
休むも相場―今年を振り返る!
今年は年始から大相場を繰り広げているドル円相場だが、未だに収束の兆しが見られない。今回は目まぐるしく変わる目先の動きにとらわれず、中期的観点からトランプ新政権の経済政策を検証し、ドル円相場の来年の行方を占った。
1.今年のドル円相場の動き
今年のドル円相場は図表1の通り、1ドル140円で始まり、好調な米国経済を受け、7月初頭には161円台まで上昇した。その後、財務省による円買い介入や、植田ショック・石破
ショックを受け、9月後半には一時140円割れまで急落した。しかし、FRB(連邦準備制度理事会)による大幅利下げ後は、パウエルFRB議長の「米経済は堅調」との発言を受け、逆に米長期金利が反転上昇、ドル円相場は11月に一時156円台を回復した。その後、トランプ次期大統領がベッセント次期財務長官を指名し、メキシコ・カナダに大幅関税を課すと発言すると、一転150円台まで急反落となっている。

2.トランプトレードからベッセントトレードへ
トランプ候補が米大統領選挙で勝利した後、新政権による大幅減税・高率関税・移民規制強化政策がインフレ要因と判断され、債券売り・株買い・ドル買いのトランプトレードが再開し、ドル円相場を押し上げた。しかし、ベッセント次期財務長官が掲げる財政赤字削減・規制緩和・石油増産政策がインフレ抑制的と判断され、11/25以降、債券買い・株買い・ドル売りのベッセントトレードが優勢となっている。

3.トランプ関税の行方
11/26トランプ氏が発表した中国への10%の追加関税、メキシコ・カナダへの25%関税の背景には、米国への合成麻薬・不法移民対策が理由として挙げられている。しかし、ベッセント次期財務長官は、関税引き上げには元来否定的で、特に日量300万バレルの原油を輸入するカナダへの関税賦課は、米国の石油増産政策と矛盾するため、このまま実行されるとは考えにくい。
4.トランプトレードを補完するベッセントトレード
トランプトレードの弱点は、野放図の財政拡大とインフレ高進が、米国経済を過度に刺激し、インフレ再加速による景気急減速懸念から、金融市場が早晩トリプル安(債券安・株安・ドル安)に陥るというリスクであった。この弱点を熟知するベッセント氏は、減税による支出拡大を抑えるために、政府効率化省と協力して、行政機関の統廃合を進め裁量的支出の削減に努めることで財政赤字拡大を抑制し、長期金利の高騰を抑える政策を目指している。また、関税強化によるインフレ高騰を相殺するために、石油増産を行うなどの対応策も準備した。こうして第二次トランプ政権の経済路線を高圧経済から高成長・低インフレ経済に誘導しようとしているものと考えられる。
5.来年のドル円相場の行方
その結果、来年の米長期金利の上昇は穏やかなものに留まり、5%を超えて大きく跳ね上がる事態は回避されるものと考えられる。その分、息の長い安定成長が期待できることになる。
一方、日本経済については、自民党が少数与党になったことで、「103万円の壁」問題など野党が掲げる減税策を受け入れざるを得なくなっており、一定の財政拡大が景気を下支えすることで、金融緩和政策に依存し過ぎた経済運営からの脱却が図られる公算が大きくなっている。これは日本銀行の金融正常化にとっては追い風で、1%程度までの利上げが行われる環境が徐々に整っていくものと考えられる。
その反面、トランプ政権は、日本との貿易交渉において米国の農産品・防衛装備品の輸入拡大や米国への直接投資拡大を求めてくる可能性が高く、日本の国際収支の悪化は続くことになる。
結論として来年は、堅調な米国経済を背景とした、緩やかではあるが息の長いドル高円安トレンドが継続し、今年の高値の161円台を超えて、170円を目指すことも考えられよう。
情報は、X(旧Twitter)にて公開中
前回の記事はこちら
2024年11月28日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久