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【5分で分かる】サンテック社の監査意見不表明

また第三者委員会による調査報告書が公表されました。サンテックという設備投資の会社です。何が起こったのか、5分で分かる解説です。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。


🪛何が起こったのか?

株式会社サンテック(以下、「会社」)の監査人、RSM清和監査法人が監査を終えることができず、2024年3月期の会社法監査と金商法監査において、監査意見を表明しないとする監査報告書を提出しました。

監査報告書によると、意見不表明とした理由は以下のとおりです。

  • 工事に係る見積り工事原価の根拠や、その網羅性に関する十分な監査証拠を入手することができなかった

  • 全社的な共有資産に減損の兆候が認められ、割引前将来キャッシュ・フローの見積り資料が作成されているが、その前提となる仮定に関する合理的な説明が受けられなかった

  • 第三者委員会の調査が終了していない


🪛なぜそんなことが起こったのか?

前年の株主総会で監査人が交代しており、2024年3月期はRSM清和監査法人によるはじめての監査でした。

第三者委員会の調査報告書開示版(2024年9月9日公表)(以下、「調査報告書」)によると、監査完了のめどが立たないため、監査法人から会社に対してスケジュールの延期を助言。
しかし会社はこれを聞き入れず、当初のスケジュールで進めたため、監査が終わらないまま期限となり、意見が出せないことに。

監査が進捗しなかった理由として、調査報告書は次のことを挙げています。

  • 前任監査人(東邦監査法人)は「伴走型」の対応を行っており、会社は「監査法人が何とかしてくれる」との受け身の姿勢が常態化していた。
    「伴走型」とは、例えば次のような対応。

    • 会社の能力を補うように、最新の会計基準等をあらかじめ会社に伝える

    • 減損の兆候があれば、その後の必要資料を個別に収集し結論まで対応する

  • 一方、RSM清和監査法人は通常の監査人としての対応。
    見積り工事原価や全社的な共有資産の減損に関して、証憑がそろわない、十分な説明がない、といった状況が続く。
    請負金額が確定していないため原価回収基準により収益認識をするべきところ、工事進行基準で算定する、といった基本的な会計基準の適用誤りもあった。
    その上、監査法人は、4月に工事見積りの重要な誤りを発見、さらに状況は悪化する。

  • 会社は、意見不表明の影響を深刻にとらえていなかったと考えられる。

なお、監査法人にも落ち度がなかったわけではなく、工事見積りの誤りが見つかった当初は「限定付適正意見」でいけるかも、と会社に話していたそうです。
それが突然、監査法人内の審査でひっくりかえり、5月20日に意見不表明となる旨が会社に伝えられます。
会社としては、今さらスケジュールは変えられない、となったようです。


🪛ガバナンス、内部統制の問題点

てりたまnoteにおいて、意見に関するところはすべて筆者の私見ですが、このセクションは特に私見を全面に出してお話しします。

上場会社に求められる経理能力の欠如

調査報告書には、経理能力の欠如を示す事実がちりばめられています。

  • 会計基準が正しく適用できない

  • 会計処理の根拠を説明できない

  • 原価の見積りという、会計のみならず経営にとっても重要な手続に内部統制が効かずエラーが発生する

上場会社に求められる責任感の欠如

このままでは監査意見を出せません、と言われているのに予定どおりのスケジュールで進めてしまうことは、理解に苦しみます。(なお、決算数値自体の確定が遅れたため、決算発表は延期しています)

会社からは「限定付適正意見なら出せると言っていたのに…」という声もあがったようですが、「限定付」も異常事態で、回避するためにあらゆる努力を尽くすべきものです。

また、株主総会を予定どおり開催する理由として「配当を待っている株主が大勢いる」ことが挙げられているようですが、未監査のまま財務諸表を公表する理由になると考えたのでしょうか。(配当さえもらえれば喜ぶ投資家もいるでしょうが…)

経理能力と責任感の欠如を是正・カバーできないガバナンス

前年(2023年)の株主総会招集通知には、取締役・監査役のスキルマトリックスが表示されています。

「第76回定時株主総会(2023年6月開催)招集ご通知」より

「総務 財務会計」には、代表取締役2名、社外取締役2名、社外監査役2名、計6名に「●」が付されています。
有報の略歴を見たところ、この6名のどなたにも、上場企業の経理やIRに関連しそうな経歴は見当たりませんでした。

なお、毎年6月には、社外役員による取締役会の実効性評価結果が公表されています。2023年6月2024年6月の評価結果は、いずれも「概ね良好」でした。


🐣おわりに

この事案は決算・財務報告プロセスの問題であり、それに有効な手を打てなかったガバナンスの問題だと理解しています。
これはまさに企業会計2024年10月号の特集テーマ。内部統制大好き会計士の浅野雅文さんと私との対談が冒頭を華々しく飾っておりますw

今回は書きたいことがたくさんあり、いつもの3倍くらいの分量になりそうでしたので、逆に思い切ってコンパクトにしました。
1分間に読める文字数は400~600だそうで、2,000文字程度であれば5分で読める計算です。

言葉足らずで分かりにくかったり、不正確と思われたりするところもあるかもしれません。
ご意見をいただければ、今後に向けて改善していこうと考えています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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