日本企業の内部通報制度は大丈夫?
企業と従業員に向けた政府の調査から、日本企業の内部通報制度の実態が見えてきます。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。
2024年4月、消費者庁より企業を対象とした内部通報制度に関する調査結果が発表されました。
消費者庁は、2024年2月に従業員を対象とした調査も発表しています。
発表元が消費者庁なのは、公益通報者保護法の所管になっているためですね。
同法では、従業員300人を超える企業に内部通報制度の整備を義務付け、それ以下の企業には努力義務を課しています。
この二つの調査から、上場会社を中心とした日本の内部通報制度の実態を見ていきます。
時間のない方は、目次だけでも見て行ってください。
企業への調査結果
まずは、企業にアンケートした結果。3,407社(うち上場企業1,471社)からの回答を集計しています。
上場企業の99.1%が導入
さすがにほとんど導入しているんですね。逆に0.9%の上場企業は、どうなってるんでしょうか?
非上場企業では、導入しているのは15.4%にとどまります。
大企業で通報ゼロ件は2.2%
消費者庁のレポートでは、項目によって上場・非上場の区分がされていないことがあります。
その代わり、従業員数別のデータが表示されています。
以下では、従業員5,000人超の企業を「大企業」と呼びます。
通報実績なしでは、いかにも機能していないように見えますね。
通報ゼロ件の企業の割合は、従業員規模が小さくなるほど増え、300人以下では過半数を超えています。ただし、規模が小さいと非上場の会社もかなり混じっているはずです。
大企業の54.4%が通報件数を外部に公表
こちらは上場・非上場のデータもあり、上場企業全体では22.1%。
上場企業でも、規模によって割合がかなり違うようです。
上場企業が公表する理由として、ESG評価機関により求められるからが74.0%、取引先や機関投資家等からの要請や期待に応えるためが56.0%となっています。(複数回答あり)
大企業の68.1%が通報件数を従業員に開示
3,001人~5,000人では69.4%と同水準ですが、1,001人~3,000人では44.9%、301人~1,000人では24.4%とかなり下がります。
従業員の規模に関わらず、70%以上の企業が通報件数を社外取締役・監査役に報告
6~20人の企業だけ60.7%と低くなっていますが、それ以外は70%を超え、3,000人超では90%を超えています。
非上場企業を含めて、社外役員には件数を報告することが一般的と言えそうです。
大企業の従業員への周知方法は、イントラネットや研修など
従業員5,000人超企業の従業員への主な周知方法(複数回答あり):
イントラネット 91.3%
研修 81.7%
通知 71.3%
トップによるメッセージ 49.1%
3,001人~5,000人企業でもほぼ同じ傾向です。
「通知」の説明がないのですが、メールでのお知らせのようなものだと思います。
「トップによるメッセージ」が大企業でも半分に満たないのはとても残念です。
大企業で発見されたほとんどの不正では、内部通報が端緒となっている
従業員5,000人超企業での主な不正発見の端緒(複数回答あり):
従業員等からの内部通報 95.7%
内部監査 62.3%
上司による日常的な業務のチェック、従業員等からの報告 56.7%
従業員を対象にした職場のアンケート調査 29.9%
取引先や顧客からの情報 25.1%
行政機関の検査・調査 13.9%
内部通報が100%近いのは驚きます。
内部通報制度を導入していない企業にも同じ質問をしているのですが、内部通報が端緒となって発見された不正が46.9%あるとのこと。
内部通報はそれだけ不正発見に有効な手段で、制度を整備して不正の端緒を発掘する意義は大きいと思います。
大企業で発見された不正のうち、外部監査が端緒になったものは11.3%
このようなアンケートでは、外部監査で発見された割合が小さいことがいつも残念に思います。
行政機関の検査・調査(13.9%)にも負けています。
5,000人超では11.3%ですが、301人~1,000人では17.6%、101人~300人では16.3%とわずかながら大きくなっています。
内部通報制度を含めた内部統制が弱いために外部監査で見つかるのか、外部からでも見通せる規模だからなのか……
従業員への調査結果
次に従業員へのアンケート結果です。1万人からの回答に基づいています。
上場企業(300人超)の従業員のうち、内部通報制度を「知らない」が24.9%
これは残念な結果。しかも「聞いたことがある」にとどまる21.2%を合わせると過半数近くに達し、「よく知っている」「ある程度知っている」の合計と近くなっています。
なお、このアンケートでは上場企業を300人超と以下とで分けて集計している項目があり、300人超を中心にご紹介します。
上場企業(300人超)の従業員のうち、内部通報窓口が設置されているか分からないとの回答が34.9%
また、「設置されていないことを知っている」が11.5%あるのですが、上で見たように上場企業の99%は設置しているため、あるのにないと思っている従業員が多いということだと思われます。
窓口を知ったきっかけ(非上場企業を含む)は、社内の研修や説明会が59.3%、トップによるメッセージ発出が32.7%、イントラネットが29.9%となっています。
通報経験者のうち、相談・通報してよかったと思う従業員が69.5%
これは非上場を含めたデータです。
勇気を振り絞って通報してよかったと思っている人が多いことは、ちょっとほっとします。
一方で、後悔している人が17.2%、よかったこともあれば後悔したこともあるが13.2%。
後悔している理由として、不正に関する調査・是正が行われなかったから57.2%、人事面などで不利益な取り扱いを受けたから42.1%。(複数回答あり)
不利益の内容は、上司や同僚からの嫌がらせ、人事評価上の減点、不利益な配置転換などが挙げられており、これらを複数受けた人もいます。
参考
おわりに
企業にお勤めであれば勤務先、監査・コンサルであればクライアントの内部通報制度と比べて、いかがでしたか?
興味を持たれたら、「参考」に挙げたレポートを読んでみてください。
きっと改善に向けてのヒントが見つかると思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま