企業は投資家が求めていることを理解しているのか
投資家と企業を対象に実施したアンケートで、両者の意識の差が明らかになりました。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。
生命保険協会が毎年、投資家と企業を対象にアンケート調査を実施し、その結果を公表しています。
この「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」、直近の2023年版が公表されたのは5月で少し前なのですが、50年にわたって実施されてきた貴重な調査ですので、取り上げてみようと思いました。
特に投資家と企業の意識の違いが色濃く出ている部分に焦点を当ててお伝えします。
🏹「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」とは?
生命保険協会が1974年から実施してきたこのアンケート調査、2023年版がちょうど50年目になります。
投資家と企業の両方に類似の質問をして、それぞれの結果と両者の比較も公表しています。
2023年版では、生保など機関投資家200社と上場企業1,200社を対象に実施。
実際の回答数は投資家100社弱、企業は400社強となっています。
🏹投資家と企業の意識の差❶
投資家が社外役員に期待しているのは経営の監督
社外取締役は役割を果たしているのか?
まず、社外取締役が役割を果たしているのか、投資家と企業の見立てを確認しましょう。
こんな質問をすると、投資家はネガティブ、企業はポジティブな意見になることは予想されますが…
それにしても「期待どおり⼗分に果たされている」は投資家3.5%に対し企業56.3%、「不⼗分であり、改善の余地がある」は投資家48.2%に対して企業2.5%とコントラストが激しくなっています。
社外取締役に期待する役割
このような大きな差が出るのは、投資家と企業が期待する社外取締役の役割が違うからかもしれません。
投資家、企業とも「独⽴した客観的な⽴場での発⾔・⾏動」が社外取締役に期待する役割のトップになりました。
一方で、「経営執行に対する助言」は、投資家が28.2%に対して企業が49.1%とかなり差が出ています。
企業側は「社外取締役からほしいのはアドバイス」、投資家は「客観的な立場からの監督」を重視していると考えられます。
🏹投資家と企業の意識の差❷
投資家は、売上高や利益よりもROEやROICを重視
重視する経営指標
目指すべきゴールが違えば、到達するところも違うはず。
投資家が挙げているのはROE(株主資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)、資本コスト(WACC等)。
企業はさすがにROEは挙げているものの、ほかには売上高・売上高の伸び率と利益額・利益の伸び率を重視していることが分かります。
これでは、なかなか話がかみ合わないですね。
取締役会で取り組むべきテーマ
投資家、企業のいずれも60%前後が「経営戦略立案」は重要と考えています。
ところがそれ以上に多くの投資家が「経営目標・指標の適切性」を取り上げてほしいと回答しています。これを挙げた企業は40%に達しません。
投資家としては、戦略を云々する前に、そもそもどの指標を使って目標をどこに置くかをしっかり議論してほしいということでしょう。
🏹投資家と企業の意識の差❸
投資家のESGへの意識は?
中長期的な課題・取り組み
ESG(環境・社会・ガバナンス)は開示の拡充が進められ、監査法人による保証制度の導入も議論されています。
投資家はESGにどの程度重きを置いているのでしょうか?
投資家と企業に中長期的な課題や今後取り組みが必要な事項を聞いたところ、「経営計画・経営戦略」にいずれもほぼ72%の回答がありました。
ところが、企業では「ESG・SDGsへの取組み」にこれ以上の回答が集まった(74.2%)のに対し、投資家の目線は40%と冷ややかでした。
🐣おわりに
企業には企業の、投資家には投資家の思惑があるため、優先順位が違って当然、と言う議論もあると思います。
ステークホルダー資本主義という言葉が使われるようになり、企業は株主だけのものではない、と言われているためなおさらです。
しかし、株主が最も重要なステークホルダーの一人であることに間違いはないと思います。
その意味で、企業が重要と考えていること、やろうとしていることと、投資家の期待とがあまりに違うのは問題です。
今さらですが、企業はIRでの対話を通じて投資家の期待を理解し、経営に反映させることが求められています。
投資家との対話を有意義なものにするために、このようなアンケートも参考になると思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま