輝きを増す金価格―ドル高トレンドの終焉!
米国の金融引き締めも最終局面を迎えた。昨年の米国の消費者物価指数のピークアウト以降、ドル安局面に移行してきたドルインデックスも、米国の利上げ打ち止め観測を受け、更なるドル下げトレンドに移行する蓋然性が高まっている。そのドル売りの受け皿として、今後注目されるのが金である。今後、どこまで金価格に上昇余地があるか、探ってみた。
1.ドルインデックスの現在位置
現状のドルインデックスを見ると、図表1の通り、昨年後半の米国の消費者物価指数のピークアウト以降、ドル下げ局面に移行しているが、ここ数か月は、米国の追加利上げ観測の高まりから、下げ渋ってきたことが見て取れる。しかし、先月のFOMCで、年末に向け、次回の利上げは、今後のデータ次第との見解が示されたことで、今回の米国の金融引き締めも最終段階との認識が深まってきた。その結果、ドルインデックスの下げ第2局への移行時期が近づいて来たとすれば、チャート的には、あと10%程度のドル下落は十分に見込める状況にある。
2.金融市場における金の位置づけ
金利を生まない資産である金は、通常、米国の金融引き締め局面では、敬遠される特性があり、図表2の通り、昨年の米国の利上げ局面では、1オンス2,000ドル近辺から1,600ドル近辺まで下落している。
しかし、米国のインフレ率ピークアウトが鮮明となる中、金への見直し買いが進み、直近では、1オンス2,000ドル近辺まで上昇してきている。
3.質への逃避としての金価格の今後
昨日、フィッチレーティングスが、米国債の格付けを最高位のトリプルAからダブルAプラスに1ノッチ引き下げた。米国債の格下げは、12年ぶりで、上下両院での債務上限引き上げ交渉を乗り切った以上、米国債の格下げは遠のいたとの市場の見方が一般的であったために、市場では驚きを持って迎えられている。
今まで、金融危機等が発生すると、資金の逃避先として米国債が選好される傾向が強かったが、今回の格下げにより、資金の逃避先が米国債ではなく、金に向かう公算が高まったとも言える。
足元、トルコ中銀が、通貨リラ防衛の観点から、今まで外貨準備として積み上げてきた金を大量に売却したとの報道が流れ、一時的に金価格が下落する局面もあったが、世界全体としては、今回の米国債の格下げにより、世界の中央銀行が、米国債ではなく、金への外貨準備シフトを強める蓋然性が高まったとも言える。
更に今まで、逃避通貨として選好されてきた米ドルの信認が下がり、大規模金融緩和による流動性供給により、価値が下がり続ける日本円も敬遠されるとすると、消去法的に金が選好される度合いが高まることもあり得よう。
この3年の間に、3度、1オンス2,100ドル越えをトライして跳ね返されてきた金相場であるが、今度こそ、新高値を更新する可能性もあり、今まで以上に市場の注目が高まりそうだ。
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20230803執筆 チーフストラテジスト 林 哲久
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