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監査がいつも遅れる子会社監査チームへの最終手段【監査ガチ勢向け】

グループ監査は、監査手続を実施するすべての子会社で手続がタイムリーに完了することが重要。むしろ、監基報600対応よりもたいへんなときがありますよね。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

親会社監査チームとしては、子会社の監査の品質が不十分であれば連結監査全体が不十分になってしまいますし、そもそも子会社監査が終わらなければ、監査意見を出すことができません。

「監査品質」と「タイムリーな監査」の両方に論点がありますが、今回は後者の「タイムリーな監査」に焦点を当てます。

なお、この記事ではグループ監査の登場人物4者を「親会社」「子会社」「親会社監査チーム」「子会社監査チーム」と呼んでいます。略称はファームによっても違うようですので、ちょっと煩雑ですがこれで進めます。



子会社監査が遅れる理由

子会社での監査が遅れる場合には、いろんなパターンがあります。

まず、子会社に理由があるパターンとしては……

  • 子会社が資料をなかなか出さない、質問への回答が遅い

  • 処理誤りや不整合が多すぎる

子会社監査チームに問題がある場合としては……

  • 人手不足やメンバーの頻繁な交代で調書作成が進まない

  • 上席者のレビューが遅い

  • 段取りが悪い(準備期間の必要な資料を急に依頼するなど)

経験上、子会社と子会社監査チームのどちらかが100%悪いことは少なく、どちらも何らかの問題があることがほとんどです。
どちらがより悪いか、という議論は生産的とは言えませんので、タイムリーに監査を終えるという共通のゴールに向かって何ができるかを考えるべきだと思います。


子会社監査が毎年遅れるときにできること

子会社経理や子会社監査チームの中心メンバーが急にいなくなったり、大きな誤りが見つかったり、突発的なことで遅延が避けられないことはあります。

しかし、毎年のように遅れる場合は、放っておくと次の期も同じことが起こる可能性が高いでしょう。
子会社と子会社監査チームとでよく話し合ってうまくやってほしいところですが、お互い相手が悪いと主張する状況ではそれもままなりません。

そんな難しい局面で、日本主導でできることはこれです。

「親会社と親会社監査チームによる進捗モニタリング」

「そんなの、やってますよ」とおっしゃると思いますが、まあ聞いてください。

資料依頼リストと質問リスト

モニタリングのツールとしては、資料依頼リストと質問リストを使います。
親会社の監査でも普通に使っているものです。

資料依頼リストは、PBC(Prepared by Client)リストとかPBE(Prepared by Entity)リストとも呼ばれます。
作成時には、依頼したい資料、依頼日、期日を書き込みます。資料が提出されると完了日も記入します。

質問リストは、監査チームからクライアントへの質問をまとめたものです。
質問の内容とともに、依頼日を書き込みます。期日は必須ではないと思います。こちらも、回答されたら完了日を記入します。

二つのリストの基本的な使い方

子会社監査チームは、前期調書などを参考に往査開始前に余裕をもって資料依頼リストを作成し、子会社経理と協議のうえで合意します。

特に期日の合意が重要。これに合意することで、子会社経理には「この期日までに提出する」という責任が発生します。
一方の子会社監査チームは、すべての資料が期日までに提供されたのに監査が終わらないことがあると、合理的な理由を説明する責任があります。

どうしても合意ができない場合は、親会社と親会社監査チームが入って合意に持ち込みます。

監査が進むと質問や追加資料依頼が必要になったりします。
その都度、質問リストと資料依頼リストに記入していきます。
そして、質問が回答され、資料が提出されるとその日の日付を完了日欄に記入します。

日本サイドからの進捗モニタリング

ここまでは、普通の進捗管理。
うまくいっていない子会社監査の場合は、この二つのリストを親会社と親会社監査チームとでモニタリングします。

モニタリングの方法はいろいろ考えられます。

  • 親会社は子会社から、親会社監査チームは子会社監査チームから報告を受け、親会社と親会社監査チームとで定期的に認識をすり合わせる

  • 親会社、子会社、親会社監査チーム、子会社監査チームの4者で定期的にリモートミーティングを開催し、子会社監査チームが進捗を報告する

いずれの場合でも、子会社監査チームが感じている懸念についても報告してもらうのがよいでしょう。

モニタリングの頻度は、子会社監査の期日が近づけば月次から週次、週次から隔日や毎日など変えていきます。


日本サイドからの進捗モニタリングの留意点

管理工数がかかる

あらゆる管理に言えることですが、強化すればするほど管理工数が発生します。
例えば子会社監査チームでは、リストを更新し、子会社や親会社監査チームに説明、協議する工数がかかります。報告頻度が高くなれば、さらに工数が積み上がります。

すべての子会社についてこれを実施することは難しいと思います。
導入するのはよほどの場合、という意味でこの記事のタイトルを「最終手段」としました。

子会社監査チームの規律が重要

資料依頼リスト、質問リストのメンテは、工数がかかるだけでなくかなり面倒。
気がつくとリスト外の資料依頼や質問がたくさんあったり、完了日欄の記入漏れで虫食いになっていたり。
こんな状態ではモニタリングはできません。

完了したか否かでもめることもあります。
子会社は資料を提出した、質問に回答したと思っていても、不十分なことがあります。その際には、子会社監査チームからまだ完了日に記入できないことを伝え、理解してもらわないといけません。

親会社監査チームでは、リストが適時に更新されるように子会社監査チームを促す必要があります。
そうでないと、親会社では「子会社監査チームがいい加減だから、子会社監査は遅れるんだ」との印象を濃くしてしまいます。

日本サイドでの協力関係を維持する

子会社監査が過去うまくいっていなかったということは、子会社と子会社監査チームとの関係もうまくいっていない可能性が高いでしょう。
この状態で、親会社と親会社監査チームがそれぞれ現地からの報告を100%鵜呑みにして「そっちが悪い!」と言いあっていたら、問題をさらに悪化させてしまいます。

現地サイドのコミュニケーション不全をカバーするためには、親会社と親会社監査チームが「同じゴールを目指している」と認識し協力し合うことが不可欠です。

子会社の管理体制や経理能力に問題がある場合は効果なし

そもそも子会社が正しく決算できる体制になければ、進捗をモニタリングすることでは対応できません。
もっと根本的な問題を改善する必要があります。

子会社監査チームの監査能力に問題があったらどうするの?と思われるかもしれませんね。
そんな場合は、そもそもグループ監査に参加してもらえないはずなんですが…


おわりに

資料依頼リストや質問リストは、もともとはクライアントの対応状況を管理するために監査人が使うツールです。
しかし、期日や完了日も含めてしっかり運用すると、次のような監査人の問題が浮き彫りになります。

  • 資料依頼や質問を行う時期が遅すぎ、いつも無理な短納期で依頼している

  • 資料や質問の回答を受け取ってから、追加で資料依頼や質問をするまでに日数がかかりすぎている

  • 大量の依頼資料や質問が対応されないまま監査が終了しており、必要性に疑問がある

実際のところ、最後まで整然とリストのアップデートを続けた状態で監査を終われることはなかなかないかもしれません。
それでも、子会社サイドがブラックボックスになっていたことと比べると、ここでお話ししたようなモニタリングを行うことで、より早期に問題を把握して手を打てるようになると思います。

「最終手段」と書きましたが、どうしようもなければ親会社と親会社監査チームからそれぞれ現地に乗り込んで、自分たちで直接解決するしかありません。
皆さんがそんなことにならないように、願っています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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