雨の日の思い出を美化してもいいじゃない(ベトナム ハロン湾)
ハロン湾は豪雨だった。
いきなりエモい書き出しで申し訳ない。(どこから湧いてきたんだその自己肯定感)
もしかすると世界に一人くらいは、この書き出しをみて川端康成の新作かもと思った人もいるのかもしれない。そんな人がいたら、読書という行為から足をあらった方がいいかもしれない。
ただ、今回の話はエモくもなんともないし、もちろん『雪国』のような抒情豊かな話でもない。
簡単にまとめると、ベトナムのハロン湾で豪雨にあい、ビチャビチャになったというだけの話だ。(すごくつまらなさそうであるが、どうか最後まで読んでください。)
ベトナムのハロン湾へ観光に行く日の朝、天気は確かに快晴だった。
しかし、ハノイから迎えのバスに乗り、港についたときにはだんだん雲行きが怪しくなりはじめていた。
そのときは、このあと豪雨が待ちかまえているとも知らず、霧がかかっているハロン湾を見て「なんだか幻想的だね」とはしゃいでいたことを思い出す。
過去の自分と、焼き鳥屋の前にタムロして道をふさでいる大学生に言ってやりたい。はしゃぐな。
ハロン湾には、大型の船で出かけていき、海に浮かぶ奇岩を満喫したあと、カヤックでハロン湾をより身近に体験し、鍾乳洞を見学して帰ってくるプランが一般的だ。
無論、その全てを成し遂げるつもりでハロン湾に出向いた。
なんなら前日は、YouTubeでカヤックの動画を見たりもした。カヤックの操縦法を誰よりも先にマスターしておき、誰よりもハロン湾で光り輝いてやろうと謎の自己顕示欲を発揮していた。(最終的にはカヤックに乗ってる人がサメに襲撃されかけたハロン湾とは何の関係もない動画を見て、怖くなったて見るのをやめた。)
さて、いざ出航である。天気は曇り。でもまぁ、快晴ではないにせよ、曇りなら許そう。それこそ、ハロン湾なんてところは、少し曇っているくらいが幻想的でいいじゃないか。
過去の自分と、合コンの相手がなかなか可愛かったのであろうか居酒屋のトイレで楽しそうに相手の女性の品評会をする男子大学生3名に言いたい。はしゃぐな。
最初の5分はもった。港を出て、奇岩に向かうまでの5分は。ただ、5分ではまだ奇岩は見えてこない。1つも奇岩は見れていな状態で、船のデッキから爆曇りの空と緑色のハロンの海を見て、サメがいないかチェックしていたら豪雨になった。
我が人生でベスト3にはいる豪雨だった。バケツをひっくり返したような雨がひっきりなしに続く。誰だ、ハロン湾でバケツリレーしてるのは。
デッキにいた人々は、みんな船の中に避難していく。パニックだ。サメが出たくらいのパニック。一気にみんなびしょ濡れになり、デッキの中は人でごった返していた。
なんとか席に戻ったところで、稲光がし、雷がなる。船内の別の観光客グループが悲鳴をあげる。
この時はまだ、状況をあまくみていた。
東南アジアではよくあることだ。短時間で一気に雨が降り、すぐにやむ。そこからまたいつもの生活が続く。
いわゆるスコールというやつだ。スコールの間、雨宿りしながら少し休憩する。それが東南アジアのゆるくて素敵なスタイルなのだ。
それくらいの認識だった。
しかし、いつまでたっても雨は止むことなく、船の中に放送がかかる。
「雨がひどいので、本日のカヤックは中止にする」とのことだった。
昨日のyoutubeタイムを返してほしい。なんなら別の機会に自己顕示欲をとっておきたかった。結局、自己顕示欲なんて発揮してもいいことは起きないことを身をもって知った。まぁそれはそれでいい勉強ではあるが。
全然やまない雨。おかしい、スコールならそろそろやんでもいいはずだ。そして、先ほどから一向に止まらない雷鳴。
窓には大粒の雨が叩きつけ、外の景色は全く見えない。奇岩はどこにあるんだろう?サメを見つけるどころか、奇岩すら見つからない。
このとき、僕の頭の中を駆け巡った名曲がある。サザンオールスターズの「TSUNAMI」だ。
桑田さんが高らかに歌い上げる「思い出はいつの日も〜雨」というフレーズが脳内でエンドレスリピートされる。
「それにしても、思い出がいつの日も雨って相当辛いカップルだな。『どっちかが雨男か雨女だね、きっと君の方だよ〜』みたいなウザめの会話を82回くらいはしているだろうなという、謎の妄想をふくらませながら、船に揺られる。
そして、奇岩をほとんど見ることなく鍾乳洞のある島についた。まだ、雨が降っていたので、しばらく船内での待機を命じられ、雨が少し小ぶりになった瞬間に僕たちは鍾乳洞へ突入した。
これはミッションインポッシブルかなにかですか。船でそっと島に近づき、敵から見つからないように素早く鍾乳洞まで移動して、身を隠す。
いや、メタルギアソリッドか。ステルス迷彩が欲しい。いやそんなことより、今は単純に傘が欲しい。
そんなふうにして入った鍾乳洞だったが、中は思った以上に広く、自然の力が作り出したとは思えないほど、不思議な光景が広がっていた。
しかも、それらがカラフルにライトアップされているではないか。カラフルにライトアップすることで、その幻想的な雰囲気が少し失われつつはあるものの、それはそれで一つの芸術作品のようであり、面白い。そして、鍾乳洞がとにかくでかい。
なかなかに面白い鍾乳洞の中をくぐり抜け、外に出ると、雨がやんでいた。
いや、タイミング!!
確かに、ポケビより、ブラックビスケッツ派だったけど。
「ズレた間のワルさも〜それも君のタイミング〜僕のココロ和ごます〜なんて不思議な力〜」
なんて歌っている場合ではない。それにしても、ビビアンスーは可愛いよね。
その後、雨がやんで霧が盛大にかかるハロン湾で、なんとか遠目に奇岩をみながら港に向かい、ツアーは終了。
そんなわけで、豪雨のハロン湾観光終了終了である。
カヤックができなかったり、緑の海に浮かぶ奇岩が綺麗にみれなかったりしたが、今となっては雨のハロン湾観光こそ、良い思い出だし、こうやって旅行記のネタにもなった。
中尾彬といえばネジネジマフラー、ヨネスケといえば隣の晩御飯、雨といえばハロン湾というくらい、今では雨とハロン湾が結びついている。日常生活で、雨が強めに降っていると、ふとハロン湾を思い出す。
雨が降って古傷が痛むのとは全く違う。楽しかった世界一周の思い出が蘇る。
雨と結びつく記憶が、大切にしたい思い出になることもあるんだとハロン湾は教えてくれた。いい感じだ。雨が降ることで、思い出はネタにもなる。
そういえば、鍾乳洞をでたところにお土産の売り子がたくさんいて、手に持ったお土産をいろいろと勧められた。
その中で売り子がしきりにすすめてくる物があった。
傘だ。
もしかすると、あれが世界一周で、最も心惹かれたお土産かもしれない。
ただ、雨はもうやんでいた。やはり、何事にせよ、タイミングである。とはいえ、そのタイミングのズレもどこか愛おしい。
これがベトナムハロン湾での思い出の一部始終。最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。今後もどうか、ご贔屓に〜。
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