「この監査クライアントに行くのイヤだな」を大事にする【監査ガチ勢向け】
「スタッフから不人気なクライアント」「スタッフ泣かせのクライアント」ってありますよね。仕事なんだから仕方ない、とあきらめてしまうと、大きな問題を放置することになりかねません。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。
いろいろな意味で監査がやりにくいクライアントはあります。仕事だから、我慢して役割を果たします。
ところが、その監査のやりにくさが、重要な問題を示唆していることがあります。
監査がやりにくいクライアントは、会社の問題を疑おう
監査がやりにくければ必ず問題があるとまでは言えませんが、少なくとも問題を示唆していないか、検討する必要があります。
「やりにくさ」の種類ごとに考えてみましょう。
やたらと数字が合わない
普通の会社なら合うはずの数字が合わない。
総勘定元帳と補助簿が合わない。
これとこれを合計すると合うはずなのにずれる。
過去の監査で主な差異は分かっていて、それぞれの差異の元資料も把握できているのですが、どうしても説明できない差異が残ってしまう。
ある年度で不明差異が大きくなってしまい、誰に聞けばよいのか分からず調書作成者は途方に暮れ、この年に担当した己の不幸を呪う。
本当はクライアントが照合していないといけないのではないでしょうか? ひょっとすると不明差異はプラス要因とマイナス要因がたまたまネットされて小さくなっただけで、かなり大きな虚偽表示が隠れているのかもしれません。
監査証拠が足りない
業種にもよりますが、十分な監査証拠をそろえることが難しい場合があります。
例えば、客先検収時点で収益認識しているのに、正式に押印された検収書のようなものがないケース。
あるいは、ソフトウェア開発業なのに契約書や注文書が不十分で、履行義務やそれを充足した時期をかちっと示すものがない。
仕方なく状況証拠的なものをかき集めて実証手続の調書を作ります。
うーん、クライアントは収益認識会計基準をちゃんと検討したのでしょうか? 十分に詰められていないのに、負担のしわ寄せが調書作成者に行ってしまっているのでは?
書類が少なく取引の全容が分からない
特殊な取引や新しい取引があり、内容を理解しようと思っても、読めば分かるような資料がないことがあります。
クライアントに質問すると説明してもらえるので、それを監査人が苦労して文書化します。
その過程で分からないことが出てきたり、レビューを受けてフォローアップが必要になり、「またですか」と言われながら追加質問。何度も「すいません、すいません」と謝りながら情報を入手して調書を完成させる。
これ、クライアントは全容をちゃんと分かった上で会計処理などの判断ができているんでしょうか?
確かに情報は社内にあるとしても、複数の人の頭の中にばらばらにあるのかもしれません。
また、まとまった文書がないのに、どんな内部統制が効いているんでしょうね。
サンプルテストするとエラーが出がち
詳細テストにしても運用評価手続にしても、サンプルテストを実施するとエラーが出るクライアント。
エラーが出ると、言い訳調書の作成に時間がかかる。
詳細テストの場合は、虚偽表示はその一つだけで、母集団にはエラーがないことを説明。
運用評価手続であれば、内部統制の不備ではないとの説明。
これはクライアントの経理能力が低いから虚偽表示になり、内部統制を運用できていないから運用評価手続で逸脱事項が出てくるということでは?
重要性でパスしてきたが、だんだん重要になってきた
虚偽表示なんだけど金額的な重要性でパスしてきたもの。
経営者確認書にぎりぎり載せるかどうかの微妙なライン。どうしても超えてしまう場合は全力で載せないように調書を作成。
こんなのが多いとチームが疲弊します。
そのほか、悩ましい会計処理で毎年のように品質管理部門とバトルになり、膨大な時間がかかるパターンもあります。
過去に監査チームが認めたという経緯があるのかもしれませんが、そのときはOKでも、金額規模が大きくなると話が違ってきますよね。
指摘しても改善してくれない
虚偽表示にしても内部統制の不備にしても、指摘はするし受け入れてももらえるが、改善が進まないクライアント。
例えばIT全般統制でアクセスコントロールが弱い場合。
毎年指摘しても「そうなんですよね、でも予算がね」と同じ回答。
いろいろ言い訳してOKにしているものの、いよいよ審査から厳しいコメント。そしてさらなる言い訳を積み重ねる……
とにかく非協力的、敵対的
やたら資料の出が悪いクライアント。
あるいは、質問や資料依頼にいちいち文句を言ってくるクライアント。
会社全体のこともあれば、特定の部署や事業所が非協力的であることも。
特定の個人である場合もありますね。
もしクライアントが不正を働いていたら、どうにかして監査を乗り切ろうとあらゆる手段に出るはずです。
協力しなければ、あきらめてくれるのではないか。
ちょっとすごめば、引き下がらないか。
確率は高くはないと思いますが、ゼロではありません。
監査しづらいクライアントへの対処法
このような状況があっても、クライアントに監査で問題となるような課題にはつながらないこともあります。
例えば、協力しないわけではないが、監査チームメンバーに礼儀作法や作業進捗などの規律を高いレベルで求めてくるクライアント。
合わせるのはなかなかたいへんですが、それ自体がクライアントの問題と言うわけではありません。
そうではなく、クライアントに問題があるのであれば、監査チームがいつまでも我慢しているのはおかしいですね。
監査チーム内で情報共有
まずは、監査チームメンバーが感じている「監査しづらさ」を共有しましょう。
特にスタッフが「こういうクライアントだから仕方ない」と我慢しているのに、マネジャー以上が気づいていない、ということはありえます。
「言っても仕方がない」と思ってしまわず、事実として起こっていることと自分がどんな負担を感じているかを報告しましょう。
マネジャー、パートナーは、忙しくても部下の報告をじっくり聞くことが必要。話も聞かずに「スタッフのわがまま」と切り捨ててしまうと、二度と報告してくれなくなります。
途中でさえぎらずに最後まで聞くことが、結果として問題に適切に対応できて自分の身を守ることにもなります。
クライアントに率直に話す
当たり前すぎますが、率直に話すことです。
過去に同意してしまっていて、今さらいいづらいこともあるでしょう。
「このクライアントには言っても仕方がない」とあきらめてしまっていることもあるかもしれません。
しかし、クライアントに問題があり、監査チームの負担が大きくなっているのであれば、率直に話さない限り状況はよくなりません。
いつか爆発する問題を抱えているようなものです。
当然ながら、問題が大きければパートナーしか対応できません。
いつ、だれに、どのように伝えるかを慎重に検討した上で、事態の改善に向けて覚悟して一歩踏み出すべきです。
クライアントの改善に伴走する
クライアントも突然言われて、どうしてよいか分からないかもしれません。
独立性のルールに抵触しない範囲でできるアドバイスを行い、クライアントの改善を見届けましょう。
おわりに
クライアントの問題を指摘しないことは、監査チームの負担になるだけでなく、クライアントがよりよい会社になる芽を摘む行為だと思います。
クライアントがレベルアップし、監査人の負担が減り、どちらもハッピーという監査チームが増えてほしいなと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま
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