々であり、有料のものも数多くある。現時点でChatGPTが優れているのは、既に大量のデータによる学習をこなしており、多くの人が利用することによって、さらに蓄積が加速度的に進むことなどと推測される。
AIが万能とはとても思えないが、いずれにしても今後ともAIは進化し、日常生活や日々の業務の中に浸透していくことになるであろう。しかしながら、AIをはじめ先端技術は仕事のやり方を変えていくであろうが、仕事を奪うわけではない。個人的には大変残念ながら、AIが人間の仕事を代わりにやってくれて人間は何もやることがないという状態には、はるか未来でもそうならないであろう。
ChatGPTのような文章や画像を自動的に作る「生成AI」を含むAIの問題はもっと別のところにある。あり得る未来としては、映画等でも描かれたAIの暴走に対する人類の闘争である。
4月末に開催されたG7デジタル・技術相会合では、生成AIについて早急に議論の場を持つことが合意された。各種報道では、新たな技術の利活用について、法の支配、適正な手続き、民主主義、人権尊重、技術革新の機会の活用、の原則を設けることについて合意したとされている。
G7デジタル・技術相会合における合意は適切と考える。それらに加えて、AIが参照するデータの偏向性、悪意挿入、過小なミスの拡大再生産、等々気になるところが沢山ある。AIが技術的に中立であったとしても、使う側の人間により良くも悪くもなる。権威主義国家では計画的に個人情報を収集し、庶民の監視などを実施しているという話もあり、生成AIを使って国家の思惑に誘導する文章や画像を作成することも考え得るであろう。
一方、文章の下書き作成などには大いに役立ちそうである。ただ、生成AIが集めてきた情報や数値データが正しいか筆者の場合は疑念を持つので、二度手間になるような気がしないでもない。結局、ChatGPTなどで作成された文章や画像は、正式文書として使う前のどこかの段階で専門家のチェックが必要となるのではないだろうか。それをやらないと危なっかしいように思う。

ドローンとAIの組み合わせ


AIの真価は電源が入っている限り、24時間365日稼働し続けられることだと考える。特に画像データのチェックや異常の感知などは、AIが活躍する場面であろう。さらにAIとドローンを組み合わせれば、ドローンの飛行制御範囲かつ画像データ送受信可能範囲については、人間だけでは難しかった様々な業務が24時間休みなしに続けることも可能となろう。ドローンの電池切れについては、AIが適切に管理して適時充電するシステムがあれば良い。
上記のような使い方は警備や軍事でより真価を発揮すると考えるが、土木建設や都市計画、自然災害の観測等、様々な用途が考えられる。
ドローン、AIは悪用すればキリがない。バグや意図的な書き換えなども注意しなければならない。今公開中の映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』では、犯人による防犯カメラの画像書き換えのシーンもあった。
しかし、適切に活用すれば、人間の仕事を奪うどころか、人間ができなかった領域を切り拓くことに繋がるであろう。新たな仕事が生まれ、新たな成長分野が経済を活性化することを期待したい。


図の注
A、B、Cの空域は、航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれのある空域(航空法132条の85第1項第1号)。Dの空域は、人または家屋の密集している地域の上空(航空法132条の85第1項第2号)


20230512 執筆 主席アナリスト 中里幸聖


前回レポート:
経済安全保障、サプライチェーン再編について歴史から探る」(2023年5月2日)

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