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LRT、路面電車を起爆剤にした街活性化

宇都宮で本格的なLRTが開業する。街再構築と連携してLRTを新設するのは画期的である。LRTは世界では見直しが進み導入都市が拡大しているが、日本の路面電車は減少してきた。富山のLRTの成功を受けて、我が国でもLRT導入を検討する地域が増え、宇都宮は開業に漕ぎ着けた最初の事例である。公共交通網の見直しと街再構築は密接にかかわる。


宇都宮LRT開業


8月26日、宇都宮ライトレールのライトライン、いわゆる宇都宮LRTが開業する。
宇都宮市「芳賀・宇都宮LRT公式ホームページ MOVE NEXT UTSUNOMIYA」によると、「路面電車としては国内で75年ぶりとなる開業、路面電車がなかったまちにLRTを新設して開業するのは、なんと国内初!」とのことである(同サイト「インフォメーション」「2023年8月26日開業!芳賀・宇都宮LRT 2023.06.02」より)。
なお、国内での本格的なLRT開業事例としては、2006年の富山ライトレールがあるが、こちらは廃線となったJR西日本富山港線の跡地を有効活用したものである。従って、全く新規に開業という意味では、芳賀・宇都宮LRT公式ホームページに記載の通りであり、LRTを契機とした街再構築を主張してきた者の1人として感慨深い。

LRTは世界では拡大中、日本の路面電車は減少


LRTはLight Rail Transitの略称であり、いわゆる路面電車である。ただし、各種交通との連携、低床式車両(LRV:Light Rail Vehicle)の活用、軌道・停留場の改良による乗降の容易性、など従来の路面電車を再構築した交通システム全体を指す。
LRVの高いデザイン性も相俟って、欧州を中心に街のインフラとしての見直しが進み、世界的に導入都市が増えている。LRVについては、日本の他地域の既存の路面電車でも順次導入されている。なお、世界のLRTの導入都市数は、阿部泰「日本におけるLRT導入の現状と課題―公共交通政策と都市の持続可能性―」(国立国会図書館 調査及び立法考査局『レファレンス』856号(2022年4月))掲載の「図2 世界のLRT 新設都市の推移」などをご参照頂きたい。
諸外国でLRTを導入した都市では、市街中心部はLRTやバスなどの公共交通以外の車両の進入を規制して、歩行者による街の賑わいを創出するようにしている例がある。また、郊外から市街地中心部に向かう場合は、郊外の停留所・駅に隣接した駐車場に車を止めてLRTに乗車するようにする、いわゆるパーク&ライドを実施している例もある。市街地中心部では徐行運転のLRTを郊外では高速運転している例もある。
一方、我が国は日清戦争中の1895年に京都で開業した路面電車を嚆矢に開業都市が増え、1932年には65都市で運行されるに至った。第二次世界大戦後しばらくは都市交通の主役の一つであったが、1960年代の急速なモータリゼーションの進展により、邪魔者扱いされるようになった。バスや地下鉄への転換に伴い路面電車は廃止が相次ぎ、2021年9月現在で運行されているのは21都市となっている。

図1:日本の路面電車の概況(上図:路面軌道の推移、下図:路面電車所在都市)

注:2021年9月現在。(公社)日本交通計画協会調べ。
出所:国土交通省ウエブサイト「LRTの導入支援」(https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/lrt/lrt_index.html)

コンパクトシティの起爆剤としてのLRT

(1)ネットワーク型コンパクトシティ形成を進める宇都宮

宇都宮ライトレールは、宇都宮市が進めるネットワーク型コンパクトシティ形成の重要なインフラの一つである。宇都宮市は、市内中心部の都市拠点、各地域の地域拠点、産業拠点、観光拠点を交通ネットワークで結び、多極連携型の都市のかたちとして、ネットワーク型コンパクトシティを形成することを目指している(宇都宮市「ネットワーク型コンパクトシティ形成ビジョン」(平成27年2月)などより)。
宇都宮市ではネットワーク型コンパクトシティの基軸となる東西基幹公共交通として「LRT」を位置づけている。南北の基幹公共交通としては、JR宇都宮線、東武宇都宮線が位置づけられている。基幹公共交通と連携し、都市拠点と各拠点間を結ぶ主要バス路線などの公共交通を幹線公共交通と位置づけ、拠点間の連携を強化することで、持続的に発展するネットワーク型コンパクトシティを実現しようとしている。
人口減少下における持続可能な公共交通へ」(2023年3月15日)で書いたような100年先を見据えた都市の再構築を図る事例と言えよう。

図2:宇都宮市のLRT路線

出所:宇都宮市「芳賀・宇都宮LRT公式ホームページ MOVE NEXT UTSUNOMIYA」「LRTについて

今回の開業は、JR宇都宮駅の東側地域の宇都宮駅東口~芳賀・高根沢工業団地までの約15㎞であったが、駅西側地域にもLRTを通す計画がある。JR宇都宮駅東口~宝木町1丁目・駒生1丁目付近(教育会館付近)までを着実に整備を進める「整備区間」とし、さらに大谷観光地付近までを「検討区間」としている(図3)。
図2や図3を見ても分かるように、JR宇都宮駅と東武宇都宮駅が離れているため、来街者がこの間を移動するには徒歩かバスやタクシーを利用することになる。天気が良い日は歩いても良いが、雨天などは結構辛いし、大通りは車の往来が激しく、騒音や排ガスも気になる。この間がLRTで移動できるようになると利便性は高まるし、環境問題の観点からもプラスの効果があると考える。

図3:宇都宮市のJR宇都宮駅西側のLRT計画

出所:宇都宮市「芳賀・宇都宮LRT公式ホームページ MOVE NEXT UTSUNOMIYA」「駅西側整備について

(2)富山のお団子と串のコンパクトシティ

2006年の富山ライトレール開業は、国内の公共交通や街づくり関係者に大きな反響をもたらした。既に様々なところで論じられているので、本稿では簡単に紹介する。
北陸新幹線開業に向けた富山駅高架化工事に伴って、JR西日本は富山港線を廃止したいと考えていた。当時の富山港線は北陸本線の富山駅から富山港に向けて北上する赤字路線の支線であった。
森雅志市長(当時)等は富山港線の廃止は沿線地域の衰退を加速させると考え、LRTとして再生することを目指し、JR西日本をはじめとする関係者との交渉や市民への理解促進に努めた。また、北陸新幹線開業後を見据えて新たな都市計画を検討中であったこともあり、LRTを都市計画の重要なインフラとして位置付けた。富山港線のLRTとしての再生とコンパクトシティを目指す都市計画の着想とどちらが先であったのかは不明であるが、富山市は「公共交通の活性化によるコンパクトなまちづくり」を掲げている。
富山市「富山市公共交通活性化計画~富山市公共交通戦略~」(平成19年3月)によると、JR北陸本線、JR高山本線、地鉄本線、地鉄不二越・上滝線、富山ライトレール、地鉄市内軌道線(呼称は全て活性化計画当時)の鉄軌道6路線と幹線バス24路線を「公共交通軸」に設定し、地域生活拠点等と都心を公共交通軸で結ぶ、拠点集中型のコンパクトなまちづくりの実現を目指している。公共交通軸の駅・停留所・バス停などから徒歩圏に都市の諸機能を集積させ、それらを公共交通で結ぶ「お団子と串の都市構造」と表現している。

図4:富山市が目指すお団子と串の都市構造(概念図)

出所:富山市「富山市公共交通活性化計画~富山市公共交通戦略~」(平成19年3月)

なお、富山港線をLRTとして再生した富山ライトレールは、第三セクターの富山ライトレール(株)が運営していた。一方、富山駅より南の地域には富山地方鉄道(株)が運営する路面電車(以下、「地鉄市内軌道線」)があった。富山ライトレールと地鉄市内軌道線は、北陸本線が間にあるため接続されていなかったが、富山駅路面電車南北接続事業によって、富山駅の高架後に富山ライトレールと地鉄市内軌道線が接続され、2020年3月に直通運転が開始された。それに先立ち、富山ライトレール(株)は富山地方鉄道(株)と合併している。

LRTの検討


本稿では宇都宮市、富山市のLRTと街再構築の事例を挙げたが、他にもLRT導入が検討に上がっている地域は多い。例えば、東京都中央区の八重洲~銀座~臨海部、さいたま市の大宮~さいたま新都心~浦和美園、静岡市の葵ルート(新静岡駅~七間町方面)、駿河ルート(新静岡駅~JR静岡駅~駿河区役所方面)、清水ルート(JR清水駅~新清水駅~日の出方面)、などは各地方公共団体の交通関連の部会等でも検討された。紙幅の関係で全ては挙げないが、他にも同様に検討された事例はある。しかしながら、今月開業する宇都宮市程に具体的な検討となっている事例は、筆者が寡聞なだけかもしれないが今のところ見当たらない。
LRTに限定する必要はないが、公共交通網の再検討は街再構築と密接にかかわるものである。宇都宮市や富山市のようにLRTを起爆剤として、長期的な将来を見据えた街再構築を戦略的に進めていくのは効果的である。近年の洗練されたデザインのLRT自体が、街の動くランドマークの役割、街が楽しい方向に変わっていくことの市民へのPR効果を持つ。
宇都宮での新規LRT開業を契機に、他の地域でも再度LRT導入議論の本格化及び街再構築の機運が盛り上がり、地域ごとに活気のある日本が甦ることを期待している。


20230807 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
観光は成長産業かつソフト・パワー」(2023年7月28日)


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